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第七話 毛虫とムカデの嫌な部分

 今日も魔法の練習だ。物事に熱中し続けていると充実感が湧いてくる。そして今日はサメーラさんと下級の魔物の討伐依頼も受ける。怖さと楽しみが混ざっていて変な気分だ。あたりに花を咲かせながらそう考えていると、サメーラさんが来た。


「お疲れ様ぁ。討伐依頼、見に行かなぁい?」


「あ、行きます!」


 2人で街へ向かった。2週間以上ここに住んでいるが、私が街へ行くのはこれで2回目だ。街は相変わらず賑やかで、人で溢れていた。

 

 少し歩くと、2つの剣がクロスした絵の看板を見つけた。ここが討伐依頼を受ける店、俗に言うギルドだ。他の店と比べて外装が質素で、少しお酒臭い。

 中には大勢の冒険者やハンターがいた。皆腕に自信のある顔をしている。


 掲示板に貼られた魔物の討伐依頼一覧を見た。どれも異形な姿で、それも写真では無いので同じ人が描いたのだろうなと思う絵がチラホラあった。絵の下には危険度や報酬金額、出現場所、全長などが書かれてある。危険度の高い奴には目撃者の証言や対策も記されていた。思ったよりしっかりしている。

 

「どれがいいかなぁ。星2、3くらいがちょうど良さそうだけど。」


 魔物には星1〜7までの危険度がある。これは冒険者の級と合わせて考えるのが良いとされている。例えば、"星3"の魔物なら下から3番目の"シルバー"の冒険者なら倒せるだろうと言った具合だ。

 

「サメーラさんは星何まで倒したことあるんですか?」


「んー、かなり前だけど星6の奴を一体倒したかなぁ。ホントに死ぬかと思ったよぉ。討伐から2ヶ月は体全然動かなかったし。

 まあ倒したと言っても団体で戦ったからワタシは後方支援が主な役割だったんだけどね。仲間もたくさん死んじゃった。」


 魔物の星7はまだ公式の記録で出現が確認されていない。万が一、星6以上の強さを持つ奴が現れた時のためにあるようなものだ。星7に相当する魔物は古代から伝わる伝記や御伽話(おとぎばなし)にしか登場しない。


「そんな熾烈な戦いが…。すいません余計なこと聞いて…。」


「んーん、全然大丈夫だよぉ。もう何年前だし。あ、これとかどうかな。見た目気持ち悪いけど。」


 サメーラさんは一つの討伐依頼表を指差した。


○ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー○

[ヘアチピード]


 危険度:星2

報酬金額:20000レイル

出現場所:ドレータ共和国北部の山岳地帯

  全長:約5m

  注意:毛に少量の毒を保持。麻痺効果あり


○ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー○


 毛虫とムカデの嫌な部分を合わせたような見た目だった。正直非常に気色悪い。これと戦うのか…。


「うお、すごい見た目ですね…。」


「はは、そうだねぇ。でも強さとしてはちょうどいいんじゃないかなぁ。近接戦なら毛の毒が気になるけど、ワタシ達両方とも魔法使いだから遠距離攻撃も可能だし。」


「じゃ、じゃあこれで…。」


 サメーラさんはカウンターまで行き、討伐依頼表を指差しながら話した。受付の人は立ち上がり、討伐依頼表に赤いスタンプを押した。


 私とサメーラさんは街から出て、少し離れた空き地へ行った。


「よし、じゃあ行っちゃおっかぁ。インキュベート、セルドロス。」


 白銀の鳥がグロテスクに参上する。

 

「あっちの方へお願い。」


 サメーラさんは北方向を指差して言った。セルドロスは小さく頷き、私達を乗せて高速で北へ向かった。

 やっぱり空は綺麗だ。


 少しするとすぐに山岳地帯に着いた。涼しくて過ごしやすい。空気も澄んでいて、気持ちがいい。


「ここらへんにいるらしいんだけどねぇ、どこかなぁ。使っちゃうかぁ。

インキュベート、トンカブー。」


 サメーラさんは茶色に桃色のアーガイル模様が入った球を出して言った。

 大きい豚のような魔物が出てきた。知能は無いように見える。


「いつもこの役でごめんねぇ。じゃあよろしく。

 アカネちゃん、この子囮(おとり)にして誘き寄せるからちょっと離れとこっかぁ。」


 私とサメーラさんは少し離れた岩陰に隠れた。トンカブーはそこらへんをウロウロしてた。草を食べたりゲップしたりと、やはり知能は無い。

 サメーラさんはよくトンカブーを囮に使うそうだ。肉が豊富にあるので野生の魔物の大好物だ。


 しばらくすると、ヘアチピードらしき魔物が出てきた。実物で見ると想像以上に気持ち悪かった。ブニブニしたムカデに毛が生えている。おぇ…。


「お、アカネちゃん、来たよぉ。よし、アカネちゃん、火で攻撃してみて。」


「え、あ、はい。やってみます。」


 いつもと同じように火を生成する。私のあたま2個分くらいの大きさにして、ヘアチピードに狙いを定める。掌に魔力を集めて、それを使って火を飛ばした。

 火は一直線にヘアチピードに飛んでいき、直撃した。


シュゲァァァ…!


 ヘアチピードは(もだ)えていた。体をグネグネ動かして火を消そうと頑張っていた。全身に毛が生えているので火での攻撃は効果的だ。周りの草も焦げている。


「おぉ、苦しんでるねぇ。近づいてみよっかぁ。」


「え、近づくんですか?ここでずっと攻撃できそうですけど。」


「火だけじゃちょっと時間かかるねぇ。大丈夫、毛は刺されても麻痺程度だし、アカネちゃんの火で背中の毛は少なくなってるよぉ。いざとなったらワタシが守るからぁ。じゃ、行ってらっしゃい。」


「えっ、うわぁぁ!」


 サメーラさんは私を風でヘアチピードの方へ飛ばした。私1人なのか。2人で近づくと思ってた。

 ヘアチピードは私を認識すると、燃えながら突進してきた。


「へぇぁぁぁ!」


 咄嗟に石の壁を作って防いだ。しかしすぐに登って来る。

 

「うおわぁぁ!」


 今度は石の壁を空へ高く伸ばした。恐怖で魔力が強化されているのか、練習の時より発動が早く、生成できる物も大きい気がする。

 もつ少し格好良く魔法を使えればいいのだが、今はどう頑張っても無理だ。キモすぎる。


 ヘアチピードは石の壁に押されて空高く上った。一瞬何が起きたのかわからなそうにしていたが、すぐに状況を理解して下へズルズル降りてきた。


 私はヘアチピードに狙いを定め、尖った石を生成した。石の生成より発射に魔力を集中させる。

 ヘアチピードとの距離が4mくらいになった時、


「えぇい!」


 私は尖った石を発射した。発射の寸前目を(つむ)ってしまったが、運良くヘアチピードの前頭部に命中し、貫通した。

 黄土色の血が撒き散らされ、あたりが一気臭くなった。ヘアチピードは地面に倒れ、動かなくなった。

 私は黄土色の血を浴びながらサメーラさんの方を向いて笑った。


「すごいじゃあん。星2を1人で倒すなんて、ブロンズ級だよぉ。」


「え、えへへ。」


「いやぁ、助ける気満々だったのに。驚いたよぉ。さっすがワタシの弟子だぁ。」


 "弟子"その言葉がとても嬉しかった。弟子だとは思っていなかったので少し驚いたが、そんなふうに思ってくれていたのか。


 サメーラさんはヘアチピードの足を一本もぎ取り、しまった。

 討伐依頼は討伐の証拠として魔物の身体の一部を持って帰る。

 トンカブーをしまい、セルドロスを出して私達は街へ戻った。

 ギルドに入ると少し変な目を向けられた。黄土色の血を浴びていて臭いので迷惑だったのだろう。サメーラさんは気にしていないようだった。


「これ、さっきの依頼でぇす。」


 サメーラさんはヘアチピードの足をカウンターにおいた。


「ご苦労様です。こちら、報酬の2000レイルです。」


 受付の人は棚から金貨を4枚出してサメーラさんに渡した。1枚5000レイルか。

 私達はギルドから出た。


「アカネちゃん、はいこれ。好きなもの買いな。2000レイルあれば、大体のものは買えるからぁ。」


 サメーラさんは私に20000レイルを全てくれた。


「え、いいんですか、私1人で全部貰っちゃって。」


「当たり前じゃあん。アカネちゃんが倒したんだからぁ。」


 その後2人で一度家に戻り着替え、また街に来た。

 杖を使うと魔力が強化され、魔法も使いやすくなるらしいので、20cm程の奴を一本買った。

 他にも、付けていると痛みが少し和らぐネックレスや、ポーションなどを入れるポーチも買った。


「おぉ、様になってるねぇ、アカネちゃん。」


「えへへ、ありがとうございます。」


 2人で家に帰る頃には夕方になっていた。家の前につくと、伯爵のような格好をした長身の男性と、そこらへんにいる剣士のような格好をしている少年がウロウロしていた。

 

「ん、誰かいますよ。知り合いですか?」


「あ、あれってもしかして、、、ダグレスト君だ!」


 サメーラさんは小走りで伯爵の男性の方へ行った。肩をポンと叩いて、


「やぁ、久しぶりぃ。」


「おお、サメーラ!久しぶりだなあ!元気してたかあ!」


「アカネちゃん、この人ワタシの友達のダグレスト君。」


「見ねぇ顔だなあ。ダグレストだ。よろしく頼むぜ。」


 伯爵の男性は帽子をとって私の方を見た。


「え、あ、はい。よろしくお願いします。」

 

 


 


 



 






 

↑アーガイル模様はこの2つの三角をくっつけたみたいな模様です。

コメント、評価等よろしくお願いします。( ◠‿◠ )

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