~幕間~
「やってくれたなぁ。勇者ぁ。」
私は1人、奴の前に残った。2人は用意した転送アイテムで何とか逃げ切れた。
こうなることは何となくわかってた。きっかけは最終試験の前に見た夢。私の『未来視』による発作でみた未来の映像。誰かが私を殺す映像だ。
なぜそうなるのか、その人が誰なのかはわからない。あれ以来何度も同じ映像見たが、結局わからなかった。その人が私に手を翳した後、光に包まれ、何も見えなくなる。
だがゆいいつわかることは、これこそ私の最期なのだろうということ。
「あいつらの技法も奪う予定だったのに。台無しじゃねぇか。どうしてくれるんだぁ!?」
拘束術式はとっくに解け、バルバロスは私に近づいてくる。
そしてバルバロスは私の腹部の傷に蹴りを入れる。
「うぐぁ!」
私のお腹に激痛が走る。今までに感じたことの無い痛みだ。
「はっ。無様だなぁ、勇者ぁ。俺はこんな女に負けたとはな。これから思う存分痛ぶってやりたいところだが……。生憎俺は忙しい。それにお前は放っておけば死んじまう。その前に俺がとどめを指す。」
バルバロスは私の前に手を翳す。最後のトドメを刺すために。
「最後に言い残すことはあるか?」
言い残すこと……。
「あなた……。私を殺して、その後は……どうするの?」
私は最後に質問した。今まさにとどめを指そうとする男に。
「はぁ? それが最後の言葉か? まあいい。お前を殺したら俺は再びこの世界を征服する。既にこの世界に勇者はおらず、その力は俺の手の中。俺に敵はいない。俺は神に等しい存在となる。」
神……ねぇ……。
「あっ……そ。そんな未来ありえないんだけどね。」
「は?」
私は彼の発言に呆れ、ため息をつく。
「あんた。自分が最強だと思ってるんでしょ? 最強のあたしの力を手に入れたから。でも残念。私の力なんてもう微々たるものなの。今更私の力を手に入れたところであなたに勝ち目はないわ。」
アドレナリンの影響か、急に口が回るようになった。なので私は言いたいことを言ってやった。
その力は無意味であると。
「……誰が勝てると言うんだ? 俺に。」
「あの子たちよ。」
私が育てた2人の英雄。英雄を志し、どんな敵にも立ち向かう勇気を持った少年、マルクス。その血によって不幸な運命を背負っても、それでも前を向いて希望を掴もうと努力した少女、クロエ。
「2人は、私でも倒せない敵が現れても大丈夫なように育てた。そして2人は十分に成長した。もう私じゃ勝てないくらいにね。」
私は2人を信じてる。私がいなくてもどんな脅威も打ち果たしてくれると。
「そうとも知らず、あんたは私の力を奪って、調子に乗ってる。自分の力でもない癖に。今更何の意味もない力を見せびらかして。」
バルバロスは私の言葉に怒りで震えている。
「ほんっと、その姿お笑いぐさね。見てるこっちが恥ずかしくなる。あんたは、結局最後まで何もできない負け犬なのよ!」
「勇者ぁあああ!」
バルバロスは怒りを露わにして私にとどめを刺そうとする。
「死ねぇええええ!」
「いいや、私はあんたには殺されない。」
瞬間。私の胸元が光り始める。
「な!?」
「自爆術式よ。あんたの部下と同じね。私のは詠唱しなくてもいいように予め書いておいたものだけど。」
バルバロスは私の光と発言により一瞬動きが止まる。今とどめを刺せば私を殺せるだろうに。
「あんたは何もなしえないのよ。こんな瀕死の私すら殺せないんだから。」
「ゆうしゃああ!」
もう遅い。私は、赤い光に包まれて爆死した。
「あーこんなものか。」
死ぬ間際の時間は永遠に感じるほど長い。どこかで聞いたことがあるが、あれは本当だったようだ。
私は爆死する瞬間の時間、自分の状況を静かに分析していた。ずっと待ち望んでいた時。最初はこの世界に転生したことで体験できなかったこと。
いざ体験してみると、意外と大したことはない。痛みも、苦しみも感じない。退屈な時間だ。
時間があったので私の人生について考えていた。私は、私の人生に後悔はない。そもそも以前捨てようとした人生だ。それが少し延長しただけ。元々こう言う運命だったんだ。
くそったれ魔王には最後に一泡吹かせてやった。
残していったあの子達は私の想像以上に成長した。私がいなくとも2人で問題を解決できるだろう。
何の憂いも、未練もない。
そのはずなのに……。
「何かしらね……この気持ち。」
何かが胸の奥でつっかえている。体は痛くないのに、胸の奥が少し痛い。
こんな時思い出すのはあの時の記憶。
「ハンス……。」
その日は私の誕生日だった。2人が毎年祝ってくれる特別な日。その日は初めてハンスが祝いに来た。何で自分には伝えてくれなかったのだとか、予定より大分早いが、待ち切れず来ちゃったとか、相変わらず口うるさいことを言いながらあいつは訪れた。
私はいつも通り紅茶を淹れて、いつも通り他愛のない話をした。
でも、唯一いつもと違うことが1つ。
「私。もうすぐ死ぬみたいなの。」
何故か最近よくみる夢の話をしてしまった。何でこの話をしたのかわからない。2人にも打ち明けず、死ぬまで誰にも話さないと決めていたはずなのに……。
「は?」
どんな話も、笑って聞いていたハンスもこの時だけは笑顔が消えた。
「そんな顔しないでよ。別に大したことじゃないでしょ。元々捨てた命だし。その時がやっと来たってだけ。元々私に生きる価値なんてなかったし。」
「なに……言って……。」
ハンスは小さな声で何か言っていた。
いつもならそこで話をやめていたはずだ。でも何故かあの日は言うはずのなかった言葉が次から次へと溢れ出した。
「ああ、私がいなくなっても何も心配することはないわよ。2人はもう私なんかよりよっぽど強いし、王国でも人気があるって言うじゃない。2人は私なんかよりよっぽど勇者らしいわ。これからはあの2人に頼って……。」
「ふざけるな!」
ハンスは突然私の話を遮って立ち上がった。
「え? ハ、ハンス……?」
「君は……それを本気で言ってるのか!? 自分に価値がないと! 自分は誰にも必要とされてないと本気で思ってるのか!?」
ハンスは私を怒鳴り散らす。今までそんなこと一度もなかったため、私はひどく困惑した。
「じゃああの2人はどうなんだ! 今日は君の誕生日だと言って、2人は俺に話してくれた。その時の2人は本当に嬉しそうに……、王宮に勤めて初めての誕生日だから豪勢にやるって……。そんな2人が、君を何とも思ってないと本気で思ってるのか!」
ハンスの怒りは止まらなかった。
「俺だって……。君を利用するために今まで付き合ってだと思ってたのか? 君の力だけが目当てだと! 本気で……!」
「ちが……ハンス……。」
私は何とか声を絞り出そうとした。でも、できなかった。
「……もういい。今日は帰らせてもらう。」
そう言ってハンスは玄関に向かった。
「待って……! ハンス!」
「すまない。今日は君の誕生日を祝うために来たのに……。こんなことになってしまった……。」
ハンスの表情はとても物悲しげだった。その表情を見て私の心はひどくざわついた。
「じゃあね。マイ。誕生日おめでとう。」
その一言が私たちの最後の会話になってしまった。
死の瀬戸際になってあの時のことが頭から離れない。
「何で……あんなこと言っちゃったんだろう。」
そんなこと、思ってないのに。
ハンスが打算で私と付き合ってたなんてそんなこと……。
ハンスはずっと私の家に訪れてくれた。私が魔王を倒した化け物と、王国からお払い箱にされても、足繁く通ってくれた。私と言葉を交わしてくれた。そこに打算は一切なく。私に寵愛を向けてくれたこともわかってた。
ハンスは私の大切な人だ。
ハンスだけじゃない。私の願いを聞いて、その願いを叶えてくれたマルクス、父親と私の因縁を知って、それでもなお私の力を受け継ごうとしてくれたクロエ。
みんな私の命に価値を与えてくれた人たち。
生前手に入れたくても、それが何なのかわからず、手に入らなかったもの。
ハンス……。クロエ……。マルクス……。
「ああ、死にたくないなぁ……。」




