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28.発育の良い中学生には気をつけろ

 美森の棄権によって、ロゼッタ・ジャンヌが自動的に決勝戦に勝ち上がった。

 もう一方の準決勝における勝利者が、決勝戦で彼女と戦うことになる。


「さあ、いくよ! 絶対に負けないんだからね!」


「まさか……ここまで勝ち上がってきちまうとはな」


 準決勝に臨むのは対照的な二人だった。

 やる気満々で刀を構えている女と、気怠そうに欠伸をしている男である。


 一方は渡辺華憐。

 中学生にして、最年少で3級退魔師に駆けのぼった麒麟児。

 平安時代以前から続いている武家の名門・渡辺一族のエースにして、『鬼斬り役』を冠する日本屈指の剣客。

 鬼殺しの妖刀である『安綱』の使い手であり、本試験の最有力候補の一人である。

 最近まで海外に遠征していたとのことだが……目的は不明。

 2級昇格試験のため、あるいは他に隠された目的があって、一時的に日本に帰国している。


 もう一方は蘆屋恭一。

 二十歳で退魔師に登録した5級退魔師。登録からわずか一ヵ月という異例の早さでの飛び級参加。

 陰陽師の名家である蘆屋の分家出身だが、その外見は金髪青目の外国人そのもの。

 どうやら、人ならざる者の血を引いているようだが……その正体は恭一すら知らなかった。

 薄々、『父親』の候補として思い当たる存在はいるが、あえて確認はしていない。

 本試験においてノーマークながらも誰よりも目立っているダークホース。台風の目となり得る人間である。


「私のお胸を触ってくれたお返し、ここでしてあげるから覚悟しなさいよね!」


「あ? 胸だったら、昼飯分けてやったのでチャラだろうが」


「乙女のお胸はそんなに安くない! お兄さんの首で償わせてあげるから、覚悟しなさいよねっ!」


 スタジアムの電光掲示板には、試合開始までのカウントダウンが表示されている。

 3,2,1……試合開始。


「主様」


「ああ、任せた」


 式神の静が前に進み出た。

 恭一は前回と同じようにヒモプレイ。

 静に全て任せて、見学を決め込むつもりだった。


「遅いよ」


「ッ……!」


 だが……静が戦闘準備を調えるよりも早く、華凛は動いていた。

 地面を蹴り、たった一歩の踏み込みによって静の懐へと侵入している。


「水よ……!」


「お弁当、美味しかったよ……ごめんね」


 静が咄嗟に水で防御するが……水の防壁ごと、華凛が居合抜きによって断ち斬った。


「あるじさ……」


 腰から上で両断された静が消えていく。

 消滅したわけではない。

 神霊である静は本来、物理的な肉体は存在しないのだから。


「む……」


 肉体を維持することができず消えた静が、契約を結んでいる恭一の体内に戻ってくる。

 斬られた傷の修復にあたっており、少なくとも、本試験中は外に出すことはできないだろう。


「マジか……これで、俺はここと決勝の二試合を自力で戦うことになっちまった……」


 面倒臭がりの恭一としては、ゆゆしき事態である。

 溜息を吐いている恭一へ、華凛が眉を吊り上げて怒り顔になった。


「まだ始まったばかりなのに、決勝戦の心配? 余裕だよねっ!」


「ああ……悪い悪い。ちょっと怠さが買っちまってな……」


 いっそのこと、わざと負けてやろうかという気持ちすら湧いてくる。


「まあ……真面目にやるんだけどな」


 ちゃんとやると、セフレと約束してしまった。

 約束したからには守らなければいけない。

 ヒモで女に甘える機会が多い恭一だからこそ、女との約束は破らないという信念は固かった。


「心配せずとも、本気で闘るさ……さっさと負け抜けしたいっていうのが本音だけどな」


「あっそ……だったら、私が負かしてあげるね!」


「ッ……!」


 華凛が再び、白刃を振るった。

 鋭い斬撃が恭一の頸部に向けて、容赦なく放たれる。

 咄嗟に首をかがめたから良いものを、わずかでも反応が遅ければ、頭部が宙を舞っていたに違いない。


「速いね……やっぱり、お兄さんって強い」


「そっちこそ、随分と殺しに慣れてやがるな……もしかして、人殺しの経験があるんじゃないか?」


「私の専門は鬼退治だからね。人型の敵は慣れてるよ!」


「ッ……!」


 続いて放たれるのは連続攻撃。

 袈裟、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、唐竹、斬り上げ……ありとあらゆる斬撃が流れるようにして、恭一のことを襲ってくる。

 一撃一撃が速く、強く、鋭い。

 恭一は後方に跳びながら、どうにか攻撃を回避する。


「お?」


 しかし、すぐにスタジアムの端に追い詰められてしまった。

 眼前に斬撃が迫ってきて、今にも斬り殺されてしまいそうだ。


「仕方がない……」


 恭一は溜息を一つ。

 勢い良く、宙に向けて跳躍した。


「きゃあっ!?」


 ブワリと勢いよく風が巻き起こり、華凛が身に着けているセーラー服のスカートが勢いよくまくれ上がる。


「お兄さん……まさか、空を飛べるの!?」


 恭一はスタジアムの上空に浮かんでおり、驚きの表情を浮かべる華凛を見下ろしていた。


「空くらい、誰だって飛べる。心に翼があるじゃないか」


「なるほど……って、納得できないけどねっ!」


 ピョンピョンと飛び跳ねて、華凛が抗議してくる。


「空を飛ぶなんてズルいよ! さっさと降りてきてよ!」


「丸腰の相手に全力で斬りかかっておいて、どの口で言いやがる」


 恭一は右手を構えて、華凛の方に向ける。


「それに……卑怯というのは、こういうことを言うんだぜ?」


「ふえっ!?」


「蒼雷」


 恭一は無防備な姿をさらしている華凛に向けて、落雷を落とした。

 空から青白い雷が放たれて、何発も連続して地面に突き刺さる。


「ひゃあっ、ひゃあっ、ひゃああああああああああああああっ!?」


 空から落ちてくる雷から、華凛が慌てて逃げ回る。


「空から攻撃するなんてズルいよ、ヒキョーだよ、エッチだよ! 訴えてやるんだからねっ!」


「エッチではないと思うけどな。いくら何でも、中学生は襲わんて」


「私のおっぱい揉んだくせに! 責任取れっ!」


「誤解されるようなことを言うなって。結構な人数が見てんだよ!」


 試験開始前、受付でのことだろう。

 恭一は事故で華凛と上杉信女の胸を揉んでいた。

 信女の胸は標準的なサイズだったが、華凛のそれは中学生としてはかなり発育が良かったことが印象に残っている。


「蒼雷」


 痴漢冤罪を被せられそうになった恭一が抗議の意味を込めて、強烈な雷を落とした。


「うひゃあああああああああああああっ!?」


 華凛は悲鳴を上げながら、地面を転がるようにして雷を回避した。


「……むしろ、どうして避けられるんだよ」


 恭一は呆れて、表情を歪ませた。


 すでに十発以上は雷撃を放っているにもかかわらず、華凛はどれもすんでのところで回避している。

 当然のことであるが……雷は人間の反射速度で避けられるようなものではない。

 剣士としての直感なのだろうか。

 華凛は恭一が雷撃を放つ寸前で動いて、ギリギリのタイミングで軌道から逃れていた。


「とんでもないポテンシャルだな……殴り合いしなくて正解だ」


 素手でアレと戦うだなんて、悪夢である。

 せめて武器の一つもあれば違うのだろうが……恭一には剣や槍を扱う技術はない。

 子供の頃、公園に住んでいた暇な爺さんに喧嘩の仕方やら、棒の振り回し方やらを教えてもらったことはあるが、格闘技経験者とはとても言い難かった。


「このまま、遠距離攻撃で潰させてもらう……悪く思うなよ」


「んみゃあああああああああああああああっ!?」


 悲鳴を上げて逃げ回っている華凛に、同情を込めて言葉を投げかけた。

 そして……雷撃の勢いを強めて、一気に決着を付けようとする。


「負-けーるーかあああああああああああっ!」


「…………!」


 しかし、ここで華凛が予想外の行動に出た。

 強く地面を蹴ったかと思うと、スタジアムの端……そこにあった不可視の結界の『壁』へと足をかけた。


「んあああああああああああああああああっ!」


 そして、壁を走るようにして上へ上へ、螺旋を描くようにして登ってきたのである。


「サムライじゃなくて忍者かよ! 俺よりも化物じみてやがるな!」


()ったあああああああああああああああっ!」


「殺らせねえよ!」


 壁を蹴り、恭一に向けて華凛が斬りかかってくる。

 しかし、華凛の跳躍よりも、恭一が雷を放つ速度の方が速い。

 青白い雷が、空中で逃げ場のない華凛めがけて放出される。


「えいっ!」


「ッ……!」


 そこで、またしても予想外の行動。

 華凛はこともあろうか右手に持っていた刀……渡辺一族に代々伝わっている鬼殺しの妖刀『安綱』を投擲したのである。

 雷撃が刀に命中して、バチバチと大きな火花を散らした。


「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「ッ……!」


 そして、華凛がそのまま宙を飛んでいる恭一にしがみつき、ギュウギュウと首を絞めてくる。

 それは前の試合で、美森が信女に勝ったやり方だった。


「このまま落とすよ! 私が勝つんだからね!」


「…………」


 華凛にしがみつかれ、首を絞められ……恭一は呆れ返ったように溜息を吐く。


「……あのな、お前は馬鹿なのか?」


「ふえ?」


「この距離で、この体勢で……お前は俺の雷をどうにかできるのか?」


「あ……」


 華凛がようやく自分の悪手に気がついたらしく、恭一から離れようとする。

 しかし、恭一は華凛の腕をしっかりと掴んで逃がしはしない。


「中学生離れした乳を押しつけただけだったな。あと三年経ったら、また誘ってくれ」


「ッ……!」


 腕から直接、華凛の身体に電流を流す。

 華凛は電流によって何度か身体を跳ねさせて……やがて、クッタリと動かなくなる。


「俺の勝ち。何というか……つまらん終わり方だったな」


 恭一は華凛の身体を抱えたまま、試験会場へと戻ってきたのである。




準決勝第一試合

〇 蘆屋恭一  

× 渡辺華凛

 試合時間:5分15秒 決まり手:雷術




準決勝第二試合

〇 ロゼッタ・ジャンヌ

× 賀茂美森

 試合時間:0分0秒 決まり手:不戦勝


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どうぞよろしくお願いいたします!


・勇者の子供を産んでくれ 邪神と相討ちになった勇者は子孫を残せと女神に復活させられる

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[一言] ロリ巨乳良いですよね〜
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