己の姉
「ねぇ、ねぇ、これだけぇ?……あ、こと切れちゃったか」
手の中でナイフを弄びながら人攫いDに問いかけるが答えない。死んでしまったようだ。
まぁ、両腕と両足の指はすべて切り落とし、、歯も一本一本丁寧に引き抜き、体のいたるところに切り傷を作り、眼球を抉り、耳や鼻を削ぎ落としたりしたら流石に死んでしまうか。ま、情報が無くなれば殺していたけど。
それじゃあ、あとは死体の処分か。とりあえず、何時もの方法でやらせてもらうか。
人攫いたちの死体を一箇所にまとめ、剣を手にとって体を腕、足、頭、胸、腹と分割する。分割したものをナイフを使ってより丁寧に切り分けていく。
肉と皮はそのまま地面に埋める。肉は森の中に捨てる。骨は踏み砕いて川に流し、内臓は潰す。攫ってきた人間を何人か、生きたまま解剖した事があり、その際に培われた解剖の腕前が異世界に来ても役立つとは、少し予想外だ。
崖の上から流れてくる滝に目掛けて人攫いたちの衣類を投げ入れ、武器は隠し持ち易いナイフ類を除いて滝壺に落とす。
川から浮かび上がってこない事を確認し、森の中に戻る。
いやー疲れた疲れた。少女の体で人を解体するのは大変だったな。まぁ、本番の前に復習がしながら出来たの良かったな。それに、有意義な情報も聞けたし、存外悪いものでは無かったな。
「ルナ!ここにいたの!?」
「あ、お姉ちゃん」
ウサ耳の少女が目の前に着地し、肩を掴んでくる。
確か名前は……ミリスだったか。俺が3歳ほど成長したような姿だけど、目だけ違う。
「もうどこに行ってたの!?それに、その血は何なの!?その怪我は何!?」
「ちょっと枝で切っちゃっただけだよー……」
ま、話し方はこんな感じで良いか。なるべく記憶との齟齬のない話し方の方が潜伏しやすい。
「動物に襲われちゃって、殺したのは良いけど汚れちゃった」
「そうなのね。それじゃあ、帰りましょ。今森の中に人攫いたちがいるってお父さんたちが言ってたの」
あぁ、あいつらか。まぁ、皆殺しにしたけどな。
「こっちにいたか?」
「ひっ!!」
遠くから聞こえてくると、ミリスは恐怖し近くの草むらにしゃがみ込んで耳を押さえる。俺はミリスの隣にしゃがみ込む。
さっきの声は……おそらく、先程殺した人攫いたちの仲間だろう。人攫いDの話だと、この森に入ったのは10名、森の外で馬車で待機しているのは2名と言っていた。
奇襲すれば殺し尽くすのは容易だが……流石に姉に見られるのは良くない。見られたら殺すしかなくなってしまうからな。
「き、聞こえなくなった?」
「う、うん。離れていったみたい」
「それじゃあ早く村に戻ろりましょ。見つかったら、何されるか分からないから」
音が聞こえなくなったと同時に草むらから飛び出し、森の中を一気に駆ける。体が憶えているのか、森の中を迷うことなく進んでいく。
体感時間で数十秒で森の中を抜け、村につく。村と言っても、家が10戸ぐらいしかない小さな村だけど。
村の中央には大人のウサギの獣人たちが集まっていてそこに俺とミリスは駆け寄っていくと、一人の女性が俺たちに気づいて駆け寄ってくる。
「ミリス、ルナ、無事で良かった……!」
「うん、なんとか」
涙をボロボロと流して俺とミリスを抱きしめる母親に少し呆れ、少し困惑混じりの笑顔を洩らす。
えーと、確か母親の名前はクシャトだったか。年齢的は30代くらいか。グラビアモデル並みの体つきや美貌をしているけど、よく今の今まで狙われなかったな。
「ルナ、その体の血はどうしたの?」
「襲ってきた熊を撃退したときに付着しちゃった」
「まぁ……!あとで体を洗ってきなさい。ミリス、貴女も体を洗っておきなさい」
「はーい。ルナ、行こ」
「うん」
ミリスに連れられ、家に帰る。
家に帰り、ナイフをベッドの下に隠して服を脱ぎ、森と隣接している裏に出る。
家の裏にある井戸から水を取り出し、近くに置かれた木の桶に入れて中に入る。水に入ると、返り血が水に広がり血の色に汚れていく。
お、冷たい冷たい。それにしても、走って数十秒の場所に川があるのに、なぜ水を引いてこないのだろうか。そっちの方が井戸から水を汲み出すよりも遥かに効率的だと思うのだが……。
まぁ、10戸しかないし、子供も俺とミリスを含めて十人ぐらいしかいない小さな村だ、土木関連の技術を持ってる者はいないのだろう。
「……こっちを狙っているのがいるな」
2匹、いや3匹か。人の視線には慣れてはいるが、獣の視線には慣れてはい。まぁ、敵意があるという訳ではなさそうだな。
森の方から向けられる獣の視線を睨みつけていると、背後から抱きつかれる。
「えへへ〜捕まえた〜」
「お姉ちゃん……」
首に回された腕に手を置きながら頬擦りしてくるミリスに少し呆れ混じりに呟く。
危ない危ない。咄嗟に投げてしまうところだった。というか、当たり前のように全裸だな。色々と当たってはいけない部分が背中に当たっているような気がする。
そういえば、記憶の中だと。この姉はシスコンの気がある人物だったな。妹大好き人間なんだろうけど、流石に俺からしたらあまり好きにはなれない。
「久々に洗っこしよ?」
「……分かった」
そう言って井戸から水を汲み上げ始めるミリスに視線を向ける。
おーおー、尻を動かすと、臀部から生えてる白い毛玉みたいな尻尾がフリフリ動いてる。俺にもあるけど、あんな感じなのか。
水いっぱいの桶に入るミリスが俺の背中に向けて水をかける。そして、乾いたタオルで背中を拭いていく。おおよそ、背中の方に残っていた返り血を落としてくれているのだろう。
「そういえば、明日代官様がくるよ」
代官様?どんな人物か分からないな。というのも、俺にはその記憶がない。少なくとも、俺の記憶が蘇る以前には遭遇した事がない、ということだ。
「代官様が?もうそんな季節なの?」
「うん。今年は豊作だから、多く取り立てられるってお父さんや村長さんが嘆いてたよ」
うーん、検見法のような税の取り立て方をされているのだろうか。
あれ、確か代官やその部下の力が強いシステムだから、場合によっては多くの作物が税として取られてしまうだろうか。
「だから、明日も森の中にいて。森の中なら、あいつらも貴女を見つけないはずだから」
「う、うん……」
少し強い声音で話すミリスに少し押され気味に答える。
……どうにも、この国のシステムについて詳しく調べておく必要があるな。邪神に聞くのが手っ取り早いし、明日にでも聞いてみるか。




