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第八話 これからどうするか

「う〜ん? 

 ……はっ!」

 

 あ、起きた。


 いきなり私たちのところに襲撃して、仰々しい口上を述べて、いざ戦おうと言う時に、瓦礫に転けて気絶した自称魔王の娘が。


「あ、あなた達! 私に何を! この拘束を解きなさい!」


「いやだよめんどくさい」


 もう私たちはさっきの緊張感はすっかり無くなり、彼女が目覚めるのを待つ間もう1回紅茶を入れて一服していた。


「ちょっと! 何くつろいでんのよ! 卑怯な手で私を嵌めて! 恥ずかしくないの!?」


「何言ってんのよ。あんたが勝手に転けたんでしょ?」


「うぐ!」


「だいたいそんなヒールの高い靴履いてくるからでしょ? 何で決戦の日にそんな履き慣れない靴履いてくるのよ」


「だ、だって、この方が魔王感出ると思って……」


「ファッションとしてチョイスしたの? それ?」


「むぅ〜!」


 もはやぐうの音も出ないらしい。若干涙目になっている。


「くっ! 殺せ!」


「まさかそのセリフ本当に言うやつがいるなんて……」

 

 女騎士なのか、魔王なのかはっきりしなさいよ。

 

「だいたいさ。あんた何しに来たわけ?」


「な! さっきも言ったでしょう! 私は父の無念を晴らすために……」


「嘘よ」


 私ははっきりと口にする。


「あなた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「っ!」


 違和感はあった。戦おうと向き合ったあの瞬間。臨戦体制ではあったけど、どこか彼女にやる気を感じないというか、取り繕っているように思えた。

 復讐を誓った娘の発言にしても言葉に重みを感じない、用意したセリフをただそのまま言ったような、どこかちぐはぐとしていた。


 彼女は私のこの発言に面食らったように両目を見開いた後、しばらく黙り込んでから口を開いた。


「はぁー。そこまでバレてしまっているのね。ならもういいわ本音を話します……。

 勇者マイ、私はあなたに、()()()()()()()()


 こうして、魔王の娘を名乗る少女、クロエは語り出した。

 ここまでの経緯を。





〜幕間〜

 私の母は人間だった。


 魔王軍に故郷を侵略され、奴隷として魔王城に監禁されたと聞く。毎晩のように魔王である父に犯される。そんな生活だった。


 そしてある日子供を身籠った。それが私だ。


 母はそのまま魔王城で私を出産した。

 だが、父はそれを快く思わず、私たちを城から追い出し、母は私を抱えながらあてもなく彷徨った。


 そして偶然、村を見つけた。

 幸い私は当時角も羽も生えてなかったから、人間の子供だと偽ることができて、村の人たちは身寄りのない私たちを見て優しく受け入れてくれた。

 そこから私は14年間、村の人たちの支えもあり何とか生活していた。

 私にとって幸せな時間だった。

 

 けど15歳になる頃状況が一変した。


 私の頭に山羊のような角が、背中に蝙蝠のような羽が生えてきた。


 村のみんなに魔族であることがバレ、今まで優しくしてくれた村人達は目の色を変えて私たちを罰し始めた。


 私たちは村から逃げるしかなかった。


 母はその頃体調を崩していた。ずっと家の中で過ごすほど病気が重かった。そんな状態ではとても逃亡生活は耐えられなかった。暫くして母は力尽き、息を引き取った。


 私は一人彷徨い続けた。行く当てもなく、人目を気にして光の当たる場所を歩けなかった。


 そしてたどり着いたのがあの森だった。そこで出会った鬼熊(グレートベア)に、角と羽と共に覚醒した私の技法(スキル)で命令した。


「誰もここに近づけないで。近づくやつはみんな殺していい」


 そして鬼熊(グレートベア)に命令した後、暗い洞窟の中、ずっと独りで自問自答を続けた。

 

 私は何のために生まれたのだろうか?

 私は生きていていいのだろうか?

 私なんかが生まれたから母は不幸になったのだ。

 

 そんなことを暫く考え続けて、ついに私は命を絶つことにした。もうこんな地獄から解放されたかった。

 そう思った時、鬼熊(グレートベア)が誰かに殺された。

 

 調べるとかつて父を殺した勇者マイであるとわかった。

 その時、父を殺した勇者マイのことが無性に気になった。

 正直父のことはどうでも良いい。私たちを捨てた男だ。どうなろうと知ったこっちゃない。

 でもその力だけは本物のはずだった。その父を倒した勇者、一体どのような人間でどれ程の実力を持っているのか。私は最後に知りたくなった。


 そして私はどうせ死ぬならと、そう思って森を出た。勇者をこの目で確かめるために、そして私の人生を終わらせるために。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 


「以上が私のこれまでの経緯よ」


 彼女はひとしきり語った。今までどんな人生を歩んできたのかを。


「じゃあやっぱりここで死ぬために来たと」


「そう……。戦ってもし勝ったら、何か変わるかもって言う思いもあったけど、どうせ死ぬならあなたに殺された方が、華があると思ってね」


 彼女は自嘲気味に言う。


「まあ、結果は散々だったけど。やっぱり慣れないことはしない方がいいわね……。さあ、今すぐ殺しなさい。言っておくけど、同情して解放する、なんてことは考えないことね。

 もしここで私を見逃したら、ここを出て行って私の存在を全世界に知らしめる。そうすれば父が死んで息を潜めていた魔族達は一斉に立ち上がり、私の下に集い、人と魔族の戦争がもう一度始まる。そうなりたくなかったら今すぐ殺しなさい」


 確かにその通りだ。ここで彼女を見逃すことは人類を脅かす結果になる。私が取らなくてはいけない選択肢は1つだけだ。


「いいわ。お望み通り、殺してあげる」


 私は聖剣を抜き、彼女に向かって突きつける。


「それでいい……。せめて一瞬で終わらせてくれる? もう苦しいのは嫌なの」


「ああ、痛みすら感じない」


 そう言うと、彼女は頭を下げ、自分の首を差し出す。私はそれに答え聖剣を大きく振り上げる。そして聖剣を振り下ろす……。





「待ってください!」




「「!?」」


 だがその前に、なんと私とクロエの間にマルクスが割って入ってきた。



「ちょ! ちょっと! マルクス!」


「殺すのを待ってください先生!」


「はぁ!? あんた! 話聞いてなかったの!? 私に同情して、解放なんてしようものなら私は戦争を始めるって言ってんの!」


 クロエはマルクスの行動に、顔を真っ赤にしながらまくしたてるように言葉をぶつける。


 それに対し、マルクスの表情は終始穏やかだった。


「あなたはそんなことはしません」


「な!」


 マルクスは彼女と向き合う。その瞳には優しさが温かさが宿り、その奥に悲し気な色が滲んでいた。


「あなたは多くの人に見捨てられ、自分の大切な人を失った。あなたは沢山苦しんだ。その時、意図しなかったとはいえあなたの手元には世界に復讐するだけの力が握られてたはずだ。でもあなたはそうしなかった。そうはせず自分の命を終わらせる方を選んだ」


「ふざけないで! そんなの気まぐれにすぎない! そんな曖昧なことで私を知った風に語らないで! あなたに私の何がわかるって言うの!?」


「わかりますよ。かつて僕もそうでした」


 マルクスもここに来るまで多くの苦しみを経験した。

 だからこそ彼女を見捨てられなかったのだろう。


「誰にも必要とされない、誰にも愛されない、常に独り、それは無限に続く地獄です。誰だって終わらせたいと思うでしょう」


 マルクスはこちらを振り向くき、私の顔をみつめる。


「でも、僕は変われたんです。先生のおかげで。自分にも価値があるんだと、生きていていいんだと先生から教わりました。僕は本当に運が良かったんです。

 だから、あなたにも諦めてほしくないんです。諦めずに前へ進み続ければきっとあなたも誰かに必要とされる日が来ます。それを今ここで手放さないでください!」


 彼女はその言葉を聞き、俯く。


「わ、私にそんな人現れるわけ……」


「きっと現れます。それまで僕があなたの支えになります。僕を救った先生のように、あなたの価値を僕が証明します」


「っ! うっ……、うわぁぁぁあ!」


 彼女はその言葉に大粒の涙を流しながら泣き続けた。

 そこに魔王の娘としての威圧感は微塵もなく、ただ年相応の女の子の姿があった。

 

 そしてマルクスは彼女の拘束を解き、泣き止まない彼女を抱き寄せる。かつて私がしたように。







「さて、じゃあこれからどうするかについて話をしましょうか」


 暫くして私が話を切り出す。

 クロエはひとしきり泣き、落ち着いた。


「まずクロエ、正直あなたをこのまま見逃すことはできない」



 彼女は魔王の娘、しかも『魔王特権』が覚醒している、下手に野放しにすることはできない。


「だからここで全て終わらせる方が手っ取り早い。でも……」


 私はマルクスを見る。必死な目で私に訴えかけてくる。


「それはうちの愛弟子が許さない。ならばどうするか。クロエ・ロジーナ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


「ええ!?」


 クロエが驚きの声を上げる。


「いや、でも、いいの? 私なんか匿ったらそれこそまずいんじゃあ……」


「まあ、何とかなるわ。むしろ私の目の届くところにいた方が私としても助かるしね」


 この子の力を正しく使えるように育てて、いつかこの子も英雄にでも慣ればみんな受け入れてくれるでしょう。


「というわけで、今日から弟子一人追加!」


「やったー! よろしくお願いします! クロエさん!」


「っ……! もう! 今更後悔しても遅いんだからね!」


 こうして二人目の弟子ができた。これから3人の修行の日々が始まる。





「"爆ぜよ(ショットボム)"!」


 クロエが私の弟子になってから翌日、私たちは修行中だ。クロエに敵と見立てた人形を5つ用意し、それに向かって魔術を打ってもらっている。


 クロエが打った爆ぜよ(ショットボム)は五発とも全て正確に……。


()()()()()()()()()()


「うわーん!」


 この子は魔術の才能は天才的だ。しかし、今まで魔術を習っておらず、魔術の扱いが素人同然だ。私たちに打った攻撃も偶然成功したらしい。


「で、でも! 核炎魔術を扱えるということは、それだけですごいですから!」


 マルクスが必死に擁護に入る。

 

「そ、その通りよ! 私には強力な技法(スキル)があるんだから!」


 技法(スキル)? そっか、だから4属性使えるのか。


「で? なんて技法(スキル)なの?」


「ふっ。聞いて驚きなさい。()()()()、『魔術王』よ!」


「「……。」」


「なんか言いなさいよ!」


 クロエは必死に訴えかける。


上位技法(アドバスドスキル)よ! 上位技法(アドバスドスキル)! その中でも『魔術王』は4属性の魔術を習得できる強力な技法(スキル)なんだから! 国内でもこの技法(スキル)の習得者は宮廷魔術師に何人いるかなんだから!」


「で、でも……」


 マルクスは私を見つめる。


「私はその上、『魔導王(ソロモン)」』を持っているからね。あなたの力が霞んでいるのよ」


「な! 一緒にしないでよ! そもそも誰でも究極技法(アルティメットスキル)』が使えると思わないでくれる!?」


 クロエは若干半泣きになりながら答える。

 確かに究極技法(アルティメットスキル)の習得者は歴史的に見ても数人しかいない。それを複数所持ともなるとさらに少なくなる。


「でも魔術戦においては強い技法(スキル)は必要不可欠。クロエ、あなた目標は、『魔術王』を進化させ、究極技法(アルティメットスキル)にすることです」


「ええ!」


 クロエが驚いてひっくり返りそうになる。


「そ、そんなこと無理に決まって……」


「いや、理論上は可能よ」

 

 実際技法(スキル)上位技法(アドバンスドスキル)に進化することは珍しくないし、歴史上、究極技法(アルティメットスキル)に進化することもないわけじゃない。

 

「でも、それだって偶然に近い例じゃあ……」


「それでもやりなさい! マルクスは技法(スキル)が無くても大英雄になることを目指している。あなたにはそれと並ぶ大魔術師になってもらう」


「うー」


 クロエは不満そうだ。と言うよりできる自信がないらしい。


「クロエさん。一緒に頑張りましょう! 二人で大英雄になるんです!」


「うぐっ。あーもうわかったわよ! やってやろうじゃない!」


「その域です! クロエさん!」


「……。クロエでいいわよ……。マルクス」


「! はい! クロエ!」

 

 クロエは頬を赤らめながら答えた。早速仲良くなっているようで私としては嬉しい。二人の成長が楽しみね。

 

「さて!じゃあ食事にしましょうか!」


「げ!?」


「?」



 

 こうして私たちは修行を一時中断し、食事にした。


「な、な、何なのこれ!?」


「ん? 私の作った料理、『マイフード』だけど?」


「そもそも食べ物と呼べるの!? なんかすごいドス黒いんですけど!?」


 クロエは私の料理を見るなりそんなことを言い出す。


「無駄です。クロエ。ここではこれを食べるしかないんです……」


「うっ。マルクスの目が完全に死んでる。

 あーもう! ちょっとキッチン貸して!」


 そういうと、クロエは何か作業をし始めた。

 すると……。


「はい! 完成! 有り合わせの食材で作った特製料理よ!」


 なんと、うちにある食材で『()()()』を作った!


「す、すごい。一体どうやって?」


「別に普通に作ったわよ。キッチンにあった野菜を使って。本当はお肉があるともっと美味しいんだけど……」


 そういえば『マイフード』を作るために食材を買い込んだんだった。


 早速、私はポトフを食べてみる。


「! 美味しい!」


「ふふん。母が病気になってから、料理は私が担当してたの。結構自信あるのよ」


 まさか有り合わせの食材でこんなに美味しいものが作れるなんて。


「マルクスはどう……、て! マルクス!?」


 マルクスはスプーンを持って()()()()()()


「マ、マルクス! 大丈夫なの?」


「は、初めて、こんな美味しい料理を食べました……。今まで奴隷として生きてきて、まともな食事を与えられず……」


「え? 今なの? そういう体験はもっと早く終わらせるものじゃないの?」


 マルクスはポトフを食べながら号泣してしまった。もうこちらの声は届いていないようだ。


「確かに美味しい、でも栄養バランスには問題あるんじゃない?やっぱり私の『マイフード』を食事に……」



「それだけは! もう! やめて!」



 ものすごい剣幕で怒られた。


「これから私が料理を作る! 栄養バランスもちゃんと考える! だからその()()()()液体をもう出さないで!」


 な! 悍ましい!? とても食品に使う言葉ではない。


「いや、でも……」


「どうしてもと言うのなら、私はマルクスを連れてここを出て行きます!」


「ええ!?」


 何でそんな話になる!? 当のマルクスはポトフに夢中で全然聞いてないし。


「わ、わかった、わかりました! もうこれは出さない!」


「ふぅー。これでこの家の食糧難が変わるわね」


 こうして、この家の食糧管理はクロエに全権を取られてしまった。

 

 この料理の腕はいいが、魔術の腕はまだまだ拙いクロエという少女。彼女は後に当代最強の魔術師になり、マルクスを支え続けるのだが、それは少し先の話……。



 余談だが、クロエに食糧管理の全権を取られたときに 『マイフード』は永久封印となってしまった。


 解せぬ。


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