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旅路

「はい、ごくろーさま」


逆さ吊りにされた少年の首にナイフを突き刺し、息の根を止める。ロープを切って少年を地面に落とす。

うーん、目新しい情報は殆ど無かったな。ま、少年ということは見習いだろうし有益な情報を持っていなくても可笑しくないか。あーあ、あの二人を事故死させなければ良かった。


男たちの武器を【アイテムボックス】に入れ、俺は再び疾走する。


馬車で半日ほど走らせた場所にグリウス王国の王都がある。そこに行けば、傭兵ギルドがある。この世界の傭兵は色々と複雑らしく、実力さえあれば俺のような人族以外の種族や脛に傷を持っている者ですら加入することができる。


やっぱし、この世界で生きていくにしても公的な身分証が必要になることも多いだろう。そう言った意味では、身分証を簡単に持てるのは良い事だ。


「少し、休憩するか」


走り始めて数時間、泉が視界の端に写ったため足を止める。草むらをかき分けて俺は開けた場所にある泉の前に立つ。

泉は大きさはそこまで大きくない。しかし、非常に透明度が高い。底は勿論、泉の中を泳ぐ小魚たちの姿もはっきりと見える。また、水と日光が反射し、そよ風に水面が波打つとキラキラと輝いているようにも見える。

敵の気配は……ないな。まぁ、いたとしても殺してしまえば良いだけの話だが。


ローブを脱ぎ、チューブトップとショートパンツも脱いで【アイテムボックス】の中に収納し、泉の中に入る。ひんやりと冷たい水の中に足を入れると、少し身震いするが肩まで浸かると自然と心からリラックスできる。


「ふぅ……」


いい気分だ。冷たい水の感覚がとても心地よい。

水を手酌で掬い上げ、髪や耳の裏にかける。冷たい感覚が耳の裏まで届き、より一層体がリラックスするのを体から実感する。


「……本当に美人になったよな、俺」


水面に写る自分の顔を見た後にため息をつき、空を見上げる。

この顔が、正確には星を宿した瞳がバレるのも嫌だし、どこかで仮面でも買うか盗もうかな。


「全く、あの邪神はとんでもないものを押し付けやがって……」


本によると、俺の瞳のような何かしらのマークを宿している者がいる。このマークの事を専門用語で『星の目』という名前がつけられている。正確な特性は不明だが、これを保有する者は神の神託を授かる事ができるとされている。

まぁ、あの邪神も一応神様だから合ってはいるのだが……うん、奴隷として高値で取引されていると知らなければ素直に喜べたと思う。


「ふぅ……」


息を洩らし、空に飛んでいる鳥に人差し指を向ける。


腹も減ったし、食事とするか。

指先に魔法陣が展開され、水の弾丸が放たれる。水の弾丸は鳥の腹を撃ち抜き、鳥は自由落下して泉に落ちる。

泉を泳いで近づき、鳥を回収すると魔法陣を展開し余分な水分を蒸発させる。岸まで鳥を必要以上に濡らさない泳ぎ、岸につく。泉から出ると、羽や内蔵を全て指先で抜き取る。

魔法で木々の枝を切り落として集め、燃やして木の棒に刺した鳥を炙る。

その間に体に付着した不要な水分を飛ばし、【アイテムボックス】から服を取り出して着用する。

数分後、炙り終えた鳥の肉を頬張り、火を消火する。


さて、休憩も腹ごしらえもしたからさっさと森を抜けるか。


俺は地面を蹴り一気に疾走、森の中を駆け抜ける。木々を蹴り折り、岩を粉砕し、小川を飛び越えていく。


「お、森を抜けたな」


森を抜けたところで走るのを止め、俺は周囲を見回す。石畳で出来た道があるが、人通りは殆ど無い。

確か、この街道を東に行けば王都があるらしい。さっさと行った方が良いが……ま、そう上手くはいかないか。


ガラガラという音が聞こえてくるため音がした方に顔を向けると、大きな馬車が走ってきている。荷台は熟練の宮大工に造らせたのか端正な彫刻がかれており、馬も肉つきが良く、高級感が嫌でも漂ってくる。

俺が脇に外れて立ち止まっていると馬車は俺の前を通り過ぎていき、少し離れたところで馬車は停止する。同時に両方の扉が開かれ甲冑姿の男二人が出てくる。

騎士の二人は俺の間合いに入り、話しかけてくる。


「すまない、君はここらへんの人かい?」

「グリウス王国の王都に向かっているのだが道に迷ってしまったのよ」


ふむ……?この二人、全身を覆う甲冑のせいで分からなかったがどちらも女性のようだな。

「この街道を東に行って半日もすれば着くはずだ。……それで、本当の目的はなんかあるのか?」

「……勘が鋭いお嬢さんだ」

「まぁ、勘が鋭すぎるのも考えものね」


女騎士たちは腰に下げていた剣を引き抜き、切っ先を首に向けて構える。

ま、身柄目的だよな。貴族の中には、目についた平民を奴隷としてヘッドハンティングする者もいると聞いたことがあるし、そういう事もあるのだろう。


「動かないでもらいたい。貴殿も傷つくのは本望ではないだろう」

「お嬢様も何で、兎の獣人を配下に加えようだなんて突然言い出したのだろうね」

「お嬢様は常日頃から同族の友達が欲しいと呟いていたからな」

「あ、確かにそんな事を言っていたかも」


へぇ……ま、どうでも良いけど。

女が瞬きした瞬間、一足で前に出て女騎士Aとの間合いをゼロにする。


「なっ……!?」


キスができそうなまでに間合いを詰められたことに気づいた女騎士Aは驚きのあまり後ろに下がる。手を伸ばし、女騎士の胸に魔法陣を展開、圧縮した空気を放つ。


「がっ!?」



女騎士Aは衝撃で体をくの字に曲げて吹き飛び地面に倒れる。胸部の装甲は吹き飛び、貧相な胸が露わになる。


「な、何をするじゃん!?私達、貴女に危害を加えるつもりはないのに!?」

「害意があろうと無かろうと関係ない。お前らが剣を向けた。それだけあれば敵対行動と見なしても何も変ではないだろ」


吼える女騎士Bに冷徹な視線を向けててを手をグーパーグーパーと動かす。


俺は基本的に脅しはしない。声をあげられると処理が面倒だからだ。それなのに脅してきたとなれば脅しに関しては素人臭いな。ま、口調はあれだが根は真面目なんだろうさ。


女騎士Bが間合いを詰めようと足を踏み出した瞬間に足を動かす。鈍化した世界の中で女騎士Bの背後に回り込み足を払う。


「えっ……?」


唐突に体勢が崩れて驚き、地面に倒れる女騎士Bを見下ろしながら【マジックボックス】から剣を取り出す。

黒夜教団と関わっていたから俺の洞穴にも何度か騎士どもがやって来ていた。その都度、体術だけで皆殺しにした。そいつらと比べると、この二人は遥かに練度が低い。声も若かったし、実戦経験のない新兵なのだろう。

このまま魔法を使って命を刈り取っても良かったが……ま、やっぱり物理的に殺してしまった方が確実だ。


「お待ち下さい!」

「……あ?」


剣を振り上げ、首に向けて下ろそうとした瞬間、鈴の音のような、それでいて明確な意思を宿した声が響く。

剣を降ろし、声がした方を見ると俺と同い年くらいの『ノーマルラビット』らしき少女が立っていた。

短く適当に切られた深い緑色の髪からウサ耳が飛び出し、体つきも非常に恵まれており、ドレスの上からでもハッキリとメリハリが分かる。エメラルドグリーンの瞳には涙を潤ませ、少し童顔気味の表情は悲しみが張り付いている。


「彼女たちのことは私の責任です。彼女たちの首を斬るのなら、私の首を斬りなさい!」

「お、お嬢様!?」 


オイオイ……かなりぶっ飛んでるな。

悲鳴にも近い声を出す女騎士Bに内心同意しながら少女を睨みつける。俺の視線に気づいた少女は震えながらも俺を睨み返す。


「へぇ……」


【アイテムボックス】に剣を放り込むと少女に歩いて近づく。少女は怯えながらもどこか達観した表情を浮かべ、私を見上げる。


「私を殺しなさい。そして、彼女たちから手を引きなさい」

「いや、殺す気は失せた。だが一つ聞きたい。……そのボロい服はなんだ」


そう言った瞬間、少女は胸を抱いて俺から少し離れる。

少女の着ているドレスは少なくとも、俺の常識の範囲内じゃ普通じゃない。適当な布の切れ端を糸で無理矢理繋げたツギハギだらけのドレスだ。しかも、見た感じの布も俺が村で過ごしていた際の服と同じくらいの粗悪な品物だ。

それなのに、豪華な馬車に乗ってきたし新米ながら騎士も連れている。それなりの身分の高さを示す記号を持っているのにあまりにもアンバランスすぎるのだ。


「それは……その……」


初めて俺から目を逸らす少女に俺はため息をついて少女の横を通り過ぎる。

ま、言いたくない事なんて誰しも持っているものだ。深くは聞かないでおこう。


「ああ、名前を聞いておこうか。名前、なんていうんだ?」

「……!サクファ、サクファ・ノーザントです」

「俺はルナ。それにしても、サクファか。ま、どっか会えれば良いな。」


そう言い残し、俺は地面を蹴ってなだらかな平原を疾走する。

さて、時間もそこそこ使ってしまったしさっさと街に向かいますか。柔らかい布団に久々に入りたい。

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