第十話 凶兆
『未来視』。私の持つ究極技法。この技法は少し先の未来を見ることが出来る。その時間はだいたい10秒。それ以上先の未来は見ることができない。
しかし、例外がある。
突然、はるか先の未来の映像が頭に流れて来る。
「やば。これはなかなかまずい未来ね。」
眠りから覚めた私は呟いた。
夢の中で未来の映像を見たからだ。
これは発作のようなもので、ある日突然見える。夢の中だけじゃなく、普通に過ごしていても突然発言するときがある。見える映像の時間もバラバラで、一年後の映像が見た後、一ヶ月後の映像が見えたこともある。
この日私は見てしまった。これから起こる最悪の未来を。
「「はぁーー!」」
二人が弟子になって3年経とうとしていた。
今二人は模擬戦を行ってる。やはり戦闘経験を積むなら対人戦が1番だ。
三年間で二人は大きく成長した。
マルクスは、この3年間血の滲むような修行をして、奴隷時代の非力だった頃とは考えられないような強靭な肉体を手に入れた。今では『アンジスフ山』を5往復しても余裕なほど体力をつけ、巨大な岩を剣で一刀両断できるほどの腕力を身につけた。
今なら鬼熊相手でも素手で殴り飛ばせるだろう。
「水泡射出!」
クロエは空から魔術で攻撃する。当たれば骨が貫通する威力。だがマルクスは剣術のみでクロエの攻撃を捌き切る。
マルククスは剣術も向上し、技法が無くても、剣捌きや、立ち回りのみで魔術を回避し敵に攻撃を当てるまでに成長した。
「はっ!」
マルクスは上空を飛行しているクロエの元に跳躍した。6メートルほどの高さだが、今のマルクスには難しくない。
「くっ!」
瞬間、クロエは障壁を張って防御する。
だがマルクスはその障壁ごと打ち砕き、クロエを撃ち落とす。撃ち落とされたクロエは地面に当たる寸前に身を翻し体制を立て直す。
「ふ、普通障壁魔術、腕力と剣で割れる?」
「鍛えてますからね。」
格上の魔術師相手でも、力でゴリ押しできるだろう。
一方、クロエは、最初の頃は文句を言っていたが、研鑽を積み重ね見事『魔術王』を究極技法に進化させた。その名も、『魔導王』。私の『魔導王』と類似した進化先だが、大きく異なる点がある。
「重力超過!」
瞬間、マルクスの周りの重力が急激に重くなる。
「くっ! また新しい魔術ですか。」
そう、私の『魔導王』が相手の魔術を奪うのに対し、『魔導王』は新しい魔術を創造できる。
属性に縛られず、クロエが思いついた魔術をそのまま具現化する。魔術の根底を覆す技法だ。
「ふふ。私だって負けてないんだから!」
クロエは地面に魔法陣を展開する。これは召喚魔術を行うための陣だ。
「幻想召喚!」
召喚魔術とは、本来使い魔と契約し、契約した生物を呼び出すものだ。
だか、幻想召喚はクロエの創造した魔獣を召喚することができる。魔法陣から魔獣がその姿を表す。
巨大なクマのぬいぐるみのような生物が。
「いくわよキューちゃん!」
(間変わらず、幼女趣味ね。あの子。)
デザインは気の抜けるものだが、その戦闘力は非常に高い。大型の魔族でも拳のみで撲殺することが出来る。
「出してきましたね。」
重力で重たくなっているマルクスは剣を握り直している。常人なら内臓が潰れるほどの重力がかかっているはずだが、マルクスは筋力だけで立っている。
「さあ! 決めましょう!」
「望むところよ!」
二人の闘気が最高潮に達する。自分の全力を次の一撃に込めるつもりだ。マルクスは過剰な重力下のなかクロエに向かって走れ出し、クロエもキューちゃんの拳でマルクスを狙いつつ、後ろで大型の魔術の準備を始める。 キューちゃんの拳とマルクスの剣がぶつかり合う。
そこに……。
「はいはい。そこまで。」
私は割って入った。
「な! 先生!」
「何よマイ! 邪魔しないで!」
「あなたたちねぇ。これば模擬戦よ。このまま続けてたら殺し合いになるわ。」
全く。強くなったのはいいけど、最近制御が効か無くて困るわ。今のこの子達を止めるのはいくら私でも骨だからね。
「さあ、今日はおしまい。お昼にしましょう。」
私たちは修行を中断し、お昼にする。今日は天気もいいので外でピクニックをすることにした。
「はい! 私特製のサンドイッチ!」
クロエはそう言ってお弁当箱を取り出した。サンドイッチの具材は卵やツナ、ハムにフルーツなど多種多様だ。
「うわぁ! どれも美味しそうですね!」
マルクスは嬉しそうにサンドイッチに手を伸ばす。
「あむ。 んー! どれも美味しいです!」
「ああ、ちょっとマルクス。口元汚れてるわよ。急がなくてもたくさんあるから。」
そう言ってクロエはマルクスの口元を優しく拭った。
瞬間二人の視線が合う。
「あっ。す、すみませんクロエ。」
「あ、いや、気にしなくていいわよ。」
二人は赤面する。最近二人の様子がおかしい。以前より距離感が近くなったと思ったら、今みたいに赤面して急に距離が離れる。いつもこんな調子だ。
「あー。マイもたくさん食べてね!」
「そ、そうです先生! すごく美味しいですよ!」
何か誤魔化したわね。よくわからないけど、二人の仲がいいのは私としても嬉しい。
「ええ、いただくわ。」
そんな幸せな時間を私たちは過ごす。こんな時間がいつまでも続けばいいとそう思った。
(あ、これフラグだったわね。)
私がサンドイッチを受け取ろうとした瞬間何かがこちらにすごい勢いで飛んでくるのを感じた。生き物ではない。矢よりも小さな、銃の弾丸だ。
私はそれを感じ取り防御しようとした瞬間。
カン!
と、マルクスが、私が防御するより先に私の前に立ち、剣で弾いていた。
(まさか五感だけで弾丸を補足して弾くなんて。)
私が言うのもなんだけど、私の弟子がどんどん人間離れして行く。
「マジかよ。あれを弾くなんてな。」
すると続々と森の中から怪しげな集団が出て来る。
ざっと50人。森にまだ潜んでいる奴らを含めれば100人はいくかもしれない。
「なんなの? あなたたちは。」
「俺たちは雇われの傭兵さ。勇者マイ。あんたの暗殺を依頼された。」
リーダー格の男が言う。暗殺? 私の?
「誰の差金?」
「ふん。言う必要はねえな。」
まあそうよね。とりあえず倒して……。
「おい。」
マルクスが声を発した。今まで聞いたこともないようなドスの聞いた声で。
「マ、マルクス?」
「お前たち、覚悟はできてるんだろうな? 僕たちのランチタイムを台無しにしたその愚行の!」
ブチギレてる。今までにないくらい。
「お、落ち着いて……。」
「その通りね。せっかく作ったサンドイッチなのに、無駄になったじゃない!」
あんたもか、クロエ!
まずい弟子二人が完全にキレてる。これは止められないわね。
「じゃあいいわ。あんたたち。こいつら全員倒しなさい。」
「「言われなくても!」」
「ただし殺しちゃダメよ。」
「「……善処する!」」
不安だ。そう思った時には二人は突撃していた。
そこから先は地獄だった。マルクスの剣と一振りで10人は吹き飛んでいき、拳一発で敵の骨が曲がっちゃいけない方向に曲がっていった。クロエは好き勝手に魔術をぶっ放すので、敵が燃え、潰れ、凍っていった。敵の悲鳴が止むことはなかった。時間にしたら3分掛からなかったかもしれない。それほどあっけなく、悲惨な結果となった。一応全員死ななかったが、ほっといたら普通に死ぬ状態だったので、すぐに回復魔術をかけた。
「やりすぎ!」
その後二人に説教をかまし、しばらく正座させた。
「お、俺たちは雇われただけだ! 許してくれぇぇ!」
もう、すっかり戦意喪失し、あんだけ啖呵を切ってた男は泣き出して命乞いしていた。まあ当然だ。あそこまでボコボコにされればそうなる。
「まあ、いいわ。あんたたちの身柄は王国軍に引き渡します。」
「それでいい! だからあいつらを近づけないでくれ!」
後ろでは正座しながら二人がまだ睨みつけている。はあ、いつからこんな血の気が多くなっちゃったのかしら。
「はいはい。これでおしまい。後は王国軍に任せましょう。」
そう言って私は二人を連れていった。
「全く。一体なんだったんですかねあいつら。」
「暗殺なんて。あんな雑魚どもじゃあ相手にもならないわよ。」
確かにそうだ。ここに来てなんで私を暗殺しようなんて考えた奴が出てきたのか。今朝の夢のことも相まって、なんだか胸騒ぎがする。これは……急がないといけないわね。
「ねぇ、あなたたち。そろそろ最終試験、始めましょうか。」
〜幕間〜
「はぁー。」
俺は深くため息をつく。現在の王国の現状に嫌気がさしていた。
「定例会議お疲れ様です。ハンス様。」
「ああ、レイブン。本当疲れた。」
定例会議は貴族や大臣たちが一堂に会し、国の行末について話し合う場、と見せかけて実際はどうすれば自分が優位になるかの腹の探り合いをする会議だ。あそこに座っている連中の多くは国のことなんて全く考えていない。ただ自分の懐をこやしたいだけなのだ。
俺はあいつらが気に食わない。どいつもこいつもろくでなしの無能ばかり。歳食ってるだけの老害どもだ。
何より1番許せないのは……。
「あいつらはマイを蔑ろにしている。最近じゃあいつを国から追い出そうなんて宣う奴もいる。」
「……。」
マイがどれだけこの国のために尽くしてきたのか、あいつらはもう忘れている。
そしてマイに対してこう言った奴もいる。
「あの女はもう国のためにならない。あいつは国家予算を食い潰すだけの存在。今すぐ切り捨てるべきだ。」
ふざけるな。マイの研究がなんなのかも知らないくせに。
さらに頭が痛いのはそれを言ったのが、俺の実の兄であるということだ。
兄の名はマルコ・エルメイア。グローリア王国第一王子で、次期国王。今はこの国の軍事の全権を任されている。昔から兄はマイのことが気に食わないらしい。軍事を司っている者としては、自分たちより強力な武力を持っているマイが許せないのだろう。
兄は昔からプライドが高く、下々の人間の気持ちを理解しようとしない。自分が絶対正しい、自分こそ世界の中心であるという風に本気で考えているような人だ。周りの人間はすべて自分の下、それは弟である俺も当然該当する。
「あの……。ハンス様。」
「ん?」
「もう彼女に関わることをやめた方がいいのでは?」
「は? お前まで何を言う?」
俺はレイブンを睨みつける。
「そのようなお顔をされても私の意見は変わりません。」
しかしレイブンは冷静に答える。
まったく。本来王族に睨まれたら謝罪して自分の意見を撤回するはずなんだがな。
「いや、すまない。会議の後で冷静さを失ってた。お前が私情でそんなこと言うはずないものな。」
「いえ、3割くらいは個人的な理由です。私は彼女が嫌いなので。」
おいおいおい。そこはぶれないでくれ。
「ですが、本当の理由は彼女に付き合っていてもあなたに利益は無いと思っているからです。彼女の貢献については私も認めています。そこを蔑ろにするべきではないことも。しかし、彼女は自分勝手で、傲慢な部分も少なからずあります。そういうところが、貴族の皆様やマルコ陛下に受け入れられてないのだと思います。」
たしかに、あいつはちょっとマイペース過ぎる。そしてそのペースに誰もついていけない。
「これ以上彼女と関わると、今度はあなたの立場が危うくなります。そもそも、あなたが彼女と関わる理由はもう……。」
「レイブン。」
俺は例文の発言を遮る。たしかにレイブンの言いたいことはわかる。あいつを擁護すると俺の立場が危うくなることは事実だ。
でも。
「俺とあいつの関係を策略上の関係のように言うのはやめろ。俺はあいつの友人なんだ。少なくとも、俺はそう思ってる。」
「……ハンス様。」
そんな会話をしていると……。
「ほ、報告します!」
突然急いだ声で執務室に走ってきた。
「何事ですか!」
「い、一大事ですハンス陛下! お、王都に魔物の軍勢が侵攻しています!」
「なに!?」
嵐は、突然やってきた。




