表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/61

43.高い酒は雑に飲むのが美味い

 滝夜叉姫が骸骨を操り、死体を武器にして襲いかかる。

 華凛が刀を振るい、迫りくる骸骨を次々と斬り伏せていく。


 一進一退。

 女の戦いは白熱していく一方。


「そして……それを見物している俺。良いご身分だよな。まったく」


 蚊帳の外に置かれた恭一は二人の戦いを離れた場所から見学して、何か口に入れる物はないかと部屋を見回す。

 壁にワインラックがあった。適当なボトルを手にとって、コルク抜きを使うことなく開けた。


「良い香りだな。銘柄はしゃとーむーとん……読めんな。どうでもいいが」


 口をつけて、ボトルの中の液体を半分ほど飲む。


 美味い。

 恭一はグルメではないが、おそらく高価であろうその酒は美味く感じる。

 安酒だろうと高級ワインだろうと、美味い物は美味いし、不味い物は不味い。

 つまり、銘柄などどうでもいいのである。


「値段と美味さは関係ないが……俺のように味のわからん男が高い酒を雑に飲んでいると思うと、それだけで愉快になるな」


「主様、それは悪趣味というものです」


 恭一の傍らに式神の静が現れた。

 重箱を持っており、蓋を開けて恭一に差し出してくる。


「長期戦になるかもしれないので、念には念を入れて夜食を作っておきました。どうぞ、お召し上がりくださいませ」


「おお、気が利くな」


 重箱には稲荷寿司と助六寿司が詰められていた。

 ワインの共としては不自然極まりないが、酒の肴になるのなら構わない。

 助六をつまんで口に放り込む。


「へえ……腕を上げたな」


「恐縮です」


「お前も飲めよ。なかなかイケるぞ」


「それでは、一献(いっこん)(たまわ)ります」


 静がワインを受け取り、口元を手で隠しながら控えめに飲む。


「美味しゅうございました」


「ああ」


「そこ! まったりしないの!」


 暢気に酒を飲んでいる恭一と静に、華凛が叫んだ。


「こっちが一生懸命、戦ってるんだからねっ! お兄さん達もちゃんと働いてよね!」


「いや、だから俺は依頼人を守ってるんだよ。戦いに巻き込まれないようにな」


 言いながら、恭一は床に転がって気を失っている松田山本権蔵を踏みつける。


「役割分担ってやつだな。こっちのことは気にしなくて良いから、戦いに集中してくれ。頑張れ頑張れ」


「ああもうっ! ズルいんだから!」


 華凛が目の前の骸骨を両断する。

 実際、華凛は多勢に無勢でありながら上手く立ち回っており、助太刀が必要であるようには見えなかった。

 このまま勝ってくれたら、大した労力を払うことなく多額の報酬をせしめることができる。万々歳だ。


「いけ好かない男ね……蜘蛛丸、夜叉丸」


「「ハッ!」」


 骸骨の兵隊を操る滝夜叉姫の後方に、二人の男が現れた。

 上半身裸の筋骨隆々とした大男。黒衣をまとった小柄で痩せた男。

 いずれも骸骨を被っており、顔は見えない。


「標的を殺しなさい。あっちの二人も嬲って良いわ」


「「御意」」


 何もせずに終わることはできないようだ。

 滝夜叉姫の部下らしき二人組が恭一と静めがけて、飛びかかってきた。


「濡れ手に粟とはいかないもんだな」


「主様、私が」


「いや、下がれ」


「ヌウン!」


 大柄な男……蜘蛛丸の拳が膨張して巨大化した。

 巨岩のようになった拳が猛スピードで振るわれるが、恭一が足で蹴り止める。

 大型トラックが衝突したような衝撃だ。3級以下の退魔師であれば、今の一撃で終わっていたことだろう。


「静、お前はそのゴミ……じゃなくて、クズ……でもなくて、ドブカスの護衛を頼んだ」


「キイッ!」


 続いて、黒衣の小柄な男……夜叉丸が長い爪で斬りかかってきた。

 怪しく輝く爪の先端はドロリとした液体で濡れている。

 間違いなく、毒だろう。

 爪が恭一の身体に触れるよりも先に、雷が降る。

 夜叉丸はすんでのところで雷撃を回避して、後方に跳んだ。


「キキイッ!」


「臭え爪を近づけてんじゃねえよ。鬱陶しい」


「ワレらの攻撃をウケトメルとは……ザコではないナッ!」


「キキイッ! キイッ!」


 蜘蛛丸と夜叉丸が吠えて、威嚇してきた。

 しゃべり方だけでも喧しい連中である。


「雑魚じゃないね。それはこっちのセリフだぜ……面倒臭え」


 蜘蛛丸と夜叉丸。

 小物臭の漂う二人組であったが、どちらもかなり強い。

 妖怪としては、少なくとも3級以上。2級でも通るかもしれない実力だ。


「三下でもこのレベルとは参るよな。楽して大金とはいかないものだ」


「グオオオオオオオオオオオッ!」


 蜘蛛丸の身体が巨大化して、天井近くまでのサイズになる。

 一方で、夜叉丸の姿が影に溶けるようにして消えて、見えなくなった。


「面倒だが……ちょっと本気を出すか」


 恭一は鬱陶しそうにぼやきながら、稲光をまとった拳を握りしめた。


こちらの作品も投稿中です。よろしくお願いします!


・異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

https://ncode.syosetu.com/n5482il/


・勇者の子供を産んでくれ 邪神と相討ちになった勇者は子孫を残せと女神に復活させられる

https://ncode.syosetu.com/n8269ik/


・自分をイジメていたクラスメイトが異世界召喚されて「ざまあ」と思ってたら遅れて召喚された。ペンギンになってしまったが美少女に可愛がられているので復讐とかどうでもいい。

https://ncode.syosetu.com/n5174il/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ