56.東京埠頭。敵のアジト発見
その後、恭一達は退魔師協会を通じて警察に協力要請を出した。
東京各所に鬼が現れて事件が起こったことで、警察も治安維持がどうのと各所から叩かれているらしい。
『退魔師協会に協力して事件解決に尽力した』という実績が欲しいらしくて、喜んで情報を提供してくれた。
そして、警察が保有している自動車ナンバー自動読み取り装置……通称・Nシステムの情報を照会したところ、不審な車両の動きが発見された。
何故か東京各所で不自然なくらいに献血カーが走っており、おまけに彼らは鬼が暴れ出した時刻に同じポイントに向かって移動していたのだ。
確認をしたところ、その献血カーが偽物であることがわかった。
偽・献血カーが向かっている場所は東京湾埠頭の一つ。貨物を保管しておくための倉庫がある区画だった。
「その辺りの捜査は警察がお手の物だな。もっと早めに協力を要請したら話が早かったんじゃないか?」
「警察と退魔師は基本的に仲が悪いからね。そう簡単にいかないでしょ」
移動の車内にて、恭一の問いに美森が答えた。
退魔師協会が用意した車には二人の他にも華凛、信女、ロゼッタが乗っており、運転は協会が用意した人間がしている。
車が向かう先はもちろん、謎の献血カーが集まっている東京湾の埠頭である。
「警察は人間の犯罪、退魔師は妖怪の被害をそれぞれ食い止めるためにいるけれど、事件によってはお互いの領分が被っているケースもあるからね。警察としても治安維持を退魔師が担っていることを苦々しく思っているんでしょ」
警察と退魔師は仲が良くない。
お互いがお互いにとって目の上のたん瘤であり、邪魔者のような存在であった。
退魔師が妖怪退治を警察に邪魔されるケースもあれば、警察の捜査に退魔師がしゃしゃり出てくることもある。
そのため、お互いに関わり合いにならないように避けている部分があるのだ。
「そういえば、街で因縁ふっかけてきた奴をボコったら補導されたことがあったな。学生の頃だけど」
「私も警察の人に職質で止められちゃったことあるなー。セーラー服で日本刀差して歩いてただけなのに」
「槍を持って歩いていたら、止められたわ。失礼しちゃう」
「街中で拳銃ぶっぱなしたら捕まったわね。ファッキンポリ公ども」
「……貴方達は捕まった方が良いと思うわ。同業者の私が言うのもなんだけどね」
美森が呆れた様子で言う。
それと同時に車が停車した。どうやら目的地に到着したようだ。
恭一と美森、華凛が車から降りる。
「……着いたみたいね。例の倉庫よ」
「……結界が張られているようだな。用意周到なことで」
近づいてみて、気がついた。
その倉庫の周りには結界が張られている。
外敵の侵入を拒むためというよりも、中で起こっている異常を外に気取られないようにするためのものだろう。
かなり近づかなければ、結界の存在すら感じ取ることができなかった。
周到に用意されたものに違いない。
「日付が変わるまであと五分。かなりギリギリだね……!」
華凛がスマホの画面を確認しながら、キュッと唇を強く結ぶ。
刀桜会というグループに所属している華凛にとって、鬼哭衆は因縁の敵だ。
今まさに因縁に決着がつこうとしている場面を前にして、緊張しているようだった。
「おそらく、中には生成り鬼が待ち構えていることでしょう。相手は死に物狂いで儀式の達成を目指しているでしょうし、死闘になるのは避けられないはずよ」
後から車を出た信女が景気づけとばかりに水筒に口をつける。匂いからして、水筒の中身は酒のようだ。
美森が左右に式神を召喚して、両手に符を構える。
「敵は強大……だけど、このメンツだったらよほどのことがない限り、敗北はないはずよ」
「うん、みんなのことを信じてる! 絶対に勝とうね!」
華凛が力強く宣言して、刀を抜いた。
鬼斬りの力を宿した破邪の妖刀……安綱を問題の倉庫に向ける。
「突撃―!」
華凛の掛け声を合図に、美森が、信女が、ロゼッタが動き出す。
決死の覚悟を込めて倉庫へと踏み入ろうと駆けだした。
「蒼雷」
直後、恭一が放った特大の雷が空から降りそそぐ。
神の怒りのごとく落ちてきた雷撃が容赦なく結界を貫いて、鬼哭衆が潜んでいる倉庫を爆破させたのである。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク登録、広告下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。