茶柱
どうする…。
やはりこの病室に入る前の俺の勘は当たっていた。
この娘はやばい。
何で最初に気付か無かったのだろう。今となっては扉を開いて逃げることも一つの手段として頭に浮かんできた。
……
いや
何を考えてるんだ俺は…
確かに得体の知れないといえばそうであるが、目の前にいるのは俺の半分の歳にも満たないくらいの娘じゃないか。
それに俺には格闘技で鍛えたこの肉体がある。例え刃物を持って襲い掛かられても、怪我一つすることなく迎撃できるだろう。
そう思った俺は先程までの臆病だった自分を鼻で笑い、ポケットから煙草を取り出して口に銜えて火を付けた。
「タバコ」
……は!?
目の前には、少しムッとした顔で俺の顔を睨む氷上 しぐれの姿。
この娘はついさっきまでベッドに座っていた筈だよな!?しかも俺が目を離したのは煙草をつける1、2秒だけ
…は?は!?
いつの間に動いた!?しかも…
もしも氷上しぐれが危ない思想の持ち主だったら、今の間に俺は…
そう…思ってしまった。
人間は一度その人物に対して恐れを抱いてしまうと、その先どれだけ虚勢を張ろうと強くなろうと、その人物の前では足がすくんでしまう。例えば、昔自分をイジメていた子供にはいつになっても頭が上がらないようなもの。
だから、恐れてはいけなかった。自分自信を見失わない為にも、恐れてはいけなかった。
それなのに…
「禁止ですよ?」
俺は煙草を口から外し、携帯灰皿の中に捨てた。
「それで…私に何が聞きたいんです?お巡りさん。」
落ち着け…
頭を上げろ俺…
目の前の人物をよくみろ、ただの華奢な女の子じゃないか…
俺はそう自分に言い聞かせ、氷上しぐれと視線を合わせた。
「?
こんにちは」
再び普通に挨拶をされただけ…それなのに
何故か俺の足は小刻みに震え、手の平にはじわっとした汗をかいていた。
俺が震えて声が出せないでいるのを見た氷上しぐれは小さくため息をつき「またか…」と呟いた。
「とりあえず座って下さい…今お茶でも入れますから。」
そう言い俺を小さな椅子の前に移動させ、氷上しぐれはポットとコップを取り出した。…こんな状態の俺の喉は、茶を通すことができるのだろうか?
「ルンル〜ン」
俺は言われるがままに椅子に座り、鼻歌を唄いながら茶をコップに入れる氷上しぐれの背中を見た。
…後ろで纏めた髪、女性らしい細い腕、患者服を着ててもわかる締まった腰に足。
こうしてみると後ろ姿だけでも美人と解るほどの端麗な体の持ち主だと言うことがわかる。
…と思っていたら茶を入れ続けている氷上しぐれが、俺に聞こえないくらいの声で口を開いた。
「人の体じろじろ見んなよ…」
すると氷上しぐれは突然こちらに向き直り、手と手をポンと叩きながら
「やっぱりポットのお茶よりも急須で入れた方が美味しいですよね!」
と言った。
この時には俺の恐怖心も屈託の無い笑顔を振り撒く氷上しぐれに少し和らいでいていた。
「いや俺は別に茶は…」
するとその瞬間またもや氷上しぐれはいつの間にか目の前に来ていて
「ちょっと聞き取りづらかったんで、もう一回言ってもらえます?」
と言った。
俺は即座に
「急須がいいです。」
と、額にじっとりとした嫌な汗をかきながら答えた。
「よろしい。」
氷上しぐれはそう言ってまた鼻歌を歌いながら、ベッドの下から急須と茶葉を取り出した。
何故そんなところに急須と茶葉が…?という当然の質問が頭に浮かんだが、口には出さなかった。
しかし…
「この茶葉家から持ってきた高級なやつでしてねー、とっても良い香りがするんですよ。」
こうして氷上しぐれをよく見ると…
「優もこのお茶が好きでね、初めて飲んだ時なんか「姉ちゃんが美味いお茶を入れるなんて!!」って驚いてたんですよ!失礼ですよねー。」
…なんか
「はい、できましたよー…あ!!」
「茶柱が立ってる!!!」
あまり…怖くないな。
俺は茶柱が立っていただけで大はしゃぎする氷上しぐれを見て、ふとそう思った。
…どうも!エスエスです!!
しかしこうしてみるといつの間にか自分の小説にもポイントをつけてくれたりお気に入りに入れてもらえたり…
なんか自分でも信じられませんw
お気に入り登録をしてくれている方や感想を書いてくださる方
本当にありがとうございます^^
こんな駄文ですが、これからも暖かい(←誤字)目で見ていただけたら、俺はもう興奮して夜も眠れません。
では、以上。エスエスがお送りしました。