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2時間戦争




俺の天才的な閃きによって先程までの騒動は一時冷却化されて今は最寄の町まで案内をされているわけだが、カインを追い掛けてきたという理由で遭遇したユーリというこの女の子。

これがまた中々のくせ者だった…。





「…なんで逃げるの。」


「いや、ユーリそれはな、」


「言い訳なんていらない。」


「(無茶苦茶や…)」


来た途端にその涼しい顔には表さないが明らかに怒っていることがもろばれの女の子に、それに対して挙動不振になりながら謝っているカイン。


どうやらカインは見る限りではこの女の子に頭が上がらないくさい。


まぁわかるよ…。だって


「でもユーリ…俺はお前を守ろうとして…」


「言い訳なんていらない。」


「師匠がdogだと思ったから…」


「いらない。」


凄く…恐ろしいですもの。


そう思いながらカインがいないと動くことのできない俺は二人の口喧嘩…もとい説教を近くでぷー子と並んで見ていたわけだが、先程からぷー子の様子がおかしい。

時折こちらを見ては視線を戻し、耳まで届きそうな程顔が赤い。

友人が言うにはこれが俗に言うフラグが立つということらしい。…だからフラグってなんだよ!?


そういう感じで横目でぷー子を見ていたら、不意に二人を見ていたぷー子の顔から赤みが消え、俺を横目で見上げながら(まえ…まえ)と口を動かした。


まえ…前?


「!」



ついさっきまでカインを叱っていた筈の女の子が手を後ろに組み、俺の前に立っていた。


そしてこの娘も顔が赤い…フラグ立ってる?さっきまで氷点下に辿り着きそうな目をしていたのに。


「…………あ…」


女の子は俺の方を見て何か話そうとしたが、俺と目が合った瞬間に更に顔が赤くなり、それを隠すかのように言葉は止まり顔を下に伏せた。

……ちょっとちょっとこの娘俺に惚れてんじゃないの!?


「…………ゅ……ぁ…」


と、思っていたら、目の前の女の子は俯いたまま何か小さくボソボソと話していることに気付いた。


「何て?」


「…私…ユーリ…って言う…ます。さっき…助けてもらって…あ…あり……。」


「(言うます?……蟻???)」


声が小さすぎて全く聞き取れないわけなんだが、なんだか聞き直すのも悪い気がして


「ア…アハハハ!アハッハハハ!」


ごまかし笑っといた(笑)



「師匠…つまりユーリはこう言いたいんですよ。「「私の名前はユーリです、さっきは助けてくれてありがとう。好きだよ。」」って。」


「そうなの!?」


しかしその返事が返ってくることは無く、俺がそう言い終わるころにはユーリと呼ばれた女の子が顔を真っ赤にしながら瞬時にカインの股間に蹴り上げを叩き込んでいた。


「違う…!!」



そしてその女の子、ユーリは時折ぴくぴく動く屍。もといカインには目もくれずにこちらを見た。


「嘘…。」


なにが?

自分が言ったことが?それともカインが言ったことが?と、いくつも質問が浮上したわけだが、


「へ、へへへぇ……。」


その言葉が俺の口から出ることは無かった。

だって…下手なこと言ったら俺(の息子)まであの美脚の餌食になってまうから。カインもとい跳んで金魚バチから出てしまった金魚のように時折動くがやがてぴくりともしない屍になってしまうから。長いな。


「また個性的な人が来たわね…。」


すると今の今まで黙っていたぷー子が俺に話しかけてきた。


「ああ…この国ってこういう子達ばっかなの?」


「知らないわよ。」


自分から話しかけといてそんな。

そう思いながら視線をユーリの方に向けると


ん?………

………!!


そこにいたのは先程までの顔を赤くした可愛らしい少女では無く、鋭い瞳でぷー子を睨みつける凶女だった。



思わず二度見しちまった…だってなんか別人みたいなんだもん。

しかも俺がこんなに近くで見てても気づかないってことは、そうとうぷー子のことをガン見してるっぽい。


どうやらぷー子もその視線に気付いたらしく、先程までの暇そうなトロンとした目が開かれ、ユーリと向かい合った。


「…何?」

「あんたが先に見たんでしょ?何?」

「……別に。」

「何よ。言いたいことがあるならいいなさいよ。」

「…別に。」

もうなんなんだよ?

この世界は常に誰かと誰かが争うように作られてんのか?

目の前で繰り広げられるぷー子と沢尻エリカお嬢様、もといユーリの激しい攻防(クチゲンカ)を見てるとつくづくそう思うわ。


そして俺は二人が騒いでるうちに、今だ動かないカインへと近づいた。


「も、もしもーし…生きてる?てかちゃんと付いてる?」


動かないながらに両手で股間を守るように覆うカインの姿を見たら、何故か涙が出てきた。なぜなら今カインが味わっている痛みは俺も自転車で急ブレーキ踏んだ時とかによく直面するものだから。


まぁこいつの場合トー(つま先)キックだったからそれどこじゃねーか…



そうしてカインが起きるまで女二人の様子を遠目で見ていると、不意に目を覚ました。


「うぅ…まだ股間が熱々の肉まんを勢いよく喰った時の舌の如く焼けるように痛い…。」


どんな例えだ…。


「おはよう、君が起きるのをずっと待ってたよ。」

「ん…ああ師匠、おはようございます。…ところで」


そしてカインはぷー子とユーリの方を一瞥して

「どういう状況ですか?」

「わからん。とにかく止めて、案内して。」

「え゛」


そりゃ え゛ も言いたくなるよな。だって怖いもんな。

さっきのカマキリなんかよりこっちのが全然怖ぇーよ。


「な?頼むよ。あのユーリって子はお前の方がよく知ってんだろ?」


そういうとカインは一度悲しそうに顔を歪めた。

しかし俺に見られたく無いのか、その顔をすぐに冗談混じりの苦笑いに戻した。


「知ってるからこそ止めようと思えないんですけどね…。」


俺はさっきのフルボッコつま先キックを思い出して、「あぁ〜…。」と頷くことしかできなかった。


それから争いが治まるまで俺達は二人で静かにその様子を見守っていた。だけど、俺はその間ずっとさっきのカインの表情の意味を考えていた。




女同士のディベートが終わったのはそれから2時間後のことだった。その時、俺は既に寝ていた。



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