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白の神、黒の魔物  作者: ながる
再会の章

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4-5 交換条件

 レンドールは答えに詰まったエストを見て、小さく息をつき、地べたに伏し始めた。


「えっ? なに!?」

「協力してください。何でもします」


 何でもという割には棒読みな台詞に、エストは眉を顰めた。


「急に何よ。さっきまで飛び出してく勢いだったじゃない」

「……だって、そこに書いてあんだろ。土下座してでも協力してもらえって」

「どこに!?」


 もう一度エストは手紙に目を落としたけれど、どう見てもそういうニュアンスは感じ取れなかった。

 立ち上がったレンドールが手紙を回収していく。


「書いてあんだよ。くそ。めんどくせぇ。酒……じゃ、ねぇか。なんだ? 花? 宝石? 甘いもの?」


 その口ぶりにエストは口をへの字に曲げる。エストに読み取れない行間をレンドールが読み解いていることが面白くなかった。面白くはなかったのだが、口からはするりと単語が出た。


パルファイ(パフェ)! ケーキやアイスや果物が盛られた綺麗な食べ物って聞いたわ。それを食べさせてくれると言うなら……少し、考えてもいい……かも」

「おま……それ、中央に行かないと無いだろ!」


 質素な暮らしの反動だろうか。ケーキやアイスだってそう安いものでもない。年に一度の贅沢という人も多いので、パルファイなど幻のデザートと言う人もいるくらいだ。金持ちの酔狂と言われたものがまだ存在しているというのは、味か見た目か、人を惹きつける何かがあるのだろう。レンドールは睨みつけるようなエストの表情を見ながら、腕を組んだ。


 エストにはエストの思惑があった。彼女はレンドールが承諾して、今から行こうということになっても、それは嫌だと断っても、協力を拒むつもりでいた。

 エスト自身も意地の悪いことだとは思っている。けれど、エラリオを探し出すことが共通した目的なのに、効率の悪い口車に乗るような人間なら、彼を見つける役に立つとは思えない。自分で言いだしたことをその場で反故にする答えも論外だった。今後何を言われても信用できなくなる。

 エラリオの言うように、黒い瞳ではなくなったエストに剣は向けてこなかったけれど、今後もそうとは限らない。

 エストの瞳に見えるエラリオの見ている景色は山と木々ばかりだ。少なくとも、都会に向かっている気配はない。この場から中央に向かうメリットは何もないとわかっていた。


 レンドールはしばし考える。

 金額的に痛いことは確かだが、()()()()で恨んでいる男と行動を共にする気になるのだろうか。彼女は手紙を託されただけで、レンドールの手は必要としていないかもしれない。道中だって、蛇との戦い方を見れば、倒せずともトラブルから逃げ切ることくらいはできるだろう。

 簡潔すぎる手紙からは、それを彼女が見ることを想定しているような気配を感じていた。そう思えば、彼女に協力を仰げというのは、あちらからは言いにくいことに折れてくれとも取れる。さらに深読みすれば、「彼女は一人で無茶しがちだから、それとなく守ってやってよ」なんて声まで聞こえそうだった。


 女のお守りを俺に押し付けるなんて、無茶だぞ。と、心の中で悪態をつきながら、彼女が納得しそうな答えは何だろうと、普段使わない頭をフル回転させた。……ものの。

 いかんせん、経験値が足りな過ぎた。

 そういうのは、一朝一夕で出てくるものではない。早々に諦めて、ガリガリと頭を掻く。


「よくわかんねーけどさ。エラリオはいきなり都会に出たりしないと思うんだよな。だから、移動するなら渓谷沿いか、辺境の村や集落を渡り歩く感じにするんじゃねーかな。だとしたら、今中央に向かうのは効率が悪すぎる。エストが何をできるのか知らねーけど、あいつが北の集落にいますって訳じゃないんだったら、報酬は中央の近くを通る時までちょっと預けてくんねーかな」


 エストが目を見開いたまま答えなかったので、レンドールは慌てたように付け足した。


「あー、なんなら、立ち寄る場所で何か甘いものひとつずつ付けてもいい……利息代わり、みたいな? あ、いや、甘いものは例えで、別に食い物じゃなくても……」


 ひどく見当違いなことを言っているような気がしてきて、語尾が小さくなる。偶然を装って後をつけていった方が早いんじゃないかと「やっぱいいや」と言いかけた。


「……いいわ。わかった」


 だから、タッチの差でそう言われて、レンドールは少し驚く。


「え? いいのかよ」

「しばらく様子を見るわ。本当に協力した方がいいのか……わかるもの。でも、ダメだと思ったらそこまで。私、自分に嘘はつけないから」

「まあ、それは俺もそうだから……いいぜ」


 握手を交わすでもなく、微妙な距離を保ったままの二人だったけれど、ともかく今後のことを話せる場は必要だった。


「あ、じゃ、じゃあ、利息! さっそくいただくわ。さっき、かわいいケーキを売ってるお店、あったから……こ、腰を落ち着けて話せるし!」


 そわそわと急に落ち着きをなくしたエストが、レンドールを押しのけるようにして先を行く。

 わずかにはずむ足取りを見て、レンドールは少し心配になった。エラリオは彼女に何を教えたのだろう。世の中には今握った手で相手を刺す輩もいる。気を許せない相手に簡単に背中を見せるなんて……


「まあ、だから、この手紙なんだろうな」


 それにあの瞳だ。エラリオに見張られているようで、下手な態度は取れない。

 そこまで計算しているのだとしたら、自分もいいだけエラリオに知られているということになる。

 六年も会ってないのに。


「……何か言った? 時間がもったいないわ。早くしなさいよ」


 振り返ったエストに肩をすくめてみせて、レンドールはくしゃくしゃになった手紙をひとまず懐へしまい込んだ。

 薄暗がりの小路から、明るい大通りへと足を踏み出す。それはエラリオへ続く光明にも感じて、レンドールの足取りも少しだけ弾ませるのだった。


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