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31.会議は踊る。そして押しつける

 かくして、2級昇格試験は幕を下ろすことになるのだが……その背後では少なくない混乱があった。

 混乱の最たる原因は第三次試験の最終勝者である蘆屋恭一……その男の来歴についてである。


「まさか、ギリシアのゼウスの子供が日本にいたのか!?」


「どうするのだ、いったいあの男をどのように扱うつもりだ!?」


 あの戦いを目にした者、後になって報告を受けた者。

 退魔師協会の理事達はそろって大混乱。

 蘆屋恭一という特大の爆弾を抱え込んでしまったことに動揺して、臨時総会が開かれることになった。


「他国の神の子となれば、それこそ国賓待遇として扱わねばならぬ!」


「下手な扱いをすれば国際問題だ……それもやむを得ぬか」


「いやいや、あくまでも蘆屋恭一は日本人だぞ!? 外国の要人というわけでもないし、父親とは会ったこともないという話ではないか!」


「そもそも、本当にあの男の父親はゼウス神なのか? あのシスターが言っているだけではないのか?」


 理事達はそれぞれの意見を述べて、ぶつけて、話し合ったが……答えはなかなか出ない。

 外国に対して弱腰で内向的な、日本人の悪い部分が出てしまったともいえる。

 数時間にもわたって紛糾した会議であったが……やがて、一つの形で収束することになった。


「ウウム……今回の一件だが、小野理事に任せてはどうだろう?」


「は……?」


 理事の一人……藤原という男の発言に、小野が目を丸くした。


「小野理事が試験監督をしている現場で、蘆屋恭一という青年の来歴がわかったのだ。これも何かの縁。小野理事に彼についての一切を任せるとしよう」


「それもそうだな! では、全ては小野君の責任の下で対応を行うということで」


「…………」


 完全な押し付けである。

 小野が他の理事達に目を向けると、全員が揃って目を逸らした。


(何という無責任な……この老人共は……!)


 小野は顔を顰めそうになるが、どうにか堪えて、メガネの中縁を指で押し上げる。


「……承知、いたしました。それでは、蘆屋5級退魔師……改め、2級退魔師の処遇はお任せください」


 退魔師協会の決定は多数決制。

 小野がいくらごねたところで、もはや小野が蘆屋恭一を押しつけられたことは覆らない。

 ならば、受け入れた上で建設的な意見を出した方が良いに決まっている。


「それでは、今後のことですが……蘆屋2級退魔師は戸籍上、疑いようのない日本人。ゼウス神の子であるというのもリソースが足りない情報ですから、あくまでも日本人として扱って国賓待遇などは取らないものとします」


「フウム……しかし、彼を軽く扱うようなことをして国際問題に発展しないかね?」


「大丈夫でしょう。蘆屋2級退魔師は父親と会ったことはないと仰っていたように、仮に彼の父親が本当にゼウス神だとしても、それほど関心がないものと思われます」


 実際、ギリシア神話においてゼウスは多くの女性との間に子を作るが……その子供に対して、そこまで過保護に接するようなことはしていない。

 子供を作るだけ作って、放置していることも多いのだ。

 蘆屋恭一に対して、別段の特別待遇は必要あるまい。


「とはいえ……ギリシア人やゼウス信者の人間の中には、蘆屋2級退魔師の引き渡しを求めてくる人間がいるかもしれません。ですから、蘆屋2級退魔師についての情報は一切公表しないでください。例年のように……試験の映像をマスコミに売りつけたり、ネットにアップしたりするのも厳禁です」


 小野がジロリと睨みつけると、何人かの理事が気まずそうに視線を逸らす。


「これは非常にデリケートな問題です。蘆屋2級退魔師の情報が漏れた場合、ゼウス神の関係者……特に、奥方が動く可能性もゼロではありません」


 ゼウスの妻……女神ヘラは嫉妬深い神として有名である。

 かの神は夫が他の女と子を成すことを許しておらず、ゼウスとアルクメーネーという女性の間に生まれた子供……ヘラクレスの命を執拗に狙っていた。

 恭一の存在に気がつけば、同じようなことが起こるかもしれない。

 最悪、女神ヘラが日本に乗り込んでくる……などということもあり得るだろう。


「もしも緘口令を破った人間には厳罰を与えることを、今回の臨時総会の決議として挙げます。もちろん……反対する方はいませんよね?」


「…………」


 反対意見は挙がらない。

 小野が言うとおりに、恭一の情報を漏らさないように決められるだろう。


「賀茂3級退魔師、ジャンヌ3級退魔師には、私の方から注意しておきます……蘆屋2級退魔師は来歴はともかくとして、類まれなほどに優秀な人材です。いたずらに触れるようなことをしなければ、大きな問題を起こすこともしないでしょう」


 今回の2級昇格試験には個性的なメンツが大勢いたが、恭一は人間性だけを見れば、むしろ大人しいとすらいえる印象である。

 怠惰な人間ではあるのだろうが……それゆえに、積極的に問題を起こしはしないはず。


「それでは……蘆屋2級退魔師についての話はここまでとして、話し合いを本題に戻しましょう」


 小野が手を鳴らして、本来、この場で話さなければいけない話題を切り出した。


「今回の試験による、昇格者を決めましょう。蘆屋2級退魔師は優勝したので確定として……他にも相応の実力を示した方には2級の資格を与えても良いはずです」


「そうですな……私はやはり賀茂美森を推しますな」


「いやいや、実力ならば渡辺華凛が……」


 理事達はどこか安堵した様子で、小野が提案した議題について話し合いを始めた。


 問題の先送り。

 これもまた、古き良き日本人の特徴なのである。


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