29.父の名は
かくして、長い長い2級昇格試験も終わりの時がやってきた。
試験二日目。対人戦闘試験。
トーナメント形式で行われた試験の、最終試合が行われようとしていた。
「やはり、貴方ですか。因縁というか因果というか……」
準決勝からわずかな休憩を挟んで、恭一は再びスタジアムに送り込まれる。
連続試合というだけで、かなりの不利な状況。
恭一の前に現れたのは……修道服を着たシスターだった。
二人が顔を合わせて立ち、電光掲示板に試合開始までのカウントダウンが表示される。
「今の気持ちを言葉にするのなら……Fack You。豚とセックスしてください」
「豚じゃなくて、お前としたい気分だな。ファック・ユー……直訳すると、「貴方とセックスする」って意味だろう?」
連続試合での疲労を見せることなく、恭一はスタジアムの中央で不敵に笑う。
疲れていないわけではないのだが……渡辺華凛という強敵と戦った直後のため、エンジンは温まっている。
むしろ、やる気がなかった最初の頃よりも調子が良いくらいだ。
「銃口で良ければ、喜んでファックさせてあげますよ……貴方を殺すことができて、本当に嬉しいです」
「……俺、お前に何かしたっけか?」
心当たりはない。
もしかすると、昔遊んで捨てた女ではないかとも思ったが……目の前の金髪美女を忘れることはあるまい。
「貴方に恨みがあるわけではありませんが……続きは、墓石に語ってあげましょう!」
「ッ……!」
カウントダウンが『0』になった。試合開始。
開口一番とばかりに、ロゼッタが銃を抜いて恭一に向ける。
銃声が鳴り響き、鉛の弾丸が恭一の額めがけて放たれた。
「いきなりかよ……!」
しかし、すんでのところで蒼い雷が弾丸を弾き飛ばす。
その雷を目にして、ロゼッタが眉を限界まで吊り上げた。
「その雷……やはり、貴様……!」
「あ?」
「姉の仇! 死に腐れえええええええええええっ!」
「ッ……!?」
ロゼッタが両手にマシンガンを取り出して、大量の弾丸を撒き散らした。
雨あられのように押し寄せてくる銃弾、銃弾、銃弾……。
とてもではないが、雷撃で相殺しきれない。
恭一はスタジアムを右へ左へ逃げ回り、飛行して空中に逃れた。
「逃がすかボケカスがああああああああああああああああっ!」
しかし、先ほどの渡辺華凛とは違って、ロゼッタは空中にも攻撃できる。
弾丸が宙を舞っている恭一を撃ち落とそうとしてきた。
「この……いい加減にしやがれ!」
恭一とて、黙ってやられるわけにはいかない。
ご機嫌に銃弾をぶちまけているロゼッタめがけて、雷撃を放った。
「主の護り『サンクチュアリ』」
「…………!?」
しかし、恭一の放った雷撃が光り輝く壁によって受け止められた。
ロゼッタの周囲に神々しいバリアーが出現して、その身を護ったのである。
「これは……意外と面倒な奴なのか?」
銃の火力によってここまで勝ち抜いてきたロゼッタであったが、戦ってみると意外なほどに厄介な相手である。
退魔術を防御にのみ使用して、攻撃は銃火器で賄う。
防御だけに術を専念させているだけあって、防御力はかなり高い。
「対人戦闘だったら、ほとんど敵無しなんだろうが……」
しかし、解せない。
ロゼッタから放たれる殺意。
恭一には、彼女にそこまで恨まれるような覚えはなかった。
「おい、お前! どうして、俺をそこまで憎む!?」
「…………」
「こっちは女に刺される覚えには事欠かねえが……だからって、ほとんど初対面の相手に銃殺されるつもりはないぞ!? 自分が正しいことをしてるつもりだったら、その正義とやらを示してみやがれ!」
辺り一面に撒き散らされる銃弾をどうにか躱しながら訊ねると、ロゼッタが引き金を引く手を止めた。
「いいでしょう……教えてあげます。貴方を殺す理由を」
銃口を下げるロゼッタであったが……その両目は依然として恭一を睨みつけており、まるで視線で撃ち抜こうとしているようだった。
「正直、多少は心が痛む部分はあります。親の業を子に負わせるというファックな行為には」
「親の業……」
「そう……それこそが、私が貴方を殺す理由」
ロゼッタはビシリと恭一を指差し、堂々と言い放つ。
「貴方が異教の神の血を引いているから。あの忌まわしき大神……ゼウスの息子だからです!」
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