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40.蹴りたい依頼人

「フフンッ! 2級退魔師が来ると聞いていたからどんなものかと思えば……ただの若造ではないか!」


「…………」


 とある豪邸の一室にて。

 恭一は偉そうに吠える男の顔面に拳を叩きつけるべきかどうか、心から迷っていた。


 その日、恭一はセフレである青井双葉を通して、松田山本権蔵というやたら長い名前の人物に雇われ、その屋敷を訪れていた。


 依頼内容は護衛。

 松田山本権蔵氏は何者かに命を狙われているらしく、退魔師協会を通じて身辺警護を依頼したのだ。

 松田山本権蔵氏はとある金融会社の役員をしており、かなり阿漕(あこぎ)な取り立てによって巨万の富を築いた。

 限りなく暴力団に近い一般人というグレーな存在であり、警察のみならず税務署などからも目を付けられているそうだ。


 彼に対して恨みを抱いている人間は数知れず。

 執拗な金の取り立てによって、自殺している人間も多い。

 今回、松田山本権蔵氏を狙っているのも、金銭関係が理由で恨んでいる人間と思われている。


「こんな若造に何かできるとは思わんがな! せいぜい、専属の護衛達の邪魔にならないように隅で小さくなっとるが良い!」


「…………」


 言うだけ言って、松田山本権蔵が椅子に座ってふんぞり返る。

 彼の周囲には別口で雇った護衛が大勢いた。

 プロレスラーのような大男。腰にナイフや拳銃を差した黒服の女。軍人風の外国人もいれば、顔にイレズミを入れたギャングのような危ない人間もいる。

 確かに、この集団に混じっていたら、恭一など金髪の優男に見えるだろう。


(俺が暗殺者になってやろうか……コイツ、殺されても仕方がないんじゃないか?)


『主様、お命じ頂ければ拙が仕留めて御覧に入れます』


 胸の内から、静が淡々と言ってくる。

 普段から感情を見せることのない静であったが、珍しく怒っているようなオーラが伝わってきた。


(放っておけ。相手にするだけくだらねえ)


『そもそも、どうしてこの人物は主様を雇ったのでしょう。これだけ護衛を雇っているのなら、必要ないのではないですか?』


(自分は2級退魔師を雇うことができるだけの財力があるってアピールしたいんだろ。もしくは、ただマウントが取りたいだけかもな)


 2級退魔師である恭一よりも、自分に仕えている専属の護衛の方が役に立つ……そんなふうに、こき下ろしたいだけなのかもしれない。


(正直、あんなオッサンが殺されたところでどうでもいいな。死ぬなら勝手に死んでくれって感じだ)


『でしたら、今からでも帰りましょうか?』


(そうもいかないのが、男の悲しい部分だよ。俺がドタキャンしたら、双葉の顔を潰しちまうからな)


 護衛依頼を持ってきたのは青井双葉だ。

 もしも恭一がここで帰ったり、依頼主を殴ったりしたら、双葉に迷惑がかかることだろう。


(まあ、依頼料はやたらと良いからな。前払いの料金だけでもサラリーマンの年収十年分以上。こうやって嫌味を聞き流しているだけで金が手に入るんだから、美味しい仕事と言えばそうだろうよ)


『では、このまま様子見ということでよろしいですか?』


(ああ。自慢の護衛のお手並みとやらを拝見させてもらおうじゃねえか。意外と予想外の展開が拝めるかもしれねえぜ?)


 願わくば、高い金を出して雇った護衛が軒並みやられるところを見たいものである。

 尻に火が点いて焦る松田山本権蔵の姿が見られたら、なおさらに良い。


(まあ、依頼失敗となれば前金を返すことにもなりかねないし、適当に酷い目に遭ったうえで命は無事ってのがベスト……)


「ごめんなさいっ! 遅れました!」


「あ?」


 部屋の扉が勢いよく開け放たれ、小柄な少女が飛び込んできた。

 その人物の姿を認めて……恭一は怪訝に目を細める。


「『刀桜会』を通じて依頼を受けました。渡辺華凛です! よろしくお願いしまーす!」


 現れたのは、2級昇格試験で一緒になったセーラー服の女子中学生。

 鎌倉の退魔師。『鬼斬り役』の渡辺華凛だった。


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[一言] 華凛ちゃんヒロインになるかな?希望します
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