第五話 弟子
「召喚されし、勇者よ。その力を王国のために使い、魔王を討伐せよ」
私がこの世界に来た時、最初に言われた言葉がこれだった。
わけがわからない。突然床に魔法陣らしきものが描かれた謎の部屋に転送され、謎の人たちに囲まれてる。その中で一番偉そうな国王らしき奴にいきなり勇者よ、なんて言われてる。
まじでなんなんの?
だってわたしは……。自室で自殺しようとしていたはずだ……。
「あのー正直意味がわからないんですけど、どういうことか説明してくれません?」
「貴様! 口を慎め! この方はグローリア王国国王、カイン・エルメイア様だぞ!」
そう近くにいた兵士らしき人に怒鳴られた。
王様っぽいとは思ってたけどまさか本当に王様だったなんてね。
「よいよい、召喚されて頭が混乱しているのであろう。
改めて余はカイン・エルメイア、グローリア王国代14代国王である。其方は魔王を倒し、世界を救済するために召喚された勇者である。名はなんというのだ?」
「……小笠原舞です」
「マイ……よし其方は今日から勇者マイだ!」
私を置いて話がどんどん進んでいる。
いきなりそんなこと言われても……。魔王を倒す? 世界を救う? 話が唐突すぎる。
「いやいや、王様、私にそんな力はありません。か弱い一般人ですよ」
「いや、そんなことはない。其方は今勇者として召喚された。故に常人には持ち得ない凄まじい能力を持っているはずだ」
凄まじい能力?
納得できず首を傾げる私に、王様は笑いかけてくる。
「納得いっていないようだな……試しに何か魔術を使ってみよ。頭の中でイメージし、それを解き放ってみよ」
魔術?あまりに非現実的な話に頭が痛くなってくる。
……仕方ない。まあ試しにやってみよう……。
頭の中に……感じるもの……炎……?
私はそれを手のひらに出現させるイメージを想像した。
すると、ボウ!っと音を立てて私の手の中に炎が出現する。
「うわっ、本当にできた」
「素晴らしい! 誰に教わるまでもなく魔術が使える。やはり其方にはすでに魔力が宿っている! もっと何か使えぬのか!?」
そう王様は興奮気味に促す。周りの連中も興味津々に私を見てくる。
確かにすごい、まさか本当に魔術を使えるなんて。
それにさっきから頭の中に多分呪文らしき言葉がいくつも出てくる。
そしてその多くが人を傷つけ、殺すことができる攻撃魔術であることがわかる。
だったらやることは1つ。
私は自分の頭に手を当ててこう呟く。
「"爆ぜよ"」
バン!
凄まじい爆発音と爆炎と共に、私は私の頭を爆発させた。
「なっ!」「きゃー!」
「うわあああ!!」
その場にいたみんなが絶叫した。
まあそりゃそうよね。いきなり自分の頭を吹き飛ばしたんだもの。
私にとってはここにくる前やろうとしていた続きをしただけ。
ちょっと予定より派手になっちゃったけど。これでようやく全て終わる。
私はそう思ってた。だけどそんな私の考えは一瞬で裏切られる。
「どう……いう……こと。
なんで吹き飛ばした私の頭がまだあるわけ!?」
私は生きていた。
確かに頭を吹き飛ばしたはず。数瞬だけ視界が真っ暗になったのを覚えている。
なのに視界が回復し、頭の感覚が少しづつ戻ってきた。
「素晴らしい! 実に素晴らしい!
それが其方の技法か! 頭を吹き飛ばされても瞬時に回復する! なんと強力な! ただの技法ではないな! おい! こやつのスキルを鑑定しろ!」
「は、はいかしこまりました」
そういうと神官風の男が恐る恐る私に近づき手をかざす。
「鑑定します。……っ! すごい! 王よ。このものには現在3つの技法を所持しております。そしてその3つ全てが究極技法となっております!」
当時の私は何を言っているのか理解できなかったが、この世界は3つのスキル区分がある。
基本的な能力を行使でき、誰でも習得可能な技法。
それより強力で、習得が難しい上位技法。
そして、習得した人が歴史上数人しか確認されていない最強のスキル、究極技法だ。
私はその究極技法を3つも持っているらしい。
「なんと! まさに最強の勇者だ!
さあ勇者マイよ! その力を王国のために使い、見事魔王を打ち果たしてみせよ!」
そう言って剣を渡された外に放り出された。
この後も何度か自殺を試みたけどダメで、やることもないから結局魔王討伐に行き、あれよあれよと言う間に魔王討伐が成功した。
「だいたいこんな感じ。わかった?」
「ひとつ質問してもいいですか?」
「なんですか?」
「なんで僕はあなたの家で目覚めて、目覚めていきなりあなたの生い立ちを聞かされてるんですかぁ!?」
彼は昨日助けた奴隷の少年。私の独断で家に連れ込んだ。
「まあ、気にすんなよ☆」
「気にしますって!」
大声で少年は叫ぶ。寝起きにしてはいい声ね。
話は1日前に遡る。
私は鬼熊を討伐し、気絶した少年を担ぎながら国王軍と合流し、この子を私の家で引きとると相談を持ち掛けた。
すると、
「ダメです」
きっぱりと断られた。
「いいじゃない。どうせ彼らは身寄りがないんだから一人くらい私が引き取ってもいいでしょ」
「ダメです。彼らには適切な宿舎と、適切な職業を斡旋するという決まりがあるのです。そこに例外はありません」
私に高圧的な態度を取るこの男眼鏡のわからずやはレイブン・クレファス。
ハンスの側近で、ハンスが抱える近衛兵団の団長だ。
ハンスの近衛兵団はハンス直々に選んだ精鋭部隊。数こそ少数だが、恐らく王国最強の軍隊だと言っていい。
ハンスの人をみる眼だけは確かだからね。
文字通り。
そんな近衛兵団の隊長であるレイブンも優秀な騎士なのだが、私はこいつと昔からそりが合わない。
「じゃあいいわよ。ハンスに直接言うから!」
「はぁー。いくらハンス様といえどそんな頼み聞くわけが……」
「いいよ!」
即答だった。
「ち、ち、ちょっと! ハンス様! それでは規則に反します!」
「別にいいじゃん。一人くらい。
マイはこの国を救った勇者だし。そのくらいは許してやろうよ」
「へっ! ざまぁ!」
私はレイブンに渾身のドヤ顔で煽ってやった。
「こんのクソ勇者ぁ!」
「まあまあまあ、と言うわけでマイ。あとはこっちでしといてあげるから。今日はもう帰っていいよ」
「ありがとー。じゃあそう言うことで」
こうして私は面倒な作業を全部押し付け、少年を連れて家に帰った。
「と言うわけで、君を引き取ることになりました!」
「ぼ、僕の知らないところで話が進んでいる……」
彼は頭を抱えてしまった。
さすがに何の相談もなく決めたのは酷だったかしら。
「だ、大体、僕を引き取ってあなたになんの徳があるんですか?」
「ああ、そういえば言ってなかったわね。
私は君を弟子にするために引き取ったの」
「え?」
「私が、君を最強の英雄にしてあげるよ!」
「えええええええ!!!」
本日二回目の絶叫。元気な子ね。
「よし!じゃあ早速特訓と行こうかしら!」
「ち、ち、ちょっと待ってください!」
準備を始めようとする私を彼は止める。
「いろいろ言いたいですけど、な、なんで僕なんですか!? 僕はただの奴隷ですよ!」
「別に? そこは関係なくない? 私が、素質があると思ったから君を弟子にするって決めたの。それだけ」
私は彼に期待してる。きっと強い英雄になる。
「いや、でも」
「さあさあさあ! とりあえず行きましょう!」
私は彼の腕を強引に引っ張って外に連れ出す。
必ず彼を最強の英雄にして見せる。私はそう息巻いていた。
この後のどうなるか考えもせず。
次の日。
「はぁーー」
私の家の広いダイニングルーム。その長机に突っ伏して大きなため息をつく。
昨日のテンションが嘘のように沈んでいた。
何故かって? 引き取った弟子が1日で逃げたのだから。
長机には書き置きがひとつ。
――僕にはあなたの弟子になる資格はありません。
助けていただいたことには感謝しますが、もうほっといてください。――
とのことだ。
正直追いかけるのは簡単なのだが、例え追いついたとしてもきっと突き放されてしまう。
それでは意味がない。
「はぁーー。どうしようかしら」
「なーに悩んでるのかなぁ?」
そう言って誰かがいきなり声をかけてきた。顔をあげると、ハンスが私の顔を面白そうに覗いてきた。
自宅に勝手に上がり込まれた挙句、ニヤニヤとむかつく笑みを浮かべながらこちらを見つめている。
殴り飛ばしたい。
「今日はあんたの相手してる気分じゃないの。帰ってくれる?」
「ひどいなぁ。呼んだのは君だろ?」
ああ、確かにそうだった。
実は昨日彼の技法を鑑定したのだ。
この世界で自分がどんな技法を持っているかは本人にもわからない。
調べるには、『鑑定』と呼ばれる技法が必要になる。
私もその技法を持っているので、それを使って彼の技法を見ようとした。
しかし何も見えなかった。
「やっぱりそうでしょう。僕は技法を持っていないんです。今まで色々な人に鑑定してもらいましたが、誰も僕の技法を確認できませんでした」
少年はそう言った。
でも、本当にそうなのだろうか。私が彼を鑑定しようとした時、技法が無いから見えなかった、というより、技法が解けて見えなくなったという感覚のほうが近いように思えた。
そこに何かあると考えた私は、ハンスに頼んだ。彼の技法なら何かわかるかもと。
しかし、
「あの子なら出て行ったわよ」
「え? まじ? ぶっ、はははは! え? 昨日の今日で? もう? はははは!wwww」
こいつ、まじで1回殺そうかな。
「はははっ! 一体今度はなんで言ったの?」
「……知らないわよ。私はただあの子を立派な英雄にしたいって、そう言って私なりの稽古をしたわ。
まだ初めてだったから昨日は簡単な打ち合いだったけど」
「ふーん。余計なことを言ったというより、余計なことを言わなかったのかな?」
は? 何を言っているんだこいつは?
「ねえ、なんで君はそんなに彼に拘るの?」
さらに質問してくる。
「それは、彼に素質があると思ったからよ」
「でも、彼は技法が使えないんだろう? だったらもっと適任のやつが他にもいるはずだ。なのになぜ彼なんだい?」
「それは……」
私は言い淀む、でもハンスは私を見てまた吹き出した。
「え? まじ? そんな理由!?」
「っ! ちょっと!あなた私の思考を読んだわね!」
これがハンスの技法だ。
その名も『神眼』。
『鑑定』の上位に位置する『究極技法』で、『鑑定』より多くの情報を閲覧できる。相手の技法はもちろん、身体能力、魔力量、経歴、そして相手の思考も。
ハンスはこの力を使って優秀な人材を集めていた。
「ごめんごめん。あまりに隙だらけだったからさ。でもそっか。君にもそういう一面があるんだね」
「ちっ、ほっときなさいよ」
こいつによりによってこの考えを読まれるなんて。最悪。
「だったらさ、その思いをそのまま伝えたら良いんじゃない? どうせ伝えてないんでしょ?」
「嫌よ。恥ずいじゃない。」
「はぁー。君ってなんでもできるくせに、こういうところは苦手だよね~」
彼は呆れたようにため息をつきながら首を横に振る。
「いいかい? 俺は彼の経歴をあらかた調べた。彼は親に捨てられ、故郷を追い出され、行き着いたのが奴隷商だったんだ。彼は自分には価値のない人間だと思い込んでる。あの時体を張ってみんなを逃したのも、そんな自己肯定感の低さが原因の1つだと考えてる」
「……ええ。それは昨日話をしてなんとなく察したわ。
でも彼は英雄として素晴らしい素質を持ってる。無価値な人間じゃない」
「それを、しっかり言葉にしなきゃ。みんな俺のように思考が読めるわけじゃない。面と向かってしっかり言葉にすれば、彼も君の気持ちがわかると思うよ」
ハンスは私にそう言う。
そうだ、確かに私は自分の気持ちをちゃんとあの子に伝えていなかった。いや、彼だけじゃない。私は今まで自分の気持ちをちゃんと伝えたことがなかったのだろう。だから今回のことを招いた。
「……。わかったわ。もう一度、面と向かってちゃんと話してみる」
「うん。それが良い。じゃあ今日は帰るよ。君たちが仲直りしたら改めて呼んでくれ」
「ええ、わかったわ」
ありがとう。そう言おうとしたけどこいつに言うのは癪だから黙ってた。
しかし、
「どういたしまして」
私が何も言わずとも彼はそう答えた。
「ふっ。やっぱり、むかつくわねあんた」
私はそう、少し笑って呟いた。




