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第五話 サメーラさんち

 飛行中、私は下を見ていた。物凄い速さで飛んでいたが、落ちそうになることはなかった。本当にどこまでも木々ばかりだ。

 

「あいつかもしれないね。あの2人(研究者と護衛)をヤッタの。ありゃプラチナ級でも上位の方じゃないと太刀打ちできないねぇ。カムロも負けちゃったし。」


「あの、カムロって復活とかそういうのは…。」


「ないね。ワタシの魔力で創ったものならできるけど、カムロは野生だったのをワタシが手懐けた。他の子も大体そうだよ。私の得意魔法、説明してなかったね。

 ワタシは、戦って相手にワタシが格上だと認識させると、魔物を捕まえられるの。捕まえた魔物は球にして保管してる。」


「そうですか...。何体くらい保持してるんですか?」


「手持ちは20くらいかな。家には、100くらいあるね。行く場所と目的によって使い分けるの。」


 口がうまく動かなかった。ショックもあるが、サメーラさんにどう接するのが適切なのかわからなかった。そんなこと私が考えるなんて偉そうだとは思うけど、仲間を2人も亡くして何もできず逃げて来て、かなり悔しいはずだ。

 私がいなければ、勝つこともできていたのだろうか。サメーラさんの本気がどの程度のものなのかは知らないけど、私の命のために2人が死んでしまったのなら、なんて謝罪をすればいいのか。謝罪しても、君のせいじゃないよと返されるのはわかっている。

 


 2時間くらい飛行すると、街が見えた。


「お、ついたついた。一度ここで休憩しようか。」


 サハケルナ王国。サメーラさんの出身、ドレータ共和国の隣国。中世ヨーロッパみたいな街並みだ。空き地に降りた。


「リグレッション、セルドロス。お疲れ様ぁ。」


 セルドロスは銀色と白色のグラデーションのかかった球になった。

 

「服買おっかぁ、アカネちゃん。マントじゃスースーするでしょ。」


 サメーラさんと街を歩いた。皆活気付いていて、安いよ安いよと呼び込みの声が常に聞こえる。

 服屋に着いた、中は落ち着いた雰囲気でオシャレな匂いがする。


「どれがいいかなぁ。アカネちゃん小柄だからねぇ。お、これとかどお?」


 サメーラさんは終始笑顔で服を選んでくれた。何着か試着して、最終的にサメーラさんと似たような魔女みたいな服になった。魔女みたいなというのは、私がまだ魔女じゃないからだ。サメーラさんとお揃いで嬉しかった。


「合計8000レイルになります。」


「はぁい。」


「ありがとうござましたー。」


 サメーラさんが奢ってくれた。まあ私は一文無しなので必然なのだが申し訳なかった。


「すいません、8000も。すぐにお返しできるよう…」


「いやいいよいいよ、8000くらい。ワタシお金有り余ってるけど全然使わないからむしろ嬉しいよぉ。」


 サメーラさんは国代表の研究者の一人なだけあってお金はたくさん持っているらしい。でも大体いつも研究しかしていないのであまり消費しないと言う。

 確かに言われてみれば、魔物球を入れている袋もなんだか質素だし、服にも所々綻びが見える。物欲自体あまり無いのかもしれない。


 服屋を出た後は2人で食事をした。サメーラさんは結構大食いで、食べ方も豪快だった。2人とも食べ終わると、サメーラさんは落ち着いた声で、


「アカネちゃんさぁ、これからどうしたいとかあるの?」


「いや、何も…。」


「記憶、無いんだったよねぇ。家族とかも、思い出せない?古郷の街並みとか、風景とか。」


「はい、何も思い出せません…。」


 苦しかった。命の恩人で、こんなにも良くしてもらっているのに私は嘘ばかりつく。罪悪感で胸が締め付けられた。いつか、言ってみようか。本当のことを。もし言ったら、どんな反応をするのだろう。


「じゃあさ、しばらくの間、ワタシと一緒にいない?独りじゃ心細いでしょ。お金も記憶もないんじゃ。ワタシも放って置けないし。」


 研究者って忙しく無いのだろうか。私を保護して、何のメリットがあるのか。いや、メリットを考えて行動する人ではないことはもう知っていた。本当に、なんて優しい人なのだろう。もう正直、しばらくどころか一生そばにいて欲しかった。

 あっちの世界で同性婚がどうとかのニュースを目にしたことがあるがこういう感覚なのだろうか。興味など微塵も持たなかったが、今なら少しわかる気がする。


「え、いいんですか…?私、何も特技とかないですし、魔法も使えないし、研究の助手だってドジだから務まる気がしないんですけど…。」


「そういうんじゃないって!別に何もしなくてもいいよ。アカネちゃんがしたいように過ごしてもらって構わないからさぁ。ワタシ、姉妹いないし、友達も少なかったから親密な関係って憧れてたの。だから、ワタシの願いも入ってるんだぁ。ね、どう?」


「じゃあ、えと、よろしくお願いします。」


 照れながら言った。サメーラさんも笑いながら、


「うん、よろしくねぇ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 また空き地に来た。もう夕方。


「インキュベート、セルドロス。よし、行こうかぁ。朝にはついてるよ。」


 セルドロスは持久力の高さが売りらしい。速力な相当なものだったが。セルドロスに乗ると、セルドロスは豪快に羽ばたき東を目指す。

 夕陽が綺麗だ。雲は紫色や桃色で、風が気持ちいい。

 サメーラさんとはずっとたわいもない会話をした。たまにこの世界の常識やシステムについても。

 気づけばすっかり夜になり、暗くなっていた。満天の星が私達を囲う。月明かりが薄明るく街を照らす。こんな景色初めて見た。風景写真の趣味などは何一つないが、感動した。しばらく興奮していたが、徐々に眠くなっていき、私は眠った。


夢を見た。黒い何かが私を探している。灰色の迷路のような場所で、私は必死に逃げていた。巻いたと思っても、前の曲がり角からそいつが現れて手を伸ばしてくる。また私は逃げて、の繰り返し。

 

 目を覚ますと、まだ上空だった。少し腰が痛い。サメーラさんは寝ていないようだ。


「お、起きたぁ?もうすぐ着くよぉ。」


 相変わらず朝日は眩しい。風景は、森や林が目立つようになった。前方に大きな街がある。中心には高い城があり、朝日で影が大きく作られて、街の半分はまだ暗い。多分あそこだ。


 セルドロスは街の近くの林に降りた。


「リグレッション、セルドロス。ありがとうねぇ。」


 サメーラさんと林の中を突き進むと、一軒家があった。木でできており二階建てで、あたりにはキノコがたくさん生えている。特別大きいというわけでもなく、何回か修復した跡がある。虫も多い気がする。


「ここがワタシのお家だよぉ。入って入ってぇ。」


 不思議な匂いがした。いろんな物が混ざっているような。癖になる匂いだ。

 奥行き3m、横6m、縦2.5mほどだった。本棚がたくさんあって、花も飾られていた。

 

「アカネちゃん、2階に空き部屋あるから、そこ使ってぇ。ワタシ、国の偉い人たちに報告しないといけないから、ちょっと出かけるけど大丈夫?アカネちゃんと行っても多分外で待たされちゃうんだよねぇ。だから私が戻るまで空き部屋の掃除しててくれない?(ほうき)とか雑巾(ぞうきん)はあそこに入ってるから。」


 サメーラさんは荷物を開いて元の位置に戻しながら話した。


「あ、はい。わかりました。ありがとうございます。」


「じゃあ、行ってくるね。なるべく早く戻ってくるからぁ。」


 そう言ってそそくさと出て行った。

 私は箒と雑巾を取り、角にある階段を登って2階に行った。部屋が2つあり、小さいベランダもある。手前がサメーラさんの寝室で、奥のが空き部屋だった。

 ドアを開けると、(ほこり)が舞った。思わず咳き込む。息を小さくし、目も細くして部屋の中に入り、戸を開いた。部屋の中はほとんど空っぽで、いくつか何かの箱があったが、開いたところ何も入っていなかった。

 まず箒で大きな埃の塊を集めて捨てて、次に雑巾で丁寧に全体を拭いた。


 最初に比べるとかなり綺麗になった。汗をかいたが、それも何だか気持ちがいい。良い汗をかくとはこういうことだったのか。あっちの世界では良い汗などかいたことがなかった。

 

 やることも無いので、少しあたりを散策することにした。朝だし、大きな街の近くなので魔物はいないはず。これはサメーラさんに聞いた。木々の密集度も低くひらけているので迷うこともないだろう。

 不思議な形をした虫がたくさんいる。土台はあっちの世界と同じだが、配色や細部が大分(だいぶ)違う。虫は苦手だったが、気持ち悪さより面白さが勝った。足がムキムキだったり、目らしきものが背中にもあったりと個性豊かだ。

 猫とリスを足したような動物もいた。木の実はカラフルで彩度の高いものが多かった。

 私が、自然と触れ合い興奮するなんて、考えたこともなかった。楽しい。

 

 しばらくするとサメーラさんが私を呼ぶ声が聞こえたので、家に戻った。

 

 


 

 


 


 



 


 



 



 


 


見張り役だったファッガスは死んでます。コメント、評価等よろしくお願いします。( ◠‿◠ )

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