お喋りクモ
「だ、だからお前が寝てる間に色々あって…」
「色々って、何よ。」
「いや、そりゃ…い、色々?」
「死ね。」
あれからなんと30分。その30分の間俺はひたすら謝り、一向に怒りの冷めないぷー子をなんとかなだめようとしている。
しかし、いかんせん手ごわい。女に死ねなんて言われたの始めてだから最初はショックを受けてたけど、この30分の間にまったく気にしないようになってしまった。慣れてしまった。つまり
「結局色々ってあれでしょ?どうせ私が寝てるのをいいことにあの子に背中洗ってもらったり一緒にお風呂入ったりそのまま流れでセッ「それ以上はあかん!」」
ずっとこんな感じだ。こいつもしかして変態なんじゃないの。
「とりあえずここで話しててもラチあかないし俺の体ものぼせるから、頭ん中入ってろ」
「ちょ、まだ話は」
喋っている途中だったが俺はぷー子を頭の中に入らせ、鍵をかけて出れないようにした。
ちなみに頭の中に入らせるのは「戻れ」とか「帰れ」とか思うとすぐに入れることができ、俺が「出ろ」とか思ったりぷー子が出たいと思った時に出ることができるらしい。
そして鍵は今思いつきで頭の中で作ってみたらちゃんとかかったから、どうやらこの力は脳でできると思ったことが頭の中で創造される…ってところなのかな?わかんねーけど。
何にせよこの力だけに限らずまだこの世界では謎ばっかりだから、少しずつ解明していくことにしよう。
「ん?」
そう全裸で決めた俺だったが、ある事に気付き瞬く間に顔が青くなった。
「…あいつ(ユーリ)…タオル持って行きやがった…」
そう、先程俺に張り手をくれたユーリはなんとそのままタオルを持って帰ってしまったのだ。
体を拭くタオルは無い…しかもさっきまでずっと風呂に浸かっていたから寒くて仕方ない。おまけに着替えが無いから、また着るであろう学ランやYシャツで水気を取るわけにもいかない。
困り果て考えに考えた俺だったが、ようやく一つの策が浮かんだ。
「…もっかい風呂入ろ。」
【change】
よう、いきなりだけど俺は蜘蛛だ。
まぁ一応名前もあるんだけどあんま意味ないから言わないでおく。
俺の名前はアーサー。
こう見えて結構あまのじゃくだ。
今はある旅館…縦横旅館だっけな?そんなだせぇ名前の旅館で巣張らせてもらってる。
蝶とか小虫とか色々引っ掛かってるけど、俺はそんなもん食わない。
俺はこう見えて、結構グルメだ。
自分が食うと決めたやつ以外、死んでも口をつけない。
ちなみに俺が一番好きな食べ物を教えてやろうか?
知りたくないか?
知りたくないか…じゃあ言わねぇよ。
人間だ。
特に脳みその部分が一番好きでな、あれならわんこでも行けるぜ。
え?何で蜘蛛のくせに人間食うのかって?
そんなんお前決まってんじゃねーか。
もちろん
教えねーよ馬鹿。
と思いきや湯舟に浸かった美味そうな人間発見!
体つきも良いし、なんか勝手に蒸されてるみたいだし、何より若いってのがいいねぇ。
…それにしても何で蒸されてんだ?どんだけ長い間風呂入ってたんだよ。マジ、(笑)だぜ。
まぁそんなことどうでもいいや!とりあえずさっさと食いたいからさっさと食うか!
俺はそう思って、驚かせようと思い自前の糸を使いそいつの目の前にいきなり姿を現した。
そしてこれみよがしにこの気色の悪い、あ、自分で言っちゃったよ。まぁその8本の脚をこれみよがしに開き、精一杯のキモさを演出した。
すると奴はいきなり現れた俺に驚き固まり、すぐに俺の気持ち悪さに気付き暴れだした。
…
ってなるはずだったのに
「うわ、キモい。」
まさか冷静にお湯ぶっかけられるとは思わなかった。
【change】
「うわ、キモい。」
突然目の前に糸を垂らし下りてきた蜘蛛の姿を見て俺はそう吐きお湯で追い払おうとした。
昔から蜘蛛は嫌いだが、今はそんなことよりユーリの怒った意味とぷー子への上手い説明を考えなければいけないから、急いで頭を切り替えようとした。
「熱っ」
しかし俺の頭の切り替えは突如目の前から聞こえた声により切断される事となった。
…え?今この風呂場にいるのって俺だけ…だよな?
いや、人外を含めたらここにいる蜘蛛併せて2になるんだが…まさか蜘蛛が喋るわけないだろうし。
俺はそう思い、糸が切れ床の上に落ちた蜘蛛を見てみた。
すると蜘蛛の方もこちらを見ていて、毛むくじゃらの体についたお湯が冷や汗に見えんでも無いような感じだった。
「……」
まさか…
「お前が喋ったのか…?」
俺が言い終わった数秒後、目の前の蜘蛛はこちらを見ながらゆっくりと首を横に振った。
【change】
ヤ
ヤッベー!!あまりにも理不尽に湯かけてくるもんだから露骨に声出しちまったよ!!
露骨っつっても聞き取れるか聞き取れないかくらいのでかさだったけどこいつ気づいて…
めっちゃこっち見とるーー!!
そりゃそうだよね珍しいよねこんな蜘蛛いるわけないよねだって話すんだもんね!?
だけどまだこいつも完全に疑ってるわけじゃなく空耳との考えも頭の中に浮かんでいるっぽい。その証拠にこいつの目は半信半疑だ…今ならまだ間に合う!
「お前が喋ったのか…?」
俺は急いで、且つ冷静にその場を離れて何事も無いように逃げようとしたけど、不意に話しかけてきた人間にテンパりつい動けず、そのまま首を振ってしまった。
って馬鹿か俺はー!!?普通の蜘蛛は首なんか振らないましてやあそこで立ち止まったりしねーよ!!
「…やっぱりお前言葉が…!?」
うるせぇ!
とにかくこの場を離れよう!俺はその一心で人間の言葉も最後まで聞かず8本の脚を最速で動かして風呂場から抜けて脱衣所に入った。
…
来ないな…
あーびびった…俺がびびるなんて何年ぶりだろな…?
でも…
俺をびびらせた借りはでけぇぞ畜生…
おまけにこの俺に湯まで浴びせやがってあんにゃろうめ
お前は絶対、今日のディナー決定!
このアーサー・ゴッド…
別名dog。
S級魔物に喧嘩を売ったこと、後悔させてやるよ!
俺はこれからの計画を立てながら、ゆっくりと蜘蛛から猫に[擬態]した。