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黒電話

土の香りと草の香りが鼻孔をくすぐる。

目を覚まし、体を地面から起こす。立ち上がり、周囲を確認して体を伸ばす。


「転生は成功したようだな」


視界の低さから考えても俺が指定した通りのタイミングで人格をサルベージさせたな。あの邪神、中々いい仕事をしてくれるな。

適当に森の中を歩き、川辺に出る。

川の水面に映る自身の姿を見下ろす。


「やっぱし、異世界なんだな」


白い髪を腰まで伸ばし、穏やかな目つきをした星型のマークが宿る赤い目、客観的に見ても可愛くて綺麗な顔立ち。なにより、側頭部から生える白い毛に覆われたウサ耳。どこをどう見てもかつての俺の面影は残っていない。

まぁ、ここらへんは慣れっこだな。

そんな事を考えていると、川辺の石の上に黒いダイヤル式電話機が置かれていることに気がつく。


「……いやいやいやいや、普通に馬鹿でしょ」


今どき黒電話とか、あの邪神は何を考えているんだ。まぁ、取るけど。

黒電話に近づき、受話器を取る。


『久しぶりじゃのう璃月四谷。いや、今の名前は……なんじゃったけ』

「久しぶりじゃないだろ。それと、今の名前はルナだ。かつての名前はなるべく使わない方向でいきたい」


自然と自分の名前が出てきたな。

ルナ、か。うん、これはこれで悪くはない名前だ。


『うむ、分かった。それでは、この世界について説明を始める』

「真っ白な世界で教えてくれなかったのにか?」

『お主からは政治について聞かれたからじゃ』


質問の内容が失敗していたのか。それは反省だな。


『この異世界の名はズヴェスタ。多種多様な種族が生活する世界じゃな。文明のレベルはそう高くないが、魔法によって独自の発展をしておる』

「そいつは面白いな」


種族が違えば体をバラす際の感覚や力加減も違うはずだ。どんな殺し方を試してみようか、楽しみで仕方がない。


『主な国はダールタール公国、ミストレイク王国、マルステット帝国じゃ。3つとも互いに隣接しており、争いは絶えん。他にも国はあるのじゃが、3つと比べて見劣りするのじゃ』

「俺が産まれた国はどこだ」

『グリウス王国。マルステット帝国を構成する属国じゃな。大きな山と森が大半の小国で、産業はそこまで発達しておらん。その代わり、獣人系統の中でも草食動物ベースの種族が多いのが特徴じゃな』


獣人系統にも草食動物ベースや肉食動物ベースなんかがあるのか。


『まあ、よい。あとは自身で調べるのじゃぞ。次に、宗教について話すかの』

「ああ」


服の形や素材を見る限り、中世ヨーロッパ辺りの文化に近いだろう。となれば、宗教の力がまだ強い時期のはずだ。


『基本的な宗教はレビア教が主軸じゃな。前世で言うところの十字架一神教に近い。服装も基本的にはそれと同じじゃな。無論、自然と接する事の多い場所は原始宗教も色濃く残っておるようじゃな』


確かに、そういう記憶はある。

レビア教というのはあまり記憶には無いが、豊饒祭や狩猟祭といった行事は毎年行われている。ここは森が深いし、原始宗教が色濃く残っている場所なのだろう。


『それと、儂を崇める集団もおる。黒夜教団という一般的にはカルト集団じゃな。誘拐、血の生贄といった儂を楽しませる所業をしておる』

「管理しておけよ、邪神」

『嫌じゃ。あやつらの供物はそれなりに見応えがあるのじゃが、一々神託を下すのも面倒なのじゃ』


うわぉ、邪神が結構ぶっちゃけるな。


『さて、これで今回の通信は切るのじゃが、何か質問はあるかの?』

「特にない。……今度もこのやり方か?」

『無論そうじゃ。聞かれんよう注意するのじゃぞ。あ、要件があるのなら念じてくれればよいぞ』


そう邪神が言い終えると、黒電話は消える。

ま、基本的な事は理解できてるし、邪神のお陰で知らなかった事も理解する事ができた。

とりあえず、とっとと村に戻るのが先決なのだが……ま、少しばかり遊んでやるか。

背後から飛来するものの気配を感じ取り、倒れるように体を逸らす。腕に触れるギリギリのところで矢が飛んでいき、川に落ちる。

ああ、そういえば邪神が俺の種族は稀少だって言ってたな。となれば、狙われるよな。


「ヒヒヒ、嬢ちゃん大人しくしていた方が身のためだぜ……?」


人攫いに。

森の方から四人の男たちが現れる。全員が人族だ。

この国では奴隷制が合法化されている。しかし、攫われた者と借金のために売られた者の見分けがつかないため、人攫いが横行している。

そのため、全体的な見た目が綺麗だったり体格のよい人が多い種族はそこそこの値段で取引される。

実際、村でも人攫いには注意せよ、子供が森に入る時は大人と同行せよ、みたいなルールが決められている。俺はそこらへんを破ってしまっているけど。


「はぁ……」


でも、残念だ。

異世界に来て始めて殺すのがただの人族なんてね。

地面を蹴り、刹那の内に人攫いAとの間合いを詰める。


「はっ……?」


右足を基軸に回転し、勢いを利用しローキックで脛を蹴り、体勢を崩す。人攫いAの体が地面に倒れると同時に両目を踏みつける。


「ぐあっ!?」


人攫いAが手に持っていたナイフを奪い取り、下顎から脳を貫くように突き刺す。


「このっ!」


人攫いBが俺に矢を向ける。同時に突き刺したナイフを抜き取り、上体を前に倒して体勢を低くして肉薄する。

通り過ぎざまに両足の健をナイフで切り裂くと人攫いBは地面に倒れる。


「ぬぅん!!」


立ち上がる俺に目掛けて人攫いCが槌を振り下ろす。振り下ろされる槌を一瞥し、攻撃を難なく躱して背後に回り込み人攫いCの背中を切り裂く。


「ぐうっ……!?」


地面に倒れる人攫いCを見下ろし、地面をモゾモゾと這う人攫いBに目を向け、満面の笑みを浮かべる。

やーぱし、こういうのには毒を付着させているよな。

前世でターゲットにした連中の中には武芸者や警官、自衛官といった武力を行使することに躊躇いの無い奴もいた。そいつらを攫う際には毒物を使用していた。

ま、見た感じ意識を落とすのではなく体の自由を奪う系統……弛緩剤のようなタイプだが、筋肉の動きだけを阻害させていると言った感じか。未知の毒だな、この世界の植物から製造されたものか?


「あ、逃げないでね」


一目散に背中を向けて逃げる人攫いD目掛けて振り向きざまにナイフを投げる。投げられたナイフは一直線に人攫いDの背中に突き刺さる。

人攫いDはそのまま地面に倒れる。

少なくとも、一人は殺さないでおかないとね。何せ、貴重な情報源だから。


「まあ、お前は殺すけど」 

「ひっ!」


河原から拳大の石を手に取り、人攫いCに馬乗りし、大きく振りかぶって後頭部を勢いよく撲る。人攫いCが苦痛の声をあげる中、再び振りかぶって撲る。

撲る、撲る、撲る。ひたすらに、一心不乱に、しかしリズミカルに人攫いCの頭を石で殴り続ける。

硬い物を叩く音から次第に湿った音に変わり、石は次第に血に汚れていく。


「ゆるひゅて……」

「許す?なんで?」


人攫いCの頭に振りかぶった石を撲ると、男は動きを止める。血塗れの石を川に投げ捨て、立ち上がり、心臓に落ちてた矢を突き刺す。

さて、次は……。


「ひっ……」


体を這って逃げようとしている人攫いBに近づき、髪の毛を掴む。

痛みでギャアギャアと喚く人攫いBを落ちてた剣で脅して引っ張り、川に近づく。


「ま、まさか……!」

「そう、それじゃあ溺死してね」


人攫いBの顔を川の中に突っ込む。首の上に乗っかり頭を上げれないようにすると、人攫いBは動かせる両腕を動かして抵抗する。

俺の腕を人攫いBは引っかく。引っかき傷が腕に作らていくが、体の中の酸素が無くなったのか、動かなくなる。

水死、溺死というのはシンプルな殺しの方法だ。水を張った風呂さえ用意すれば簡単に人を殺せる。まぁ、ここらへんは趣味じゃなくてただの作業に過ぎないけどな。


「ど、どうしてだよぉ……『ノーマルラビット』は温厚な種族じゃないのかよぉ……」


残念だけど、俺は『ノーマルラビット』じゃなくて『ムーンラビット』なんだよね。

一人取り残され、涙を流す人攫いDに近づきながら口角をあげる。自由の効かない体をガタガタと震わせる人攫いDに視線を向ける。


「ちゃーんと、情報を吐いてね。あ、嘘を言ったら……死ぬより辛い地獄が待ってるからね」

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