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旅館合宿


俺がカインに起こされた後もまだ二人は時々睨み合っては「フン!」みたいな感じでそっぽを向く状態だったので、俺は無事に町に着けるかがやたらと心配だった。

でもここでいつまでもいがみ合ってても仕方ないと言う事を言ったら二人は渋々納得してくれたので、俺達は先頭にカインとユーリ、その後ろを俺とぷー子が着いて行く状態で町に向かい歩き始めた。


「何でお前ら初対面なのに喧嘩してんだよ…。」


鬱蒼と茂った森の中の獣道を進んでいる途中、顔に掛かった蜘蛛の巣を手で払いながら前の二人(特にユーリ)に聞こえないように、俺はぷー子に尋ねた。だが、直ぐにそれが過ちだった事に気付いた。


「知らないわよ!!」


はいやっぱり!予想通りの答え!俺が小声で喋った意味まるで無し!

そして突然のぷー子の大声に足を止める二人。後ろに向き直るユーリ。こらカイン震えてないでお前もこっち見ろ。


「…?」


何も口にせず、ただ俺の方を見て小首をかしげるユーリ。成る程、何を話してたか俺から説明しろと?…口が裂けても言えんわ。

俺が見つめられながら返答に困って嫌な汗をかいていた時、ぷー子が助け舟を出してきた。


「何でも無いわよ。だから前向いて案内してくれない?」


…まぁ多少言い方に刺がある物の、無難な答えだ。これで何とか事なきを得た筈だ。

…うん…だから…俺の目を見てないで早く前を向いてくれ…。



ぷー子の発言がまるで聞こえないかのような見事な無視をし、ユーリはじっ…と俺の返事を待っている。何?あくまで俺が言わなきゃ駄目なの?

まぁ…適当にごまかすか。俺の隣で無視された事で怒りが溢れ出してきているぷー子がまたユーリに何か言う前に。


「ぷー子の言う通り何でも無いって…。だからユーリも早く前向いて、カインと一緒に夜になる前に俺を町まで連れて行ってよ。」


何だこの自己中発言…これならまだ普通に正直に言った方がましだったな…。

俺はそう思い来るであろうトーキックに備えて身構えていたが、ユーリの足は直立不動のまま。俺(Jr.)に襲い掛かる気配は無い。

不思議に思って顔を上げてみると、俺は顔の真っ赤になったユーリと目が合った。

だけど俺には、この顔は怒って赤くなった訳じゃ無いように見えた。


「……私も…」


じゃあどんな訳で?そんな事を考えていると、やっとユーリがその口を開いた。


「…優…って呼ぶ…。」




「着きました…ここが首都の、ドーナツタウンです…。」


時間にして約19時、案の定夜になってしまったが俺達3人は疲弊し切った体ながらも、どうにか森を抜けて町に辿り着くことができた。

何故3人なのかと言うと、1時間程歩いた頃にぷー子が木の根に引っ掛かり転んで足を擦りむいてしまい歩けないとの事で、そういえばぷー子はこの世界に具現化した俺の相棒だったと言うことを思い出し、一時具現化を解いて俺の心で休ませておいたからだ。

そしてぷー子が消えた途端にユーリが俺の隣に場所を変えた理由はわからないけど、特に拒む理由も無いからそのまま歩き続けたのはまた別の話。

まぁ、それはいいとして…


「ああやっと着いたのか…案内ありがとう。カイン、ユーリ」


首都ってだけあって流石でっけえな…それにしても何で首都なのにタウンなんだよ…。

…なんてくだらない事考えてる余裕無いよな…どうせ俺の持ってる金なんて使えないだろうし…異国ならともかく、異世界だもんな…当たり前か。

…と俺が夜をどうやって過ごすか考えていると、カインが嬉しい提案をしてくれた。


「師匠どうせお金も知り合いも無いでしょうから、今日俺ん家泊まりますか?師匠疲れてるでしょうから…」



そのカインの提案は、正に俺からすれば棚からぼたもちを形にしたようなことだったので俺は二つ返事でOKしたかったのだが、何故か俺の制服を先程から掴んで話さないユーリがおもむろに言った言葉を聞いた瞬間


「…うちに泊まって…。」


硬直してしまい、返事どころでは無かった。


落ち着け。冷静になれ俺。きっとこれはユーリの空気を読まない冗談なんだ。適当にあしらってここは一刻も早くカインの家に迷惑にならなくては…と思ったけど目がマジだよこの娘…。

この娘には事情を話してない。だから俺は偶然森の中を歩いていたら目の前に現れた得体の知れない変な男…とユーリの目には映る筈だ。

それなのに俺(とぷー子)をカインと共に町まで送ってくれたり、俺のことを名前で読んだりした揚げ句、果てには家に泊まっていけ?

このユーリって娘…最初のイメージが強すぎてカインと違って怖い印象しか持ってなかったけど…














前言撤回この娘もちょっと(良い意味で)バカっぽい。




「………って旅館かい。」


あの後、俺はユーリの心遣いをどうやってやんわり断るか考えていたが

「帰った…」

のユーリの言葉とともに周りを見渡せば、後ろには先程までいた森、そしてこの場にはユーリと俺と、本来いる筈のカインの消えた2人しか居なかった。

何故このタイミングで帰った…。


いろいろ不満もあった俺だが、唖然としていた俺を見てユーリが俺に放った「そんなに…嫌?」の一言に良心が痛み、むしろこの場で嫌がるのは普通あなたの方では?など考えながらも結局ユーリの家まで着いて来てしまい今に至る。

あまりにもの大きさと看板に書かれた[縦横(じゅうおう)旅館]というネームセンスの二つに驚愕しながらも、俺は勧められるがまま縦横旅館の中に入ってしまった。


そして俺は、この時まだ知らなかった。この後旅館の中で起こる数々の悲劇も、先に帰ったカインが自室で一人、悲しみで枕を濡らしていたことも…。



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