49.女の恨みは恐ろしい(いや、本当に)
蘆屋恭一。
賀茂美森。
渡辺華凛。
上杉信女。
ロゼッタ・ジャンヌ。
かつて2級退魔師昇格試験において、決勝トーナメントに残ったメンバーの五人がその場に集結していた。
「今さらなんだが……お前ら、そんなに仲が良かったか?」
「あの試験の後、MINEグループを作ったのよ。『女性退魔師婦人会』っていう名前でね」
恭一の問いに美森が答える。
先ほどまで凍えていたというのに、現在は体温が戻ったのかホクホク顔で頬を紅潮させていた。
合流した五人の退魔師は近くにある喫茶店に足を運んだ。
事前に話を通していたのか、通されたのは二階にある個室だった。
暖房が効いた部屋の中は外とは別世界のように温かく、最初からここを集合場所にしてくれよとツッコみたくなる。
「退魔師は他の業種ほど女性蔑視は強くないけど、それでも色々と言ってくる人達がいるからね。一緒に退魔師協会を盛り上げていこうって意気投合したのよ」
「へえ、それで婦人会というわけか。昨日の敵は今日の友ってやつだな」
この四人は試験の時には敵として戦っていたはずなのだが、因縁や禍根はないのだろうか?
「卑劣な手段を使われたのならばまだしも、全力で戦って敗北したことは誉れじゃない。その結果に物言いをつけるような、みっともない真似はしないわよ」
腕を組み、憮然とした様子で言い放ったのは上杉信女である。
二回戦で美森に負けた彼女であったが、その結果に納得しているらしい。
「勝負は時の運よ。正直、次に戦ったら勝てる自信はないわ」
美森も謙遜して、信女の顔を立てている。
どうやら、本当に二人の間に遺恨はないようだ。
「どちらかというと、溜まったものが残ってるのはお兄さんに対してかなー?」
「あ? どういう意味だ?」
華凛が悪戯っぽく「ニヘヘ」と笑う。
「MINEではお兄さんの話題も出るんだよ。いっつも悪口で盛り上がるの」
「そうだな。どちらかというと、嫌っているのはお前の方だ」
「……嫌いだわ。貴方は」
信女が頷いて、それまで黙っていたロゼッタ・ジャンヌもまた同意する。
隣の席に座っている美森が苦笑して、恭一の肩を小突く。
「わかってないみたいだけど……ここにいる女の人、みんな貴方に思うところがあるからね?」
美森は言うまでもなく、恭一の被害者。
助けられてもいるが迷惑をかけられていることも多く、高尾山ではお尻ペンペンまでされている。
華凛、信女は二人とも乳を揉まれている。
華凛に至っては、2級昇格試験の準決勝で敗北しており、その際にもセクハラじみたことをされていた。
ロゼッタもまた決勝戦で敗北しており、その際にセクハラを受けている。
おまけに、恭一の推定父親であるゼウス神との間にも深い深い因縁があった。
「むしろ、貴方の悪口で結ばれた仲間のようなものね。貴方がいなかったらこの集まりはなかったと思うわ」
「被害者の会じゃねえか……俺にヘイトを集めるなよ……」
恭一が頭痛を堪えるように額を指で抑える。
同時に個室の扉が外からノックされて、店員が飲み物を運んできた。
「俺への文句はこれくらいにして、さっさと仕事の内容を教えてくれよ。華凛、わざわざこのメンツを集めた目的はなんだ?」
恭一がコーヒーに口をつけてから、そう切り出した。
恭一は先日、護衛任務で華凛と一緒になった。
その縁で連絡先を交換したのだが……数日前、依頼を受けて呼び出された。
仕事の依頼については直接話したいからと説明を受けていない。
だが……報酬額は提示されており、一億円が提示されていた。
「2級退魔師である俺と美森、依頼人である華凛を含めたら三人か。それに加えて3級退魔師を二人も雇うだなんて、よほどの依頼なんだろうな?」
「うん。もちろんだよ、お兄さん。私の依頼は今年で一番の大仕事になるはずだよ」
華凛がコクコクと頷いて、テーブルに置かれたオレンジジュースを一気飲みする。
「プハッ……私の依頼は鬼の討伐。『生成り』と呼ばれる鬼の徒党の殲滅だよ!」
華凛は空になったコップをテーブルに置いて、そんなことを口にした。
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