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ピボット高校アーカイ部  作者: 大橋むつお
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11『市長の娘の死亡記事』

ピボット高校アーカイ部     


11『市長の娘の死亡記事』 





 かわいそうに。



 叔父さんは、三面の、お祖父ちゃんが目を落とした同じところを二秒ほど見て新聞を畳んだ。


 新聞の下の方に小さな死亡記事が載っている。


 戦後初の市長さんの娘さんが老人ホームで亡くなったんだ。上皇陛下と同い年のお婆ちゃんで、職員さんが朝食に出てこないお婆ちゃんの部屋をノックしたら、すでに亡くなっていたそうだ。


 父親である市長の没後、嫁ぎ先を出されたお婆ちゃんは、再婚することも無く東京へ出て紆余曲折のあと故郷の要市にもどり、職を転々として、二流の老人ホームに入っていた。


「親の因果が子に報いってやつだな」


 心無い独り言をお尻を傾けながらこぼす。


「隆二、屁をひる時は風下でやれ」


 お祖父ちゃんは、湯呑を持って避難する。


「あはは、ごめん(^▽^)/」


 で、もう――かわいそうに――は忘れている。


「お前んとこの新聞はいつまでもつんだ?」


「まあ、十年は大丈夫だろ。天下のA新聞だからな」


「十年のあとは?」


「潰れるね。でも、オレ、五年で定年だし。ましな老人ホーム入れるくらいの金は残るさ。じゃ、帰るわ。鋲、予備校には行けよ。ピボットからじゃ、ろくな大学行けないからな」


「……うん」


 そんな余裕ない……という憎まれ口は呑み込んで、曖昧な返事を返しておく。


 叔父さんが帰って十分ほどすると、お祖父ちゃんは年代物のショルダーを、昔の中学生のように引っかけて出かけて行った。





「今日は、昭和四十年に飛ぶぞ」


 魔法陣に修正を加えながら先輩が言う。


 魔法陣も、時々は手を加えなければならないものらしい。


「どうやら、四角で安定したようだな」


 来るたびに修正していたゲートも、ちょっと三角の折り癖を残してはいるけど安定した。


 もう、体を張って直さなくてもいいと思うと、ちょっと寂しい?


 い、いや、そんなことはない(#'∀'#)。




「あれ、新聞社ですね?」


「ああ、全盛期のA新聞だ……校閲部は……七階だな」


 そう言って指を振ると、僕と先輩はエレベーターも乗らずに新聞社の七階に向かった。


「先輩……ダサイですね」


「そういう鋲も……」


 先輩は、化粧っ気のないヒッツメ頭に度のキツイ近眼鏡。僕はグレーのズボンにワイシャツ、ネクタイは第一ボタンと第二ボタンの隙間にねじ込んでいる。二人とも黒の腕カバーをしていて、昔の事務職のコスだ。


「刷り原(校閲が済んで、版が組める原稿)あがってます?」


「ああ、その校了箱」


 年長の校閲科長が顎をしゃくる。壁の月間校閲表に受領のハンコを押す。


「持ってきまーす」


 ガチャン


 ドアを閉めて廊下を戻って階段を下りる。行先は、地下にある印刷工場だ。


 僕と先輩は、A新聞の校閲と工場を結ぶ、工場事務だ。


 毎日、校閲の済んだ原稿を版に組む準備の仕事。


「エレベーター使わないんですか?」


「ああ、原稿に手を加えなくちゃな……あ、これこれ」


 先輩が目に止めたのは、市長に関する記事だ。


「……市長は、ぶら下がり会見のあと、記者の呼びかけにも応えず、完全に無視して会見会場を立ち去った……」


「どうだ?」


「なんか、ひどい市長ですね」


「これが、こないだ助けた市長の三十年後だ。それまでに、いろいろあって、これで市長は失脚する」


「あ、そうなんですか……」


 記者相手に傲慢な態度をとったんだ、そういうこともあるのかもしれない。


「フフ、仕方がないと思っただろ」


「子どもの頃の市長知ってますからね、ちょっと残念かな」


「もう一度読んでみろ」


「……あ、なんかしましたね」


 字数は変わらないが、中身が変わっている。


「どうだ?」


「これは……」




 会見の終わった市長を記者が呼び止めた。


「市長!」


 市長は振り向くが、十数人いる記者は誰一人声を上げない。


 二秒ほど待って、市長は背を向けて歩き出す。


「市長!」


 再び声が掛かって、市長は振り返る。


 やはり、声をあげる記者はいない。


 市長は無表情のまま踵を返す。


「市長!」


 三度声がかかるが、今度は振り返らず、そのまま立ち去ってしまった。




「これって……?」


「そうだ、市長が記者の呼びかけにも応えず立ち去ったのは事実だが、それは三回目だ。二回振り返らせて無視したのは記者たちの方だ」


「これ、小学生のイジメと同じですよ」


「一事が万事、こんな調子だ。マスコミは腐ってるが、全部を直す力はアーカイ部にはない。この記事が要になると思ってな」


 話しているうちに、地下の工場に着いた。


 数ある偏向記事の、そこだけを変えて、僕と先輩は部室に戻った。




「いやあ、昔の支持者がけっこう集まってなあ、いい、お通夜だった。市長は功罪半ばする人だったが、要の街に愛情を持っておられたのは、みんな分かっていたんだな。ちょっと嬉しくなった」


 お祖父ちゃんは、市長の娘さんのお通夜に行ってきたんだ。


 そして、ちょっとだけ、市長への認識も要の歴史も修正されたようだ。


 叔父さんの新聞社も、予想より半年ぐらいは長持ちするかもしれない。





☆彡 主な登場人物


田中たなか びょう        ピボット高校一年 アーカイ部

真中まなか 螺子らこ        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

田中たなか いさお        鋲の祖父

田中たなか ひろし        鋲の叔父 新聞社勤務




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