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27.残念賞は淑女の嗜み


「おお、勝ったようだな」


「どうにか、ね……」


 息も絶え絶えになりながら、美森が試験会場に戻ってきた。

 恭一は健闘の末に勝利を収めた美森を出迎える。

 少し離れた場所には、気を失って倒れる上杉信女の姿もあった。式神によって医務室に運ばれていく。


「かなりギリギリだったわ……正直、どちらが勝ってもおかしくはなかった……」


「なかなか根性ある戦いだと思うけどな。お前にあんな戦い方ができるとは思わなかったよ」


「……なりふり構わず闘らなくちゃ、勝てない相手がいるってわかったからね」


 恭一に出会う前の美森だったら、あんな戦い方はしなかったはず。

 幻術という搦め手はまだしも、霊力切れの状態で取っ組み合いをするだなんて、古参の陰陽師には恥として映るだろう。


「パワーもスピードも負けていた。これくらい必死にならなくちゃ、私が負けていたわ」


「まあ、そうだな」


 恭一の目から見ても、純粋な戦闘能力では上杉信女が優っていたように見えた。

 勝敗を分けた部分があるとすれば……美森が思いのほかに粘ったこと。

 そして、信女のスタミナ不足である。


 上杉信女はかの戦国大名・上杉謙信の子孫であり、毘沙門天の加護を得ていた。

 自らの身体に毘沙門天を降ろして戦う戦闘技術はまさに目を見張るほどであり、人の力を超えているとすらいえる。

 しかし……それでも上杉信女は人間なのだ。

 恭一のように異教の神の血を引いた『忌み子』というわけではない。

 肉体の強度は一般人と同レベルであり、神の力を行使し続けるには脆弱過ぎた。


「どれだけ強くとも、人は人を超えられない。生物としての純粋な能力差だな」


「彼女はそのあたりへの理解が足りなかったわね……自分の力を高く見積もり過ぎた。こっちを格下扱いして油断してくれていたからこそ、付け入ることができたわ」


 美森が大きく深呼吸を繰り返して、体内の気を整える。

 試験一日目と同じく、霊力が空っぽだった。

 今にも倒れそうな状態である。

 膝が震えている美森に、静が近寄ってきて肩を支えた。


「それでは、賀茂美森さん。準決勝まで休んでいてください」


 満身創痍の美森へと、試験官の小野が告げる。

 しかし、美森はどうにか顔を上げて、ゆっくりを首を振った。


「いえ……私はこのまま、試験を棄権します」


 美森はすでに霊力が空っぽ。これ以上の戦闘は困難である。

 一方で、準決勝で戦うことになるロゼッタ・ジャンヌは銃火器の使い手。

 霊力や魔力の残量に関係なく、戦い続けることができる。


「このまま準決勝に進んでも、無様に敗北するだけですから……もう十分、力を示すことができました。これ以上は必要ありません」


 加えて、美森はすでに持てる全てを出し尽くしている。


 陰陽師としての術の使用。

 九字切りに符術、式神術、幻術。そして、戦略の構築と体術。

 美森が使用できる術、戦い方、全ては先ほどの試合の中で披露している。

 裏で見ているであろう審査員へのアピールは全てやりつくした。これ以上は蛇足である。


「なるほど。それでは、賀茂美森さんは準決勝を棄権ということで、ロゼッタ・ジャンヌさんが自動的に決勝戦へ進出となります」


「あらあら、申し訳ないですわ」


 後ろの席で、ロゼッタ・ジャンヌが申し訳なさそうに頬に手を当てる。


「正直、全力の貴女と戦ったらどうなるかわかりませんでしたが……トーナメントの対戦表に救われましたわ。貴女は決して、負けていないと断言します」


「ご謙遜を……お気遣い、感謝いたします」


 握手を求めてきたロゼッタに応じて、美森が握手をする。

 結果的に敗退したことになった美森に、ロゼッタはポケットから何かを取り出して手渡す。


「申し訳ないから、これをあげましょう。お守りのようなものです」


「これって……?」


 それは美森にとって、見覚えのないものだった。

 薄っぺらくて、丸い何かがビニールの袋に入っている。

 ビニールの包装の表面にはデカデカと『0.01』と謎の数字が記載されていた。


「いずれ、これが役に立つ時がやってきます。お財布にでも入れて、肌身離さず持ち歩いているといいですよ?」


「…………はあ?」


 美森はわけもわからぬままに、そのお守りを受けとった。

 特におかしな霊力は感じない。呪いがかけられた呪物を押しつけられたというわけでもないだろう。


「まあ、貰っておきますけど……」


 よくわからないが、ロゼッタからは純粋な厚意を感じる。

 シスター服の中に大量の銃火器を隠している女に、霊力空っぽの状態で逆らうのも怖い。

 危険なものでないのなら、受け取っておくことにした。


 後日。それの正体を知って、美森は恥ずかしさのあまり悶絶することになる。それは別の物語である。


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