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服屋

「ぜぇ……ぜぇ……」


息を荒らげながら、俺は布団の上で横になる。

時間的には恐らく3時間程度か。だが、濃密な時間を過ごす事ができたな。

脳を甘く溶かす毒を無力化するのに多少の時間がかかったが……ま、なんとかなるものだな。でも、なるほど、デリ○ルとかが経営される理由が何となく分かった気がする。普通に気持ちが良いもん。


「ふふ……癖になりそうでしょ……」

「……まあ、流石に傾倒する事は無さそうだがな」


布団の中で俺の体に絡みつきながら、耳元で囁いてくるコクヨウに一定の同意を示しながら立ち上がる。


「芸事を売るのが仕事だけど……ミリの気持ちが少し分かったかも」

「ミリ?」

「私と同列の『ブラックウルフ』の娼婦よ。踊りを得意としているけど、私みたいに女としか寝ないわけではなく、金と気に入れば極楽浄土に行けるとされているわ」

「へぇ……」


うん、コクヨウはかなり拗らせているな。それを言ったら俺もだけど。


「それと、貴女にはこれを渡さないと」


そう言って頬を赤らめて発情しながら立ち上がるコクヨウは棚の中から何かを取り出す。その後、上体を起こした俺に目線を合わせ、髪の中に何かが入れられる。

それを引き抜いて見てみる。


「……簪?」


髪に入れられてたのは見るからに高そうな黒い簪だった。光沢を帯び、細かく犬の姿が細工され、垂れている黒真珠にも金細工の装飾がされている。


「次にここに来る時はこの簪を刺して来てね。また、相手をしてあげるから」

「……その次がいつになるかは、分からないがな」

「それでも良いの。貴女は私のお気に入りだもの」


そんな事を話しながら着替えていると、襖が開き禿の『ウェアウルフ』の少女が正座をしている。


「ルナ様、食事はどうしますか」

「結構だ。もうすぐ帰る。それじゃあ、またいつか会うとしよう」

「ええ、待っているわ」


コクヨウの唇が頬に触れる。コクヨウの顔が離れると、コクヨウは微笑みながら手を振る。

俺は立ち上がり、笑顔を向けながらコクヨウに手を振りながら部屋を出る。

予想していた以上に時間が食われたが……それでも、『数ヶ月の中で娼婦が行方不明になっている』『魔法に長けた種族が多い』という良い情報が手に入った。それに、この娼館の娼婦と仲良くなれたのは良いことだ。情報源としても使えそうだ。


「コクヨウ姐さんが簪を与えるなんて初めてですよ。かなり気に入られましたね」

「まあな」


あいつは百合っ子だからな、という言葉は抑えておこう。

階段を降り、入り口に向かうとキセルを吹くやり手婆が座布団の上に座っている。


「情報は手に入ったかい?うちの中でも最上級の娼婦に合わせてやったんだから、成果を出しなさいよ。うちでも何人か消えちまってるからね」

「そうかい。こちらも善処しましょう。……ところで、本来の値段でコクヨウを買った場合どれくらいになる」

「……金貨100枚はくだらないさね。まぁ、あんたはあの子のお気に入りなんだから今回と同じ値段で合わせてやるよ。その簪、嵌めておくようにな」

「は、はい……」


軽く凄まれて苦笑いしながら、そそくさと朱玄塔から出ていく。

日がまだ明るいのは幸いだ。とりあえず、この簪は仕舞っておこう。流石に盗まれたらコクヨウに悪いしな。

簪を【アイテムボックス】に収納し、繁華街の人波を縫うように歩いていく。3時間前と比べても人が多くなっている。


「さて、次に向かうべきは……服屋だな」


先にフルハウスに向かっても良いが……今はまだ日が出ている。夜には閉まるであろう服屋に行った方が効率的だ。


「確か、ここだな」 


10分ほど歩いた頃、聞き込みの末に紙に書かれている店名と同じ店名の服屋を見つける。

景観ガン無視の黄色い屋根に加え、木々や鳥、花の浮き彫り細工が外面に細かく刻まれている。

店の規模はそこまで大きくはないな。せいぜい、あの村での俺の家が一回り大きくなった程度だろつ。しかし、外から見える服のデザイン性はそれなりに良さそうだ。


「服屋ミストローズねぇ」 


直訳すると霧の薔薇か。この店名の理由は分からないが、霧が求める者の手から掠め落ちる事を暗示し、美しくも棘があるバラが娼婦を暗示しているのだろうか。

ま、俺が知ったことではないが。

店の扉を開け、俺は中に入る。チリンチリンという音が響く。

店の中はいくつかのマネキンに着飾られたドレスと服の材料になる布の塊が並べられている。そのドレスは少し薄かったり、胸や背中、足などを煽情的に見せるデザインになっていたりしている。

女の魅力を引き出す事に長けた服を作る店か。なるほど、娼館が立ち並ぶエリアで高給娼婦に愛用されるだけの事はある、ということか。

ドレスを眺めていると、カウンターの奥の扉が開き、丸メガネをかけた人族の青年が出てくる。黒い髪をした中肉中背の、どこにでも居そうな青年だ。


「どのような服をお求めで?」

「……レンリーという高給娼婦の話が聞きたいが、良いか?」

「構いませんよ。こちらの椅子にお座り下さい」


青年が取り出した椅子に座り、その対面に青年も座る。


「それで、聞きたい話というのはなんでしょうか」

「高給娼館フルハウスのレンリーはこの店の顔なじみだと聞いていた。しかし、レンリーは一週間ほど前に失踪している」

「そ、そんなことが……」


しょぼん、と青年の顔は少し不安そうな顔をする。

ふむ……どうやら、この青年はレンリーが失踪した事については知っていなさそうだ。


「そのレンリーについて、知っている情報を話してもらいたい。彼女を助けるためにも、必要になるはずだ」

「レンリーさんはお洒落好きの性格で、1ヶ月に一度のペースで服を購入してくれてました。少し色狂いのところがあって、僕も何度か手を出されましたが……それ以外は特におかしな事はありません」


色狂いねぇ……まあ、身を売るのなら基本的にそっちの方向性に成長しても可笑しくはない。それに、レンリーは『夢魔』だ。種族の中でも随一の性欲の強さを持つ種族である以上、色狂いと呼ばれても仕方はないだろう。

ま、ここは外れだな。さっさと出るか。


「ああ、すみません。フルハウスに行くのでしたら、これも持って行ってください」

「おん?」 


俺が席を立つと慌てて青年が呼び止めて魔法陣を展開する。【アイテムボックス】の魔法陣だ。

青年が【アイテムボックス】から取り出したのは赤いドレスだ。


「彼女が本来受け取る筈だったドレスです。一応、フルハウスの部屋に置いておいて貰えればそれでよろしいですので持っていってもらえませんか」

「わかった」


俺は青年からドレスを受け取る。

ふーん……生地も滑らかだし、耐久性もある。胸を強調するデザインから考えると、胸に自信があるようだな。

店を出ると、手に持ったドレスを【アイテムボックス】に突っ込んで歩き始める。

情報は手に入らなかったが、手土産が出来たのはメリットがあるな。

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