第十一話 最終試験 打倒、炎帝! その1
「さ、最終試験?」」
二人は充分強くなっている。ここから先は外に出て実際に依頼や討伐をこなして名を上げていくしかない。そのために私から最後の試練を与える。
「最終試験、それは……、竜種の討伐よ!」
竜種。それは魔王のに次ぐ力を持つ魔族。この世の全ての魔族は魔王の命令に従い、その命を捧げる。しかし、竜種のみは自らの意思で行動し、自ら主と認めた者のみに従う。誇り高い種族だ。なので『魔王特権』も効かない。
今回の試験内容は、二人がかりで竜種を討伐すること。自分の持てる力の全てを使い。竜種を正面から倒すこと。そして。
「今回、私は一切干渉しない。例えあなたたちが殺されようとも、私はあなたたちを助けない。死んだらそこで終わりと思いなさい。」
それがこの試験の条件。自分たちだけで強大な敵に勝つ。英雄にはそれが必要。
(頑張って。私の弟子たち。)
私は上空から彼らを見下ろす。遮断結界を纏っているので、竜種にも、二人にもどこにいるかはわからない。
竜種は、基本的に生息している地域の頂点捕食者に君臨する。そして、その中でも1000年以上その土地を支配し続ける歴戦の個体が存在する。
今回の討伐目標はそのうちの一体、『炎帝 インフェスティオ』。かつて広大な樹海が広がっていたこの土地を一瞬で灰塵と化し、その地形すら作り変え、火山地帯を作り上げた。自然すら支配する強力な竜種だ。
「ほう。人間がこの地を訪れるのは何百年ぶりか。」
インフェスティオは二人に話しかける。高名な竜種は人語を話すほどの高い知能を持っている。
体調はおよそ20メートル。寝そべっている状態で首を上げても4メートルの高さ。自分たちがどれほどちっぽけか、二人は嫌でもわからされた。
「ふぅー。」
マルクスは息を吐く。体は少し震えている。
「どうしたの? 怖いの?」
クロエはマルクスに煽るように問う。しかしそう言ったクロエ自身も震えている。
「ええ。怖いですよ。このプレッシャー。かつて対峙した鬼熊、その比では無いですからね。」
二人はインフェスティオの目の前に立ち、その威圧感を直に感じ取っていた。
一方、インフェスティオは二人を吟味している。ここには何人もの冒険者や、魔術師が訪れ、彼を討伐しようとした。しかし彼はそれを尽くを返り討ちにしてきた。彼にとって戦いにすらならない。ただ目の前を飛ぶ蠅を叩き潰す作業に過ぎない。
彼はまだ二人を敵としすら認識していない。
「年端も行かない童だか、妙な気配がする。そっちの娘は魔王の匂いが、そっちの小僧は……何か得体の知れない気配だな。」
「さすがですね。一眼見ただけで僕たちのことを見透かしている。」
敵は強大。今まで誰も倒せなかった、竜種の頂点。
「でも、この程度で怖気付いてるようでは英雄になんてなれません!」
「! ええ。その通りね!」
マルクスは剣を抜き、クロエは手に魔力を貯める。
「さあ、始めましょう! ドラゴン退治!」
今ここに、ドラゴン退治の伝説が始まる。
最初に仕掛けたのはインフェスティオだ。目一杯空気を吸い込み、口から強力なブレスを吐く。それは1000度を超える灼熱の業火。どんな防具も、魔術も溶解する。
(これで終いよ。)
彼にとってこの攻撃は常に最初で最後の技となる。この攻撃を受けて生存したものは今までいないのだから。
しかし。
「絶対障壁!」
炎が届く前に、クロエが障壁を展開する。障壁魔術における最高硬度の障壁を。
(なに?)
インフェスティオは驚いていた。今までこの攻撃を受けきったものはいなかったから。その驚きが大きな隙を生じさせた。
「はぁー!」
すでに間合いに入ったマルクスがインフェスティオの顔面を切り付ける。インフェスティオは不意打ちだったこともあり、体勢を大きく崩す。
しかし、その顔は喜びが見える。
「素晴らしい。このような挑戦者がまだ残っていようとは……。誠に今日は良い日だなぁ!」
インフェスティオはついに臨戦体勢に入る。四本の足で立ち上がり、背中に生えた巨大な翼を広げる。
「小僧ども。名を名乗ってみろ。」
「勇者マイの一番弟子、マルクス。」
「同じく、勇者マイの二番弟子、クロエ・ロジーナ。」
そして二人は同時にこう叫ぶ。
「「あなたを倒し、英雄になるもの!」」
「ほう……、そうか。覚えておこう。ならばかかってこい、若き英雄の種よ! その威勢ごと、燃やし尽くしてくれる!」
轟音を響かせながら、上に向かって口から炎を吐き出す。その咆哮で周りの温度はどんどん上がっていく。
「こ、これは!」
「す、すごい熱気!」
その様は火山噴火の如し。インフェスティオ、まさに自然災害そのものだった。
二人はそれぞれインフェスティオの左右に展開する。的を絞らせないために。
「核炎爆撃!」
左側面からクロエは自身が持つ最高火力を叩き込む。被弾した攻撃は巨大な爆発を生んだ。核炎魔術も研鑽を積み、初めて会った時とは桁違いの爆発力を発揮している。
しかし。
「き、効いてない。」
インフェスティオには傷1つつけられない。
竜種の鱗は防具や盾として重宝されるほど高い魔力耐性がついている。その中でも、歴戦のイフェスティオの鱗は並の竜種を凌駕するほどの強度を誇る。
「その程度では、余には傷1つつけられない。」
クロエの最高火力の魔術でも、インフェスティオにはかすり傷にすらならない。
「だったら!」
すでに反対側で、マルクスが接近していた。
「炎を纏え!」
炎を剣に纏わせ、もう一度顔面を切り付けるべくジャンプする。
先ほどと同じ位置、マルクスの一撃で、インフェスティオが体制を崩した箇所だ。
「くらえ!」
剣を大きく振りかぶり、切り付ける。
しかし。
「か、硬い!」
先程とは違い、剣で切りつけてもインフェスティオはよろめきもせず、かすり傷1つ追わない。竜の鱗は物理攻撃にも高い体制を持っている。
「先程は余も油断していた故、不意をつかれたが。」
インフェスティオは首を横に振り、マルクスを弾き飛ばす。
「その程度では余は殺せぬぞ! もっと余を楽しませろ! 人間ども!」
そう言ってい巨大な前足を振り上げる。
マルクスはなんとかその攻撃を避ける。
「まだだ!」
インフェスティオが前足で地面を踏み締めた瞬間、周りの地面が隆起し溶岩が吹き出した。
「うお!」
インフェスティオはマルクスを踏み潰すと同時に、地面に魔力を流し込んだ。これにより地殻に影響を及ぼし、マグマが噴き出したのだ。
「はははは! 燃やし尽くせぇ!」
インフェスティオが大地を踏み締めると同時に大地からマグマが吹き出す。足場はどんどん熱を帯びていく。すでにこの辺り一体は彼の支配領域となった。
「くっ! 足の踏み場が無くなる!」
「はぁあああ! 調子に乗るなぁ!」
クロエは地面から吹き出すマグマを避けつつ手の中に魔力を貯めていた。そして巨大な氷塊をつくりだす。
「これで頭冷やしなさい! 氷河圧砕!」
巨大な氷の塊を叩きつける。
「ぐっ!」
氷塊はインフェスティオに直撃。外傷はいまだに無いが、当たった個所の鱗が凍りついている。
「よし! 効果あり。もう一発!」
クロエは続け様に氷塊を投げつける。
だが。
「グォオオオオオオ!」
口から強力なブレスを吐き出す。最初に放ったものとは違い、極限まで圧縮した炎の魔力を、まるでレーザーのように放つ熱線。巨大な氷の塊を貫通し、溶解。そのまま熱線は雲を突き抜け、大気圏外にまで届いた。
「そ、そんな……。なんて威力なの。」
クロエは対峙する敵の強大さに絶望し、一瞬思考を停止してしまった。
そこに容赦なく尻尾の殴打が彼女を襲う。
「ぐはぁっ!」
クロエはそのまま後方の壁面に叩きつけられる。
「クロエぇぇぇ!」
無残にやられたクロエの姿を見たマルクスは全力で走る。敵に有効打を与えるために。敵の攻撃を掻い潜り、わずかな足場を飛び越えながら走り言い抜ける。狙うは敵の首。
「ここだ!」
全力で切りつける。だが結果は変わらず、傷ひとつつかない。
「無駄だと言っているだろう。」
どうやっても傷はつけられない。だが、マルクスは諦めなかった。
「例えどれだけ硬い鱗で覆われていても! 攻撃を当て続ければいつかは砕ける!」
マルクスは何度はじかれようとも、同じ場所に攻撃を当て続けた。マルクスはインフェスティオの懐に入っているため、彼の強力な熱線をくらうことはない。マルクスは当てては退き、当てては退きを繰り返す。
すると。
「なに!?」
ついに鱗にヒビが入った。
「よし! もう少し!」
ついにインフェスティオに傷をつけた。この調子でいけば鱗を突破することができる。
そう思った。
だが無情にもその考えは打ち砕かれる。
「ウォォォォ!」
インフェスティオの体が燃え上がる。懐にいたマルクスはその熱気をもろに受ける。
「くっ! 熱すぎる!」
あまりの温度にマルクスは大きく距離を取ってしまった。
だがその行動は、インフェスティオの射線に入ることになる。
「! しまっ!」
思考した時には既に熱線は放たれていた。インフェスティオも咄嗟だったので、十分に狙いを定めることはできなかったが、熱線はマルクスの足元に被弾。その余波と熱風だけでマルクスに致命傷を与える。
マルクスはクロエと同じく、後方の壁面に吹き飛ばされた。
「もう終わりか? 挑戦者よ!」
クロエは尻尾の攻撃を受け、意識がない。マルクスも熱線の攻撃で動けない。二人とも虫の息だった。
「これではつまらぬな。いい加出てきたらどうだ?」
インフェスティオは呼びかける。私に話しかけているんだ。
「いるのは分かっておるぞ。気配を遮断しても殺気が隠せておらぬわ。」
助けに行きたい。あいつをぶん殴ってやりたい。だか、唇を噛み締め、拳から血が出るほど握りしめ、私はじっと耐える。ここで助けに行くことはここまでの彼らの努力を否定することになる。それだけはやってはいけない。
例え二人が死んだとしても……。
〜幕間〜
――死ぬ。
――死ぬ。
――目が開かない。
――全身痛い。
――どうして僕たちはこんなことをしなくてはいけないのか。
――どうして私たちはここに倒れているのか。
――ここで終わりなのか。
――何もできないのか。
――先生。
――マイ。
「二人で力を合わせなさい。」
――先生は確かそう言っていた。
「例え一人の力でどうしようもできなくても二人ならできる。」
――マイは確かそう言ってた。
「信じてるからね……。あなたたちが勝つことを。」
――僕は……。
――私は……。
「「ここで、諦めるわけには、いかない!」」
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「「うぁああああ!」」
立ち上がった。さっきまで意識もなかった二人は、立ち上がり、空に向かって吠える。
「ほう。まだ立ち上がるか? 何故諦めぬ? 力の差は歴然であろう。」
インフェスティオは問う。あれだけの攻撃を受けまだ立ちあがろうとする人間に。
「こんな所で諦めるわけにはいかないからよ。」
「それは己の望みのためか? 己の目標とする英雄になるために。」
「違います。英雄になるならない以前の問題です。」
二人は同時に叫ぶ。
「「僕/私たちを信じてくれる人がいる。その人のために、絶対に負けない!」」
彼らはもう一度宣言する。譲れな思いのためにもう一度、強敵に対峙する。
「そうか。ならばこれで終わりにしてやろう。」
インフェスティオは再び大きく羽を広げる。最後の戦いを制するために。
「マルクス。あいつは強い。今の私たち一人一人じゃ勝てない。」
「ええ。分かっています。だったらどうするか。」
マルクスは再び剣を構える。クロエも再び、手の中に魔力を込める。
「二人で倒しましょう! 先生が信じてくれたように!」
「ええ! 二人一緒に!」
ついにドラゴン討伐の決着がつく。




