傭兵ギルド
翌日の朝、俺とイズモは地下にあるワインセラーで向かい合わせに立つ。
「昨日の件、説明してもらえるよな」
「ああ、分かっている」
イズモはワイン樽に背を預け、俺に向けてカードを投げつけてくる。俺は投げられたカードをキャッチする。カードには黒い三日月が描かれている。
カードを訝しみながら魔力を流す。すると、電子機器の集積体のようなメタリックな模様が浮かび上がり、一目見て普通の代物ではない事が分かる。
「これはなんだ?」
視線を投げかけると、イズモは同じカードを魔法陣から取り出す。
「これは傭兵ギルドのギルドカードだよ。まあ、表のギルドとはマークが違うがな」
「表のギルドねぇ……」
それは、ここが裏だと言っているようなものだ。まぁ、俺自身が裏側の人間であることは否定できないが。
「傭兵ギルドは主に護衛やボディガード、警備員から盗賊退治、異形退治が主な仕事だ。また、それに伴って証拠の調査や情報収集などをする者や武器のメンテナンスをするもいる」
ま、当然だな。警察だって捜査一課だけで仕事が回ることはない。現場証拠の保存や科学捜査を行う部署もある。それとたいして変わらない。
「なんでも屋みたいなものだな」
「物騒な仕事を主軸とした、というのがつくけどね。でも、それだって一枚岩じゃない。魔法ギルド、商会ギルド、各種研究機関、貴族、王族……主に受ける依頼の傾向によって自然と傭兵たちの間でも派閥のようなものが生まれている」
派閥かぁ……ま、それは今回の話の主題では無さそうだが。
「これが表の傭兵ギルドの現状。裏の傭兵ギルドはこれらの派閥とは殆ど関係ないから安心しても良い」
「なら良かった」
派閥争いなんてとても面倒くさそうだもん。
「裏の傭兵ギルド……表の傭兵ギルドでは『異端派』なんて呼ばれてる。通常の世界では生きていけない者が殆ど、というのが主な理由だな」
それは何となく分かる。
俺自身、既存の道徳や倫理観から逸脱した殺人鬼だからな。
「仕事の内容も殺人、誘拐、遺体の処理、諜報、機密文書の破棄など、表の傭兵ギルドの仕事から逸脱したものが大半だ」
「それに俺を入れた理由はなんだ」
「お前はこっち側の人間だ。臭いで分かる」
えっ、そうなの?……まあ、俺も雰囲気などで判断しているからそういったところだろ。
「とりあえず、今日は一番難易度の低い依頼をすることが決まっている。メルシアと行動してもらう」
「了解っと。それで、依頼内容は」
「人探しだよー!」
背後に現れる気配を感じ取り、振り返ると幼女が立っていた。昨日、イズモを追いかけ回していた白衣を着た幼女だ。
メルシアはワインセラーの中を面白そうに物色した後、俺に近づいてくる。その姿に、俺は違和感を覚える。
警戒心がない……?足捌きや体の動かし方からしても武術に関しては素人くさいな。それに、白衣の下に鎖帷子のような防具を着ているかと思ったが白衣の下は全身を引き締める黒タイツだけ。身の危険に晒されやすく、報復なども平然と行われている筈なのに、あまりにも無防備過ぎるし目立ち過ぎる。隠れる気はあるのか?
いや、違うか。
この幼女は隠れる気もなければ防御する気もない。傲慢に、それら全てをねじ伏せるだけの力がある事を誇示しているのだ。
……ここではなるべく敵対的な行動をしないようにしておこう。
メルシアが俺を気に入ったのを確認したイズモは魔法陣から依頼内容が書かれた紙を取り出して読み上げ始める。
「依頼人はジョアーノ・バーバリン。バーバリン男爵家の次期当主だ。探し人はレンリー、彼のお気に入りの娼婦で『夢魔』だ。彼女は一週間前に高級娼館フルハウスでの仕事を終えた後に失踪している。理由は不明。彼女が愛用していた服屋や化粧品屋、薬屋、そして最後に目撃された高給娼館の位置はこの紙に書いてあるから確認してくれ」
「了解っと」
イズモから紙を受け取り、確認する。服屋、化粧品屋、薬屋、高給娼館は全て歓楽街にあると書かれている。
歓楽街ねぇ……ま、そこらへんはこの子に頼むか。
「メルシア、歓楽街はどこにある?」
「うーん……街の東側にあるよ。この薬屋と化粧品屋、メルがよく行ってたから任せて貰っていい?」
「構わない。それなら、俺は服屋と高給娼館の方に行かせてもらおうか。情報を回収したらどこで集合する」
「ここ……じゃあ流石に手間があるよね。街の西側に有名な喫茶店ピアーズがあるから、そこで待ちあわせということでいい?」
「構わない」
「決まりだね!」
そう言ってメルシアは小走りにワインセラーを出ていく。
薬屋に化粧品屋……十歳くらいなのに、行ったことがあるなんて変わってるなぁ……。あ、聞きたいことがあった。
振り返り、イズモの方に顔を向けて尋ねる。
「そういえば、メルシアが一番得意としている仕事はなんだ」
「……彼女は基本的には死体遺棄を得意としている。いや、遺棄なんて生易しいものではない。……まあ、彼女と仕事をするのなら見る機会がある筈だから、心してかかっておいた方が良い。私はあまり好きではなかったが」
そう言ってイズモは俺の横を通り過ぎてワインセラーから出ていく。
死体遺棄の専門家……という訳ではなく、何かしらの技術の延長線上に死体遺棄の技術がある、と言ったところか。これはこれで、とても面白そうだな。




