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ピボット高校アーカイ部  作者: 大橋むつお
16/32

16『螺子先輩のメンテナンス・1』

ピボット高校アーカイ部     


16『螺子先輩のメンテナンス・1』 





 ごめんね田中くん、部活じゃないのに付き合わせて。



 部活では見せたことのない優しさで、先輩は手を合わせた。


 最初にゲートをくぐった時、お地蔵さんの陰に隠れる直前、おざなりに手を合わせた。


 あの時の男性的ぞんざいさではなく、アニメの女の子が「無理言ってごめんね」という感じなので、戸惑ってしまう。


 ちょっと反則的な可愛さだ。


「えと……いつものようには喋らないんですか(^_^;)?」


「え? いつも通りですよ」


「いや、先輩は、いつも『鋲!』って呼び捨てじゃないですか、苗字を、それも君付けなんて初めてですよ」


「え、そう? 学校の友だちには、いつも『さん』『くん』付けしてるわよ」


「あ……そうか、いまの先輩は部活時間外の?」


「え、そうよ……あ、わたしったら体操服のまんまだ!」


 そう言うと、先輩は部室のある旧校舎に駆けこんでいった。




 昇降口横の掲示板をボンヤリ見ながら先輩を待つ。


―― 部活は休みにするけど、ちょっと付き合って欲しい ――


 昼休みにメールが来て、さっき、待ち合わせたところだ。


 ジャージで現れたから、校内で作業をするのかと思ったら、駅前までついて来てほしいということで、さっきの「ごめんね田中くん」に繋がる。


 あ……可愛い(#^o^#)。


 旧校舎から制服で駆けてくる先輩は、スクールアイドルのアニメみたいに可愛い。


 部活中、ゲートの向こうではララ・クロフトかというくらいにマニッシュで、走る時も陸上選手のようだ。


 こっちに走って来る先輩は、腕と長い髪を左右に振って、彼のもとに走って来るアニメヒロインのようだ。


「ごめんなさい、じゃ、行こうか」


 生徒の半分は電車通学なので、駅前までは下校中の生徒たちの視線が突き刺さる。


 視線の2/3は先輩に、あとの1/3がボクに向いてくる。


 月とスッポン


 視線を言葉にしたら、その格言が湧いてくる。


「ちょっと、つかまっていいかしら?」


「え、あ、はい」


「ごめんなさいね、やっとメンテナンスできると思ったら、気が抜けてきたのかも……」


 右側を歩いている先輩は、最初は左手でボクの二の腕に掴まるだけだったけど、駅が見えてくるころには両腕ですがるような感じになって、同じ道を帰る男子生徒からは殺意さへ感じる(;'∀')。


「あ、そこだから」


「え、プッペですか?」


 先輩と入ったのは、ドイツパンのプッペだ。


 先輩が、部活中のお八つに買って来る半分以上は、このプッペの商品だ。



「先生は来られてるかしら?」



 店に入ると、ショーケースの向こうのマスターに声を掛ける。


「まだだけど、準備はできてるよ。イルネが待機してるよ」


「うん、じゃあ、お世話になります」


「鋲君もいっしょについてやって、一人じゃ階段もあぶなそうだ」


「は、はい」



 奥のショーケースの裏には、工房とは別のドアがあって、先輩に肩を貸しながら、階段を下りる。



「だいぶ参ってるみたいね」


 地下室に入ると、並んだ機器の向こうから声がかかる。


 ボクもパンを買いに来た時にレジに立っていた女の人が顔を出す。


「助手のイルネ、こっち、学校で助手をしてくれている鋲くん」


「ああ、何度かお客さんで来てくれてたわね。お互い助手同士、よろしく」


「あ、ども」


 いつの間にか、ボクは助手になってしまったようだ。


「先生、もうじき来るだろうから、先にラウゲン塗るわ。助手君は、ちょっと外で待って……」


「鋲くんにもやってもらうわ」


「え、裸になるのよ?」


「うん、この先、鋲の世話になることもあるだろうから、体験しておいてもらおうと思うの。最初だから、背中だけ」


「そうね、じゃ、助手君は後ろ向いて」


「は、はい(;'∀')」


 言葉遣いは優しくなったけど、やることは、いつもの先輩だ……。


 十秒ちょっと衣擦れの音がして「もういいわよ」とイルネさんの声。


 先輩は、手術台みたいなところにうつ伏せに寝ている。


 シーツかなにかで下半身くらい隠すかと思ったら、スッポンポン、うつ伏せとはいえ刺激強すぎ。

 お尻の傷が生々しくて目を背けてしまう。


 そんな僕の狼狽に気付かないのか、イルネさんは平気で進めていく。


「こんな風にね……」


 イルネさんはサンオイルのボトルみたいなのを手のひらに出して、先輩の腰のあたりに塗り出した。


「直接手でやるんですか!?」


「抵抗あるでしょうけど、均一に隈なく塗るのは人の手がいいのよ。とくに、今みたいにメンテが遅れてるときはね……こんな風に、刷り込むように……人間だったら、新陳代謝ですむことなんだけど、螺子の皮膚は合成生体だし、ずいぶん無理してるから……」


「ミストとか、スプレーとかじゃ、ダメなんですか?」


 やっぱり、直接先輩の体に触れるのは抵抗がある、ありまくり!


「うん、前の助手は女の子だったからね、先生にも言っておくわ……さ、ここからやってみて」


「は、はい……」


 ラウゲンというのは、ほんのりと緑色で、均一に塗れていないと濃淡が出て、仕上がり具合が分かるようになっている。イルネさんは背中の上の方だけ残してくれていて、恐る恐る、おずおずと塗る。


 イルネさんに手直ししてもらいながらも数分で終えると、ドッと汗が噴き出した。



『先生がこられたよ』



 マスターの声がモニターから聞こえて、階段を下りてくる気配がした。


 なにもやましいことをしているわけではないのに、なんだかドキドキする。



 ガチャリ



 ドアノブア回って先生が入ってきた……


 


☆彡 主な登場人物


田中たなか びょう        ピボット高校一年 アーカイ部

真中まなか 螺子らこ        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート

田中たなか いさお        鋲の祖父

田中たなか ひろし        鋲の叔父 新聞社勤務


 

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