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第十六話 復活

「うぐっ。お、お前は。」

「ト……トウトウ……テ……二……イレタゾ。ユウシャア!」


 さっきまで何の変哲もない木偶人形が急に喋り出し、先生の腹を貫いた。


「先生ぇ!」


 あの得体の知れないものを先生から引き剥がすだめに僕は走り出した。人形は、後ろに飛び退こうとしたが、その前に先生を貫いていた右腕を切断した。


「ギャアアア!」


 とても人とは思えない悲鳴を上げ、人形は大きく後ろに飛び退いた。


「先生! 大丈夫ですか!?」

「大丈夫よ……。それより。」


 僕たちは再び人形の方を見る。カタカタと不気味な音を立てながら、動いている。


「テニ……イレタ。テニ……入れたぞ! 遂に!」


 何を言っているのか? 僕には理解できなかった。だが、何かとてつもなく嫌な予感がした。ここでこいつを始末しなくては、何か大変なことが起きるような。

 すると、突然。人形の周りに赤い光が無数に出現した。


連続炸裂(ラッシュボム)!」


 赤い光は次々と炸裂。人形の周りで小さな爆発が無数に起こる。その爆発で人形の体に無数の穴が開き、手足が吹き飛んだ。


「ふぅ。いっちょ上がりね。」

「クロエ!」


 自爆せよ(ニトロディストラクト)の爆発を何とか防御したクロエが隙をついて魔術を放ってくれた。


「何だかよくわからなかったけど、倒してよかった?」

「問題ないです。あれは得体が知れなさすぎる。」


 正直あいつが何なのか知りたくはあるが、あのまま戦っていたらどうなっていたかわからない。


「ま、あんだけ念入りに爆破させておけば、流石に無事じゃ……。」

()()()()()()()()?」


 声が聞こえた。たった今クロエが、爆発させたあたりから。僕たちは声のした方を見た。そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な! まだ生きてるわけ!? だったらもう一発!」

「待てクロエ!」


 何かおかしい。何かがさっきと違う。左腕は爆発で欠損し、失っている。

 ()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「気づいたか? 小僧。さっきはよくもやってくれたな。」


 先程までろくに言語も話せなかった木偶人形がすでに流暢に話せるようになっている。いや、右腕だけじゃない。少しずつではあるが、体の傷が再生しつつある。


「貴様! 何故切り落としたはずの右腕があるんだ!?」

「騒ぐな。その答えは貴様の師匠を見ればわかるのではないか?」


 先生? そう言えば先ほどから先生が静かだ。いつもなら真っ先に敵へ魔術を放っているだろうに。

 僕たちは後ろにいる先生の方を振り向いた。そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()


「せ、先生……?」


 僕は現状をうまく処理できなかった。先生の腹部が貫かれて、5分は経っている。先生の不老不死(パーマネンス)ならすでに完治しているはずだ。にもかかわらず、先生の腹部には、がっぽりと空いた穴がまだあった。

 僕たちはそこで初めて理解した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「先生!」 「マイ!」


 僕たちは先生に駆け寄る。傷が塞がらない。不老不死(パーマネンス)が機能していない。先程まで対峙していた得体の知れない敵のことなど頭から完全に抜け落ちた。目の前の絶望的な現状に比べれば全て些細なことだと思えた。


「先生! 先生! なんで……何でこんな……!」

「どいて! 私が回復魔術を掛ける!」

「む……だよ。」


 回復魔術を掛けようとするクロエを先生が静止した。


「既に……やったけど……だめ……だったわ。」


 いつも凛々しく、力強い先生がとても弱々しく見えた。


「無駄だ。今そいつの体には毒が回っている。この人形の腕に仕込んだものだ。回復魔術の効果を打ち消す力がある。」


 毒? いや、そんなもの先生に効くはずが……。


「まあ、本来は勇者にとって無意味なものだろう。()()()な。だがもしこいつの究極技法(アルティメットスキル)不老不死(パーマネンス)が無くなったら、状況は大きく変わる。」


 無くなったら? そんなわけ……。じゃあ、先生は……。


「何なんだ……。」


 腹部からは止めどなく出血し続けている。

 

「何なんだよ……。」


 先生はもはや助からない。その事実を受け入れられない僕は……。


「何なんだよ! お前はぁあああ!」


 叫んだ。腹の底から湧き上がってくる怒りと悲しみ。それら全てを絶叫として吐き出した。そうしなければ、僕の中で溜まった感情に押しつぶされ、息ができなかった。


「喚くな。やかましい。そんなに見たいなら見せてやろう。」


 すると、人形の体が発光し始めた。体内に溜めた魔力を一気に解放している。


「ああ。やっとこの体から解放される……。遂に手に入れたこの力。私の本来の強大な魔力が戻っていく……。」


 すると、先程まで滑らかな木製の肌をしていた人形の体が、組み替えられていく。すでに先ほど受けた傷は完全に再生し、体格はより大きく。背中から大きな蝙蝠のような翼。頭には山羊のような角と、肩まで届く黒い髪をたなびかせている。


「そ……そんな……。」


 クロエはいち早く理解した。自分の姿とあまりに酷似しているその姿に。


()()()()()()()()()()()! 唯一にして絶対なるこの世界の支配者! さあ。我が前にひれ伏せ、人類ども!」





 魔王バルバロス。かつて先生が戦った魔王。それが今完全復活を果たした。


「ああ……! バルバロスー!!」


 クロエは叫んだ。かつて自分や母を捨てた男に全てをぶつけるために。


核炎爆撃ニュークリアインパクト!」


 クロエの最大威力の魔術。バルバロスに叩き込んだ。

 バルバロスの体は後方にすっ飛んでいく。バルバロスの体は壁面に叩きつけられる。

 しかし。


「先ほども思ったが、なかなかの威力だな小娘。」


 叩きつけられた壁からすぐに立ち上がりる。体は所々火傷で爛れているが、すでに再生が始まっている。


「なんで!? 攻撃は当たってるのに!」

「何も不思議なことはない。これは貴様らがよく知ってる力だ。」


 僕たちが知っている力。驚異的な再生能力、あらゆる致命的損傷の治癒。その力はまさに。


不老不死(パーマネンス)……。」

「その通り。貴様の師匠から()()()()()()。」


 僕たちは驚愕した。そう。この力はまさに先生の持っていた究極技法(アルティメットスキル)そのものだった。その権能は、もはや言うまでもない。()()()()()()()()()()()()()


「何でお前がその力を持っているんだ!」

「喚くな人間。鬱陶しいぞ!」


 バルバロスは僕たちに鋭い眼光を飛ばした。

 瞬間、僕たちの体が凍りついたように動かなくなった。


「う……ぐ!」


 やつの眼光に体がこわばって動けないのだ。

 

「まあ良い。ちょうど興が乗ってきたところだ。話してやろう。これは俺自身が元々持っていた究極技法(アルティメットスキル)略奪者(ハンギング)の力だ。先の戦いで使わずに終わってしまったが、その権能は、()()()()()()()()()。」


 略奪者(ハンギング)。じゃあこいつは先生から究極技法(アルティメットスキル)を奪い取り、自分の力にしたと言うこと。僕たちがここに来た時点でずっとその機会を狙っていたと言うことか。


略奪者(ハンギング)は本人の欲望に応じて力を増す。こいつに跡形もなく吹き飛ばされた後、俺の魂は霧散しようとしていた。しかし、俺の生への渇望がこの略奪者(ハンギング)を活性化させ、俺の魂を霧散することを防いだ。だから俺は生き残った。その後俺は魂の状態で世界を彷徨っていたら、アルガルドのやつが俺の復活の儀式をしていた。ところが。アルガルドのやつは思っていたより使えない無能だった。俺の肉体は結局再構築することができず、結局俺の体を木偶人形で代用した。あまりに貧弱で動きにくい体に。そこで、かつての魔力を手に入れるためには魔力の源である魂が大量に必要だと悟った。」


 大量の魂……。そうか王都を侵略したは、それによって発生する死者の魂を採るために。だからあの大軍勢を差し向けて、王都を襲撃し多くの人の命を奪ったんだ。


「だが、お前たちに阻まれて予定より魂の量は減ってしまった。体を再構築するのには魔力が足りない。不足分の魔力を補うために、俺に必要なものは、()()()()()()()()()()()だ。」

 

 無限の魔力と不変の肉体……。それを可能にする技法(スキル)を僕たちは知っている。


「そう。魔導王(ソロモン)と、不老不死(パーマネンス)だ。俺はそれを奪うために、お前たちを誘き寄せ、チャンスを伺ってじっと耐えていたんだ。」

「でも……何でマイの未来視(アブニール)であなたの動きを予知できなかったのよ!」

()()()……()()()()()()()……。」


 先生はボロボロの体を壁にもたれかけながら、上半身を起こした。


「私の未来視(アブニール)は……、数秒先の未来を見た後、その先の未来を見ることができない……。もう一度発動するのに……数秒のタイムラグがある。」


 バルバロスはその数秒のタイムラグを狙って攻撃を放った。そのために多くの仕掛けを用意した。自分の部下を爆弾に変え、自分の気配を完全に消し、自分の腕に毒を仕込んだ。先生が未来視(アブニール)を使うその瞬間のために。

 そして手に入れた。()()()()()()()()


「勇者マイ……。俺は貴様に屈辱的な敗北をした。魂だけとなり、この世を彷徨っている最中、お前を殺すことのみ考え続けた。どうすれば貴様を殺せるのかとな。」


 どれほど恨み、考え続けたのか。魂だけとなり、肉体を取り戻すまで、ただ先生への復讐のためだけに生きながらえ続けた。そして思いついたんだ。先生に攻撃を加える方法を。


「さて。既に貴様は究極技法(アルティメットスキル)を持たない搾りかすだが。小娘と小僧。貴様らもなかなかの実力者らしいな。お前たちの技法(スキル)も貰っていくぞ。」


 バルバロスはゆっくりと近づいて来る。先生の究極技法(アルティメットスキル)を吸収し、今や5つの究極技法(アルティメットスキル)を所有している。あまりの絶望的な戦力差だ。

 

「させ……ない。」


 突然、先生からもらった木札が光り始めた。

 そしてそれと同時に足下に魔法陣が展開された。


「な、何ですかこれ! 先生!」


 僕だけじゃない。クロエの足元にも同じような魔王陣が。


「転送魔術……よ。転送先は私たちの家。その木札に魔力を流すことで所有者を転送できる……。()()()()()()()()()()()。」


 何を言っているのか僕には理解できなかった。

 

「おい! それを俺が見逃すと思ってんのかぁ?」

「……ええ。だから黙っててちょうだい。」


 先生はポケットからさらに木札を取り出し、バルバロスの足元に投げる。すると木札から魔法陣が展開され、無数の鎖が生成された。その鎖は忽ちバルバロスの手足を縛り上げた。


「な! これは!?」

「拘束術式よ。これでしばらく動けない。」


 予め木札に術式を書き、魔力を流すだけで発動する魔術。先生はこの状況を想定していたんだ。自分に何かあった時の備えとして。


「さあ……今のうちに逃げなさい……。」

「逃げるわけないじゃない! 今ここであいつを倒すのよ!」

「それは……無理よ。クロエ……。この……部屋はあいつの用意した……場所。そんな……場所……で戦うのはあまりに不利。」

「だったらあなたも一緒に逃げましょうよ!」

「いや……もう無理。意識も……もうほとんどない。そもそも……私が逃げたところで何……の意味もない。」


 先生の言葉に力を感じない。喋ることもままならないようだ。

 

「そんな……。」

「クロエ……。大丈夫。あなたはもう私より強い魔術師でしょ? マルクスを……お願いね。」

「! いやぁ……。行かないで! マイ!」


 瞬間。魔法陣が大きく光、クロエの体が消失した。先生の言うことが正しいならおそらく家に転送されたのだ。


「マルクス……。あなたにはこれを預けるわ。」


 そう言って先生は僕に『聖剣アスカロン』を差し出した。


「これはあいつを倒すのに必ず必要よ。これをあなたに授ける。」


『聖剣アスカロン』は勇者のみが持つことができる、グローリア王国に伝わる伝説の宝剣。先生がこの世界に転生した時最初に手に入れた剣だ。

 

「無理です……。これは僕には相応しくない。先生がいないと……僕は……。」


 僕にはその資格が無い。そう言いかけた時、先生は僕の両頬に手を当て、その俯いた顔をぐいっと上げる。


「前にも言ったでしょ……? 英雄を志そうとする子が……そんな顔しない。」


 以前にもこうやって俯いていだ僕の顔を上げてくれた。

 先生はいつも僕を前に向かせてくれる。


「初めて会った時のこと、覚えてる? 私はあなたに会った時見えたの。()()()()()()()()()姿()()。そしてあなたは本当に英雄になった。」


 そんなことない。まだまだ僕は……。

 

「あなたはもう立派な英雄よ。私が保証してあげる。」


 そう言って先生は僕の頬からそっと手を離す。

 嫌だ……。

 離さないでくれ……。

 行かないでくれ……。


「じゃあね。私の大切な弟子、マルクス。」

「だめだ! 先生ぇええ!」

 

 それが僕と先生が交わした最後の言葉だった。

 気がつくと僕は家にいた。見慣れた部屋の間取り、見慣れた窓から見える風景。何もかもがそのまま。だが違うものが2つ。1つは泣き崩れ、先生の名を叫び続けるクロエ。

 もう1つは先生がいない。いつも適当で、何に対してもやる気がない癖に変なところで意固地になる。およそお手本と呼べる大人でなかった。

 だけど……。明日に希望を持てない僕たちを受け入れて、最後まで一緒にいてくれた。僕たちを教え導いて、見守ってくれた。

 僕たちの大切な先生であり、僕たちを助けてくれた英雄。

 そんな彼女がもういない。僕はその現実にただだだ、泣き叫ぶことしかできなかった。

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