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悪くない


「師匠!!姉さん!!こっちです!!」


「……」


『……』


現在誤解を解いた俺はカインと名乗るこいつに町までの道案内を「是非!!」と言われたので頼むまでもなく着いて行っている。

(後から存在に気づいた俺の隣にいたぷー子を、一目見ただけで姉さんと呼ぶのはその美しさ故だろうか)


それにしても、こいつの態度の変わりよう…


理由もわからないが、先程の殺意に満ちた表情は顔から消えうせ、なんの真実味もない話しを少ししただけで声のトーンが上がっている。


やっぱりこいつ馬鹿なんだな…


そう思ってはいるけど、町までの道案内という仕事を進んでやってもらっている立場な手前、あえて言わないようにしている。


が……


「いやー!それにしても…師匠にはビックリ!させられることが多いすなぁ…。

最初は…本気でDOGだと思ってたんすよ!?むしろその強さで人間っていうことの方が信じられないくらいで…実際B級魔物のササガネムシャの腕を一瞬で引きちぎったんすか………!?」


突然揚々と語っていたカインだったが、何かに気づいたかのように足を止めこちらに向き直った。


案内しろ。


「そういえばあれってどうやって腕もいだんですか!?切り裂くにしても道具なんて持って無いし、ましてや師匠はスクイード国にやってきたばかりなんでしょう!?まさか魔法が使えるわけも無いし…一体どんな方法で!?」


テンション高ぇ…



しかしそれまで豹変したカインに対してドン引きを通り越して無関心、時折カインが喋るときだけ絶対零度の本気で興味が無いもの、虫けらを見るそれと同じ視線を浴びせていたぷー子だったが、カインのその言葉を聞いたとたんにいつもの顔に少し疑惑がかった表情を浮かべ、意外にも話に乗ってきた。


『それが私もさっきから思ってたのよね…優がもし本当にその日本っていうこことは違う次元の国から来たのなら、優は魔法が使えるのか、身体能力はどうなるのか、なぜ私、ぷー子が生まれたのか…今は疑問ばかりが浮かんで、答えは全て沈んだまま…。』


久しぶりに喋ったと思ったらなかなかの長文を繰り出してきたぷー子だったが、俺はそれ以上にあっけに取られた顔をしたカインに興味が湧いた。


「お前、なんて顔してんだ。」


俺のその一言で我を取り戻したかのようにハッとした動きをしたカインは、まだ驚いたような顔でぷー子を見ていた。


『…何よ?』


「凄く…綺麗な声っすね…」


そんなことを抜かしやがった。


確かにぷー子の声は綺麗だ。例えるなら、綾波に感情が灯ったような。性格と反して、声だけ聞いているとまるで聖母のような、大人しく、優しく、弱きに手を差し延べるそんなイメージだ。初見は皆必ずそう思うに違いない。


ところがどっこい!


『…な…』


「綺麗なだけじゃない…気品もある!

声も美しく容姿も端麗!師匠もさぞかし自慢できる相棒を持ちましたね!!」


『ば……』



「師匠もなかなか…いや、よくみたらかなりハンサムだし、これなら姉さんと師匠二人で並んだらカップルと間違えられちゃうんじゃないっすか!?


なんせ師匠は格好いいし、姉さんは可わい…」


こいつはそんなに甘くない。


『馴れ馴れしいのよ!!この馬鹿!!』


決め台詞とともに、激辛パンチがカインと俺(!?)に叩きこまれた。



女に殴られるなんて、いついらいだっけな…たまにゃあ悪くねえ…


あ、嘘やっぱ痛い!痛てて!


俺がそんなことを考えていると、ずんずんとぷー子が近づいてきて俺の前で立ち止まり、倒れている俺はそれを見上げる形になった。が、すぐに目を伏せた(ぷー子は最初会った時から身に着けてた黒のミニワンピースなのでスカートの中が丸見えなのだが、それを見ると大切な…何か大切なモノが壊れてしまいそうなので)。


『ダッ………ダレが可愛いですって…?言ってみなさい!優!!』


なぜ俺!?


俺は上を見ないように気をつかいながらやんわり答えた。


「俺に言われても……でもカインが言ってた可愛い姉さんってのは、ぷー子のこと……」


『嘘つけぇえ!!!』


そういって本日二発目のボディブローが俺の内臓やらいろいろな重要器官を押し潰す感覚がしたが、感じなかったことにしよう。


いや……やっぱ…痛…い…


「師…………師匠ぉぉぉおおお!!」


こっちを見ながらそう叫ぶカインを見ながら、俺は指でGOOD!!サインをしながら


「あと……頼むわ……」


そういって崩れ落ち…ようとしたところをぷー子に頭を両手で捕まれ、倒れることさえできなかった。


後ろではカインが泣きながら師匠師匠叫んでる。


『あああアンタ、最初私を見た時は散々言ってたくせに、いい、今更何、か、かかか、かか可愛いとか言ってるのよよ…?』


なんだこいつ…そんなことどうでもいいだろう…だいたいなんでそんなこと…


ピーン!(体中の疲労と言う疲労が消え去り、天才的な閃きが生まれた効果音)


そうだよ…


俺は何を忘れていたんだ…


この目の前の殺戮虐殺娘…この娘にはもうひとつの名前があるじゃないか…!!


その名も…!!





ツンデレ美少女ぷー子!!




そうと決まれば簡単だ。ぷー子…ツンデレの対処法なんて、少し厳しく言ったあと優しくしてやるとフラグとかなんとかが立つって中学の頃のぎゃるげって言うゲームが好きな友達が熱心に語っていたのを覚えてる!


フラグが何かわからないけど、来た!


『ほほほら、早く答えなさいよ!』


「ふっふっふ…」


突然上がった俺の笑い声により、ぷー子の頭を揺らす腕と、カインの悲痛な叫びが止まった。


「ぷー子…」


『なななによ』


「確かに俺は最初お前に会った時、不細工だと思った。本気でゲ●吐くかと思った。こんな顔が生まれるなんて、世界の終わりだと思った」


『……え…』


「師匠…それは…」


「まだ俺のいた中学校の不細工なやつらの方がいい線行ってた。それほどにお前の顔は醜かった。」


『……は…はは……』


不意に、ぷー子の手が頭から離れ、今にも泣きそうな顔になり、行き場を無くした両手は、宙をさ迷っていた。


『…だ…だよね…可愛くないよね私なんか…!はは…何一人で熱くなってたんだろ…』


「いや……


お前は可愛い」


俺がそう言った途端、ぷー子の目が急に鋭くなり、その目が俺を捕らえたと思ったら、目にも止まらぬ速さで詰め寄ってきた。


手は宙に浮いたままで…。


『あんたが……優がさっきから言ってること、無茶苦茶だよ…!!慰めとか哀れみなら言わないでいいから…正直に言って…』


言ってるうちにぷー子の目の鋭さは徐々に消えて行き、もはや泣きそうになっていた。


………


ここや!!



俺はぷー子の両手を自分の両手で包みながら、優しくこう言った。


「  悪くない  」







これでこの騒動は終わりを迎え、俺達は無事町に着き、日本に帰る方法を考え…………





る筈だった。





「ユーリ……」




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