38.その後の顛末
こうして、恭一は陰摩羅鬼の討伐に成功。
天竜からの依頼を無事に果たすことができた。
夜の山を蠢き、彷徨っていた万を超える怪鳥は全て祓われた。
もう二度と彼らが地上に現れることはない。無事に成仏を果たしたのである。
報酬は莫大な小判の山。
かつて水害をもたらしていた天竜川を鎮めるため、大昔の人間が川に沈めて奉納したものである。
その金額は推定一億円。
換金の手間はかかるだろうが、かなりの収入になることが間違いない財宝だった。
「あの……こちらの小判ですが、警察に届けましたか?」
「は……?」
報酬の小判を手にした恭一はさっそく換金のために古物商を訪れた。
小判の価値なんて知るわけがない。
いくらで売れるのかを訊ねたところ、『警察』という思わぬ単語が飛び出してきた。
「こちらの小判は間違いなく江戸時代以前のものです。一枚当たりの買取価格は最低でも百五十万はするでしょう。ですが……問題はこちらの小判をどこで見つけてきたのかです」
「それは……」
「ご存知ないかもしれませんが、埋蔵金などを発見した場合にはすぐに警察に届けなければいけないんですよ。『占有離脱物横領罪』に該当してしまいますから」
「…………」
「それで……こちらをどこで見つけたんですか?」
古物商が笑顔で、けれど疑うような目で恭一のことを見つめてくる。
説明はできない。
今回の天竜からの依頼は内密にとのことで請け負ったもの。
天竜の眷属である河童が封印を壊し、大昔の怨霊が解き放たれたなど、醜聞になるからだ。
関係ないとばらした場合にはどんな報復があるかわからない。
相手は古参の竜神にして水神。祟りも半端ないものになるだろう。
「……じ、実家の物置で見つけました」
「…………」
その場で考えた嘘は古物商には通用しなかったらしい。
古物商は笑顔のまま、電話を取り出して、「警察を呼びますね」と110番をし始めた。
その後、恭一は駆けつけた警察に事情を説明することになった。
依頼者の名前、依頼内容をぼかしてした説明はなかなか信じてもらえなかったのだが、『2級退魔師』という肩書のおかげで、最終的にはどうにか納得させることができた。
上位の退魔師は国家にとって重要な戦力。
軽犯罪くらいなら、見逃されることが多い。
妖怪を退治するために必要なことであれば、殺人だって見逃されるという都市伝説もあるくらいだ。
今回の恭一の場合も、刑法的な犯罪にはならなかった。
しかし、手に入れた多額の小判は公の知るものとなり、国から税金がかけられる課税対象となってしまった。
妖怪を討伐したことで得られる金銭は宗教法人への寄付と同じで非課税なのだが、今回の場合はそうはいかない。
神様から受け取ったというのは所有権の無い遺失物を獲得したものとみなされ、所得税の対象となったからだ。
小判の売却価格の半分が税金として取られることになり、恭一は歯噛みして悔しがることになるのであった。