43.高い酒は雑に飲むのが美味い
滝夜叉姫が骸骨を操り、死体を武器にして襲いかかる。
華凛が刀を振るい、迫りくる骸骨を次々と斬り伏せていく。
一進一退。
女の戦いは白熱していく一方。
「そして……それを見物している俺。良いご身分だよな。まったく」
蚊帳の外に置かれた恭一は二人の戦いを離れた場所から見学して、何か口に入れる物はないかと部屋を見回す。
壁にワインラックがあった。適当なボトルを手にとって、コルク抜きを使うことなく開けた。
「良い香りだな。銘柄はしゃとーむーとん……読めんな。どうでもいいが」
口をつけて、ボトルの中の液体を半分ほど飲む。
美味い。
恭一はグルメではないが、おそらく高価であろうその酒は美味く感じる。
安酒だろうと高級ワインだろうと、美味い物は美味いし、不味い物は不味い。
つまり、銘柄などどうでもいいのである。
「値段と美味さは関係ないが……俺のように味のわからん男が高い酒を雑に飲んでいると思うと、それだけで愉快になるな」
「主様、それは悪趣味というものです」
恭一の傍らに式神の静が現れた。
重箱を持っており、蓋を開けて恭一に差し出してくる。
「長期戦になるかもしれないので、念には念を入れて夜食を作っておきました。どうぞ、お召し上がりくださいませ」
「おお、気が利くな」
重箱には稲荷寿司と助六寿司が詰められていた。
ワインの共としては不自然極まりないが、酒の肴になるのなら構わない。
助六をつまんで口に放り込む。
「へえ……腕を上げたな」
「恐縮です」
「お前も飲めよ。なかなかイケるぞ」
「それでは、一献賜ります」
静がワインを受け取り、口元を手で隠しながら控えめに飲む。
「美味しゅうございました」
「ああ」
「そこ! まったりしないの!」
暢気に酒を飲んでいる恭一と静に、華凛が叫んだ。
「こっちが一生懸命、戦ってるんだからねっ! お兄さん達もちゃんと働いてよね!」
「いや、だから俺は依頼人を守ってるんだよ。戦いに巻き込まれないようにな」
言いながら、恭一は床に転がって気を失っている松田山本権蔵を踏みつける。
「役割分担ってやつだな。こっちのことは気にしなくて良いから、戦いに集中してくれ。頑張れ頑張れ」
「ああもうっ! ズルいんだから!」
華凛が目の前の骸骨を両断する。
実際、華凛は多勢に無勢でありながら上手く立ち回っており、助太刀が必要であるようには見えなかった。
このまま勝ってくれたら、大した労力を払うことなく多額の報酬をせしめることができる。万々歳だ。
「いけ好かない男ね……蜘蛛丸、夜叉丸」
「「ハッ!」」
骸骨の兵隊を操る滝夜叉姫の後方に、二人の男が現れた。
上半身裸の筋骨隆々とした大男。黒衣をまとった小柄で痩せた男。
いずれも骸骨を被っており、顔は見えない。
「標的を殺しなさい。あっちの二人も嬲って良いわ」
「「御意」」
何もせずに終わることはできないようだ。
滝夜叉姫の部下らしき二人組が恭一と静めがけて、飛びかかってきた。
「濡れ手に粟とはいかないもんだな」
「主様、私が」
「いや、下がれ」
「ヌウン!」
大柄な男……蜘蛛丸の拳が膨張して巨大化した。
巨岩のようになった拳が猛スピードで振るわれるが、恭一が足で蹴り止める。
大型トラックが衝突したような衝撃だ。3級以下の退魔師であれば、今の一撃で終わっていたことだろう。
「静、お前はそのゴミ……じゃなくて、クズ……でもなくて、ドブカスの護衛を頼んだ」
「キイッ!」
続いて、黒衣の小柄な男……夜叉丸が長い爪で斬りかかってきた。
怪しく輝く爪の先端はドロリとした液体で濡れている。
間違いなく、毒だろう。
爪が恭一の身体に触れるよりも先に、雷が降る。
夜叉丸はすんでのところで雷撃を回避して、後方に跳んだ。
「キキイッ!」
「臭え爪を近づけてんじゃねえよ。鬱陶しい」
「ワレらの攻撃をウケトメルとは……ザコではないナッ!」
「キキイッ! キイッ!」
蜘蛛丸と夜叉丸が吠えて、威嚇してきた。
しゃべり方だけでも喧しい連中である。
「雑魚じゃないね。それはこっちのセリフだぜ……面倒臭え」
蜘蛛丸と夜叉丸。
小物臭の漂う二人組であったが、どちらもかなり強い。
妖怪としては、少なくとも3級以上。2級でも通るかもしれない実力だ。
「三下でもこのレベルとは参るよな。楽して大金とはいかないものだ」
「グオオオオオオオオオオオッ!」
蜘蛛丸の身体が巨大化して、天井近くまでのサイズになる。
一方で、夜叉丸の姿が影に溶けるようにして消えて、見えなくなった。
「面倒だが……ちょっと本気を出すか」
恭一は鬱陶しそうにぼやきながら、稲光をまとった拳を握りしめた。
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