黒夜教団
ふむ、やっと出ていったか。
私は木の上から降り、廃村に入る。月夜の下、冷たい風が肌を擦り白い髪を靡かせる。
ミリスが村を出ていくまでにそれなりの時間がかかったが……まぁ、良いだろう。向こうは俺が「人攫いに連れ去られた」と誤解していそうだしな。
村の広場に立てられた木の杭……墓標に手を触れ、膝を付き、手を合わせて冥福を祈る。1分程度祈ったあと、立ち上がり背を伸ばす。
「さて、そろそろ話を始めようか。邪神」
『クフフフフッ。良いものが見れたのう、ルナよ』
墓標の一つ、その足元にいつの間にか黒電話が出現している。受話器は既に外されて地面に落ちており、邪神の声が聞こえてくる。
黒電話に近づき、黒電話を見下ろす。
「血は流れてないが、その分善性の人間が悪性に堕ちた。俺は大好物だし、お前も大好物だろ?」
『その通りじゃ。よくわかっておるようじゃのう。……して、どのような事をしてお主の姉を復讐鬼に仕立てあげたのじゃ?』
なんだ、そんな簡単な事か。
「単純だよ。支えを全て壊す。たったそれだけで彼女は壊れた」
『ふむ……その支えとはなんじゃ?』
「ミリスはクソ代官のせいで父親を失い、母親は連れ去られた。まず、これのせいで柱が揺らいだ。残った柱は家族同然の村人と俺だけ。この小さなコミュニティだからな、そうなっても仕方のないことだ」
だから、それの二本の柱をへし折った。そうすれば、簡単にミリスの善性を支えていた柱は崩れ落ちる。大黒柱が折れた家屋のようにな。
まず、村人を殺害する。その際に、自殺に見せかけるように物をセッティングした。
首の切り方、自殺の見せ方、ナイフや包丁の持ち方、その他諸々から人は他殺か自殺かを考える。そのため、自殺だと見せかけるように殺せばいい。
例えば、グリューやメーラの場合は家に置かれていた包丁とナイフを心臓に一突き。ビグの場合は手足を落ちてたロープで縛り、首にロープを回し、窓のサッシを利用して殺害し、吊り上げてビグの足元に台座を用意して倒す。その後、手足のロープを取り外す。
ミリスはどんなに頭が良くても子供だ。だから、何十人もの見た経験も、解剖した経験も、殺害した経験もない。なら、こんなふうに自殺に見せかけるだけで簡単に誤解する。
そして、私が一時的に森の中に身を隠すして時間を潰す。
昨日の今日で、精神的に摩耗したルナは俺が森の中に潜伏している、と考えれるほどの余裕が失せているだろうからな。また、その際に彼女は2日前に森に潜入していた人攫いと俺の姿がない事を結びつけ、『ルナは人攫いに攫われた』と誤認するだろうな。
この2つをするだけで、ミリスは壊れる。楽な作業だよ。
ま、これだけの所業を行えば、少しはボロが出るだろうが……ま、バレれば俺が始末すればいいだけだが。
『まさか最愛の妹が自身を復讐鬼へと仕立て上げたとは、考えつかんじゃろうな』
「だろうな。それに、俺は復讐が好きだ。彼女がどのような所業をするのか楽しみではある」
『くくっ、それは儂も同じじゃ。それにしても、お主は復讐が好きとはのう』
「やり方的に相容れないがな。ま、趣味の問題さ」
無差別に狙う俺と復讐対象しか狙わない復讐鬼では相容れることはない。個人的には復讐は好きだけどね。人の闇が見えるから。
「それで……邪神、お前に指示は果たしたか?」
『うむ。……お主も相当な悪じゃのう』
そう言うと、森の中から黒い影が動く。影は俺を通り過ぎ、村の入り口辺りだ立ち止まり、俺に無機質な視線を向ける。
どこぞの白人至上主義団体の服装を黒くし、翼の生えた蛇のエンブレムが服に描かれているな。どいつもこいつも、無個性だが……ま、最低限は使えるか。
ま、服装の特徴とかは邪神から聞いていたが驚きはしないが。
『黒夜教団、儂の信者を隠れ蓑に使うつもりかの?』
「ああ、そうだ。俺には身寄りもないからな」
この世界はファンタジーの世界を踏襲しているが、ベースとなっているのは中世ヨーロッパ辺りの文化だ。
そのため、今の俺のような身寄りのない子供はどこかで野垂れ死ぬか奴隷として売られるかのどちらかだ。そもそも、大人でもコミュニティから抜ければ盗賊業に身をやつすしか生きる事が出来ない訳だからな。
それなら、伝手を使って保護してもらえる場所に入るのが得策だ。
「それに、隠れ蓑にもできる。シンプルながら分かりやすいだろ?」
『ククッ、やはりお主は良い。神を神として見ておらん』
「邪神と言っても、本質は俺とそう大差のないからな。神様というよりも同好の士と言った方が正しいだろうよ」
『あ、それは良いのじゃ。儂とお主は友じゃ!』
「お、おお」
なんか友達扱いされて喜んでいるな。まぁ、俺も友達はいない方だったし、この邪神も敬われるだけで友達はいなかったのだろう。
「それじゃあ、とりあえずは10年くらいは潜伏しようかねぇ」
『妙に具体的じゃな』
「色々と学ぶためには、そんぐらいの時間が必要になる。それだけの話さ。さて、そろそろ切らせてもらうぞ」
『うむ、誠に良い惨劇だっだぞ』
そう言って黒電話は消える。
俺は後ろ髪を掻き、夜空を見上げ、黒装束の信者たちを見据える。目に狂気を宿し、信者たちにゆっくりと近づいていく。
今日は昨日とは違い、月のない夜だ。なんて良い雰囲気だろうな。
「さて、と。それじゃあ君らの秘密基地に案内してもらおうか」




