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第十二話 最終試験 打倒、炎帝! その2

煙幕隠蔽(カバースモーク)。」


 クロエは煙幕を張った。インフェスティオの周囲一体に。


 (なんだ? 今更目眩しか?)


 煙幕の中インフェスティオは彼らの意図を思考する。


氷結刺殺(フロストスピア)!」


 すると、煙幕の中から氷の攻撃が飛んでくる。先ほどの氷河圧砕(アイスブレイク)とは比べ小さな氷。


 (攻撃自体は痛くも、痒くも無い。だが……。実に鬱陶しい。)


 インフェスティオは苛ついていた。ここにきてこんな子供騙しに出た挑戦者に。


 (煙幕で見えずとも、魔力の大体の位置はわかるわ。)


 そう考えもう一度炎を口の中に貯め、次に現れる魔力の位置を探る。

 しかし、インフェスティオは途中で思いとどまる。


 (いや、待て。奴らがここにきてそんな意味のないことをするだろうか? あのような啖呵を切った奴らが?)


 インフェスティオは疑問を持った。彼らがこのような行動に出たわけを。そしてあることに気づいた。


 (ん? 先程から剣士の小僧の気配がしない? そうか! この煙幕、そして意味のない魔術師の小娘の攻撃。これはあくまで隠れ蓑。本命の攻撃である小僧を隠すための。そして、奴らが狙うは……。)


 インフェスティオは自分の首元に目をやる。予想外の攻撃にヒビが入った自分の鱗に。


(奴らは間違いなくここに攻撃を加える。ならば……。)

 

 インフェスティオわざと首元を晒す。マルクスが痺れを切らして飛び出すのを待っているのだ。そして、インフェスティオは目を閉じ、集中する。クロエの攻撃の中に紛れて攻撃を加えようとする、マルクスの一撃を見分けるために……。

 そして。


「そこだ!」


 インフェスティオは大きく口を開ける。

 その視線の先に首を狙おうとジャンプし、突撃してくるマルクスが。


「二度は外さぬ! 食らえ!」


 マルクスに向かって熱線を放とうとする。

 ()()()()


「今だ! 幻想召喚(イマジナリーサモン)!」


 インフェスティオの前足の下に魔法陣が展開される。そこから巨大なクマ、キューちゃんが召喚される。


「口を塞げ! キューちゃん!」


 キューちゃんはインフェスティオの首に腕を回し、ヘッドロックでインフェスティオの口を塞ぐ。


 (な、何!?)


 すると、放とうとした熱線が口の中で暴発する!


「ぐぉおおお!」


 口の中に激痛が走る。口を開けたくても、キューちゃんがそれを許さない。

 インフェスティオは何とかキューちゃんを振りほどこうと必死に抵抗する。この行動がマルクスの存在を完全に意識から消え去った。


 (うぐ!)

 

 キューちゃんに構っていたことで生じた隙を利用しマルクスが剣を突き立てた。剣は鱗を突き破り、インフェスティオの首に突き刺さる。


 (くっ! 小癪な! だがその程度では我が命には届かぬ! もう一度体に炎を纏えば!)

「これで終わりです。炎帝インフェスティオ。」


 マルクスは言い放った。

 そして、次の瞬間()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 (なにぃいい!)



 


「1つ作戦があるの。」


 時間は少し遡り、煙幕を張る前、クロエはマルクスに提案した。


「私が氷河圧砕(アイスブレイク)を放った時、奴の鱗は凍りついた。ってことは、氷属性の魔術は多少有効ってこと。」

 

 どんな攻撃も効かなかった。インフェスティオの鱗に最初のダメージを与えたのはクロエの魔術だ。

 

 「だけどあいつの鱗は魔力を半減する。私の今の魔力じゃあ、あの鱗は突破できない。」


 そう。弱点属性の魔術を当てるだけじゃ、あいつを倒せない。

 だとしたら……。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「ええ。それがいちばんの有効策だと思う。」


 あいつの鱗の一部は今ヒビが入ってる。あそこにマルクスが魔力の籠った剣を突き刺せば、鱗の内側から魔力を流せる。剣に魔力を纏わせることは、マルクスがやっている属性付与と変わらない。クロエの魔力なら直接持ってなくてもできるだろう。


「でも、確証があるわけじゃない。最悪あなたを死なせてしまうかも。」


 この作戦は、マルクスが奴に正面から突っ込まなくてはならない。一歩間違えばマルクスは消し炭になる。

 しかし。


「大丈夫。僕は君を信じてる。君にだったら、僕の命を預けられる。」

「っ。マルクス……。」


 そして再び、マルクスたちは正面を向く。

 

「さあ! 決着を付けよう!」






「「氷を纏え(チャージングフロスト)!」」


 凄まじい冷気がインフェスティオの体を走る。


 (こ、これは! まずい、凍りつく!)


 インフェスティオはすかさず、体に熱を纏って氷を溶かそうとする。しかし。


「させるかぁあああ!」


 氷を完全に溶かされる前に決着をつけるために、マルクスは突き立てた剣を無理やり動かす。本来、その強靭な鱗に阻まれて、剣を動かすことはできない。

 しかし、今は鱗が凍りつき、強度が著しく落ちている。マルクスの剛腕なら簡単に切ることができる。


「うぉおおおお!」


 マルクスは渾身の力で剣を引き切る。

 そして。


 (ぐはっ!)


 インフェスティオの首が胴体から切り離した。

 ついに、()()()()()()()()



 


「や、やった。つ……いに……。」


 マルクスは着地と同時に力が抜け、倒れそうになる。

 そこへ、クロエが駆けつけ、抱き寄せた。


「やったぁああ! やったよマルクス! 私たち勝ったんだ!」


 クロエは大粒の涙を流しながら喜ぶ。

 勝利したこと。そしてお互い生き残ったことに。


「ああ。そうだね……。」


 マルクスも力なく笑う。既に体はボロボロだ。


「見事だ。挑戦者たちよ……。」


 インフェスティオは首だけの状態で二人に語りかける。


「……。とても、圧倒される力でした。二人がかりで、しかも小細工を弄してやっとあなたに勝てました。正面からはあなたの相手にすら、僕はなれなかった。」


 マルクスの表情には歯痒さが見える。純粋な勝負で彼を相手にできなかったことに。

 

「ふっ。そのようなことを気にするな。ここは戦場。不意打ち、騙し討ち、小細工、数の利。全てが許される場所だ。そして余は不意打ちも、騙し討ちも、小細工も、数の利すらも、全て打ち果たしてきた。1000年間、どんな手を使っても誰も我の首を取ることはできなかった。お前たちはそれを成し遂げた。誇れ。お前たちは紛うことなき英雄だ。」


 その言葉に二人は改めて涙する。


「僕たちと戦ってくれてありがとうございます。『炎帝 インフェスティオ』。あなたを倒した栄誉、僕たちの一生の誇りとします。」

「ああ。我が骸を超え、更なる高みを目指すがいい。竜殺しの英雄、クロエ・ロジーナ、マルクスよ。」


 そう言ってインフェスティオは静かに目を閉じた。





「マルクス……。ごめんそろそろ限界……。」


 マルクスに肩を貸していたクロエだが、クロエ自身も既にボロボロで、立ち上がるのもやっとだった。


「クロエ! しっか……あ、僕もだめだ……。」


 戦いの疲労、終わったという安心感が頂点に達し、ついに二人は前のめりに倒れた。

 ()()()()()()()()()()()()()


「せ、せんせ……。」

「よくやったわね……。二人とも!」


 私は二人を抱き寄せながら言葉を絞り出した。弟子たちの勇姿に、涙を堪えきれなかったからだ。


「頑張った、頑張ったわねぇ……。わぁあああ!」

「せ、先生……。」「マイ……。そんな泣かないでよ。」


 私はみっともなく泣いてしまった。二人はやってのけたのだ。誰もなしえなかった、炎帝討伐を。二人はやってのけた。なんて誇らしいんだろう。そう思うと涙をおさえきれなかった。

 それからしばらく私は号泣し続けた。二人に慰められながら。



 


「ぐす。み、みっともない所を見せたわね……。」

「いいんですよ。先生がどれだけ僕たちを心配してくれたか分かりましたから。」


 恥ずかしい。これは一生言われるかもしれない。


「オホン。改めて、おめでとう二人とも。これで私の最終試験はおしまい。今日からは私の下を離れて自由に名を上げなさい。」

「「はい!」」


 弟子の成長は嬉しくもあり、寂しいわね。そう思うとまた涙が込み上げてきそうになるが、今回はしっかり我慢した。


「インフェスティオの遺体はどうする?」


 私は二人に問いかけた。本来大型の魔物や、竜種を討伐した場合、その素材を剥ぎ取り武器として使うのだけど。


「……彼の死を汚すようなことはしたくありません。」

「そうね。丁重に弔う。それが彼に対する敬意だと思うわ。」


 二人は遺体を傷つけず、埋葬することにした。


「わかったわ。じゃあそうしま……。」


 ブー、ブー、ブー。


 突然、バックの中から音が鳴り始めた。


「な、何いきなり。」

「ああ、王国と連絡するために使ってた。水晶の音ね。多分ハンスからの連絡だわ。」


 この水晶は私が持ってる王国との唯一の連絡手段だ。水晶の中に文字が浮かび、相手に伝言を伝えることができる。『ディアボロ』捕縛の任務の時もこれで連絡を取っていた。

 

「まったく、ハンスのやつ。こんな時になんの……え?」

「ど、どうしたんですか?」

「王国が、()()()()()()()()。」





 〜幕間〜

「兄上! 何故、国王軍を第一城壁の増援として回さないのですか!」


 魔族の軍勢が攻めてくると言う知らせが来て数刻後、俺は王直属の国王軍を動かすため、軍事の全権を任されている我が兄、マルコ・エルメイアに直談判していた。グローリア王国王都は2つの城壁に囲まれている。第一城壁は王都全域を囲むための城壁。そして、王族や貴族が住む区画を囲む第二城壁である。一般市民はこの2つの城壁の間の地域に住んでいる。第一城壁は一般兵が警備しているのに対し、第二城壁は王国軍が警備している。

 

「第一城壁の防衛と市民の避難、それぞれに人員を割かなくてはなりません。には一般兵だけではとても足りません。だからこそ王国軍を第二城壁の外に出して……。」

「ハンス。」


 兄上は途中で話を遮る。

 

 「王国軍は我々、王族や貴族など、上級国民を守るために存在している。こんな非常時に下々のものたちを守らために戦力を割くわけにはいかない。」


 俺は自分の耳を疑った。この男の発言があまりに愚かなで信じられなかったからだ。


「民あっての我々王族です! 私たちには民を守る義務があります!」

「ふん。いつまでも子供のようなことを。何よりも優先すべきは我々王族の命だ。第一城壁の防衛は、一般兵に任せれば良い。それだけで十分だ。」


 無理だ。一般兵だけではとても足りない。まだ、全容を掴めたわけではないが、確認できただけでも1()()()()()()()()()。その数が一気に王都に押し寄せたらこの国は壊滅する。


「父上は何とおっしゃっているのですか?」


 最近父を見かけていない。ご病気と言って部屋から出てこないのだ。だが、あの民の命を第一に考えていた父上がこのようなことを許すはずがない。


「父上も私と同じ意見だ。」


 そんなわけない。兄上行動はどこか不可解だ。なぜこのような愚行を取るのかその理由が知りたい。

 だが……。


「ほ、報告します!」

 兄上と言い争いをしていると再び知らせが入った。

 

「魔物の軍勢が、東門を突破。その数3()()()!」

 3万!? もはや手をこまねいている時間は無い!

 すぐに出なければ!

 

「どこへ行く? ハンス。」

「私は戦います。国王軍が出ないのであれば私の近衛兵だけでも前線に出します。」

「ふん。好きにしろ。」


 この男。殴り飛ばしたかったが、そんな時間は無い。

 俺は部屋を飛び出し。レイブンと合流した。




 


「国王軍は動かさない!? 何を考えているのですか!?」

「そんなの俺が聞きたい!」

「……何か、裏があるのでは? マルコ陛下の思考は見たのですか?」

「ああ、見たよ。」


 俺は兄の本心が知りたく、神眼(アルゴス)を使用した。でも、本人が言っていること以上の情報は何もなかった。だが、正直妙だ。心の中は読んでいるはずなのに、()()()()()()()()()()。そんな感覚に襲われる。と言うよりここ最近の兄上は常に……。


「いや、そんなこと今はどうでもいい。今は王都に侵入した魔物を止める。我が兵だけでどこまでできるかだが……。」

「ハ、ハンス陛下!」


 今度は何だ! また魔物の軍勢か?


「今報告が入りました。()()()()()()()()()!」


 最後に縋りついた希望が間に合った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「王都に魔物が侵攻!? 大変じゃないですか!」


 インフェスティオとの戦いの後、そんな知らせが舞い込んだ。


「ええ。かなり深刻みたいね。」


 これはグローリア王国の危機だ。情報では、確認できただけでおよそ1万と聞く。この数が王都に突っ込めば、被害は想像できない。かつてないほどの最悪の状況だ。

 でも、()()()()()()()()()()()()()()()


「これは絶好のチャンスよ。今王国に助太刀すれば、あなたたちの名声は一気に上がる。英雄街道まっしぐらよ!」

「えええ! そんなこと言ってる場合なんですか!?」

「そんなこと言ってる場合なのよ! 混沌と悲劇の中こそ英雄は輝く! 今活躍せず、いつ活躍するのよ!」

「その発言いろいろ問題あるって!」


 とにかく行かないと! 魔族どもを蹴散らすのよ!


「いや……、先生。その前に僕たちはもう戦えません。」

「そうよ。魔力も、体力も底をついてるし。何より全身痛いのよ。」


 こんな時にそんな情けないことを言う。


「もう。しょうがないわね。これ飲みなさい。」


 そう言って私はポーションの入った瓶二本を渡す。


「な、何ですかこれ?大回復薬(ハイポーション)……じゃないですよね?」

「味は……普通ね。」


 二人は怪しみつつもポーションを飲んだ。すると。


「え? 体の痛みが消えていく! それどころか傷が完治していく!」

「す、すごい! 魔力もどんどん回復する!」


 さっきまで立つこともできなかった二人がみるみるうちに元気を取り戻す。


「何ですかこれ! 大回復薬(ハイポーション)の比じゃない回復効果ですよ!」

「それは私が改良したポーションよ! 名付けて、『サイコーニハイポーション』よ!」

「なんか聞いたことある!」

「名前どうにかしてください!」


 二人から総ツッコミを受けるこのポーション、体のあらゆる怪我、そして魔力の欠如を一瞬で完治できるように改造したポーション。どんな瀕死状態でも、1瓶で前線復帰の状態まで回復させる代物。


「ただし重大な副作用があってね。それ飲むとしばらくは動けるようになるけど、()()()()()()()()()()()()()。」

「「え?」」


 まあ、無理やり動かない体を動かせば当然そうなるだろう。しかし、この状況では打って付けのポーション!


「さあ! 張り切っていくわよ!」

「「いやぁあああ! 休ませてぇええ!」」


 悲鳴をあげる弟子二人を引っ張りながら私たちは王都を目指す。

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