転生前
目が覚めると、白い世界が見えた。
立ち上がり、周囲を見回す。
前も、後ろも、右も、左も、全てが白い。現実離れしているが、現実だろう。だとすればここは……。
「ふむ……ここは異世界というやつか?」
「その前段階じゃ、璃月四谷」
そう言って目の前に光の塊が現れる。塊は次第に人の形に変わり、着物を着た幼女になる。
幼女が床に座り、俺もまたその対面に座る。
「それで、わざわざこの俺に何のようだ。ていうか、ここはどこだ」
「ふむ……お主、死んだ瞬間の記憶はあるか?」
死んだ瞬間の記憶、ねぇ。確か……ああ、あれのことか。
いやはや、自分の事ながら傑作とも言える死に様だったよ。
「確か、刺殺だったかな、自分でも笑える死に方だったよ。何せ、連続殺人鬼がまさかの通り魔に殺害される何て、想定外も想定外!いやー、計画的に殺人を進めるのも楽しいけど、散発的な殺人も変わった楽しみがある」
トランプタワーを作ると同じように、ほんの小さな外的な要因で人間は簡単に死んでしまう。それを身を持って体験できたんだ。
サイッコーだよ、本当に!!
「一応、儂もお主の殺人を見ておったのじゃが……意外じゃな。お主、計画的に物事を積み上げて人を殺すのが趣味の筈じゃが」
「ま、趣味じゃないのは事実だな。世間的にも『キラー』なんてイタい名前で呼ばれる程度には、計画犯罪の方が好きだしな」
計画的に人を攫い、拷問の果てに殺害。警察にも情報や挑戦状を渡しながらも全てをあざ笑って殺人を繰り返す。ジャック・ザ・リッパーのような劇場型犯罪者『キラー』。それが俺だ。
その結末が、こんな幕引きになるのは想定外だ。ま、それもそれで予想外の結末で良いけど。
「そういえば、結局俺の犯罪は露見した?」
「否じゃ。どうも、全国各地でお主の模倣犯が現れたせいで警察は混乱しておる」
「ははっ!それは良い。警察のクズどももこれは予想外だろ!」
何せ、俺も模倣犯が出てくる事なんて考えもしなかったからな。
「くくっ、こうも面白い性格をしているとは予想外じゃ」
「……自分で言うのもなんだけど、俺の殺人は基本的に人道に背いている。そこらへんは気にしないのか」
「儂は神じゃぞ?人の倫理になぞ縛られておらん。数多の血と戦いこそ、儂を楽しませる。お主の殺人は非常に興味深いものじゃったわ」
「へぇ……」
神様だけど、本質的には邪神と呼んだ方が良さそうだな。ま、面白いからどっちでもいいけど。
「それで、死んだ俺はどうなる。この何にもない世界にいさせるつもりか?」
「否じゃ。この世は円を回る如く巡るもの。異なる世界に転生するのが必須。今回はお主に転生先と転生後の一生でどのように成長するかを決めてもらうのじゃ」
そう言って邪神はどこからともなくサイコロとコインを取り出す。コインは十円玉だが、サイコロはやたらと種類が多い。
サイコロ、と言っても通常の6面ダイスから100面ダイスまで、様々な種類だ。
「なんでこうもサイコロが多いんだ?」
「無論、運ゲー要素を盛り込むためじゃ。そっちの方が面白いじゃろ。ほれ、まずはコインで男女を決めよ。表で男、裏で女じゃ」
「性別も異世界では違うのか。どっちが有利とかあるのか?」
「男の方が有利じゃな。無論、転生先によって若干の違いが出てくるがの」
そうかそうか。なら、とっととやるか。
十円玉を手に取り、親指に乗せて真上に弾く。十円玉はクルクルと回転し、俺の手の甲の落ちてくる。
手の甲から落ちないようもう片方の手で押さえ、手を外す。
「裏か」
十円玉の裏が出たのを確認し、邪神は手に持った紙に表記する。
「次は筋力じゃ。えっと、6面ダイスを3つ振ってくれ」
「分かった」
3つのダイスを手に取り、転がす。ダイスは互いにぶつかり合い、6、5、1の面が出る。
「ふむ……平均的な筋力じゃな。次は体力じゃな」
ダイスを手に取り、コロコロと転がす。今度は2、3、6の面が出る。
「これもまた、平均的な体力じゃな。えっと、次は……体格じゃ」
3つのダイスを手に取り、転がす。今度は6、2、5の面が出る。
「またしても平均的な体格じゃな。なんじゃ、つまらん。面白いダイス運にせよ!」
「そこらへんはダイスの神様に聞いてくれ」
「むぅ……次は敏捷性じゃな。これは10面ダイスを3つ、同じようにしてくれ」
「了解っと」
10面ダイスを手に取り、転がす。コロコロと転がり、ダイスは10、7、9の面が出る。
「ふむ……正しく成長すれば人外の如き速度で行動することができるようじゃな」
「人外か。それは面白い」
元々、人という形に執着は無かったから丁度いい。
「次は外見じゃ。12面ダイスを2つ振ってくれんか」
12面ダイスを手に取り、地面の上に転がす。ダイスは12と6の面が出る。
「ふむ……美人になりそうじゃな。よかったのう」
「……なんだろう、褒められているのだろうけど違和感が」
女になる、というのがどういう感覚なのか分からないが違和感が酷いな。
「さて、次は知性じゃな。6面ダイスを2つ振ってくれ」
6面ダイスを転がす。地面に転がりぶつかって弾かれ、6と5の面が出る。
「ふむ……そこそこ頭の良くなるようじゃな。して、次は精神力じゃな。6面ダイスを3回振ってくれ」
「へいへい……」
なんていうか、昔見たテーブルトークゲームの能力値決めみたいだな。
6面ダイスを3つ手に取り、転がす。ダイスはぶつかり合い6、5、5の面が出る。
「ふむ……これは一般的な精神力じゃな。さて、あとは種族を決めるところじゃな。100面ダイスを一度振るってくれ」
100面ダイスを手に取り転がす。今まで転がしてきたダイスとぶつかりながらコロコロと転がり、最終的に83の面が出る。
「80番台か……ふーむ『獣人系統』じゃな」
「ていうか、系統について教えてくれ」
「説明大変だから、これを見とくれ」
そう言って邪神から紙を渡され、俺はそれに目を通す。
えーと、
0〜9が『異形系統下位 (ゴブリンなど)』。
10〜19が『異形系統上位 (ドラゴンなど)』。
20〜29が『動物系統 (ルー=ガルーなど)』。
30〜39が『植物系統 (アラウネアなど)』。
40〜49が『人系統 (ドワーフ)』。
50〜59が『人系統 (人族)』。
60〜69が『人族 (魔人)』。
70〜79が『人系統 (エルフなど)』。
80〜89が『獣人系統 (ウェアウルフなど)』。
90〜100が『神話生物系統(夢魔など)』。
と書いてあるな。……これ、普通にこっちで選んだ方が早かったように思える。
まぁ、ゲーム感覚に物事を進めれるのは面白いな。
「そして、もう一度100面ダイスを振るのじゃ。そうすれば、種族が確定する。
「分かった。それじゃあ振るぜ……!」
再び100面ダイスを手に取り、転がす。100面ダイスコロコロと転がり95の面で止まる。
「95……ふむ、『ムーンラビット』じゃな。普通の『ノーマルラビット』よりも遥かに希少じゃぞ」
「へ、へぇ……」
美人で希少……目立つから嫌なのだが。
「あ、幸運を忘れておった。6面ダイスを3つ転がしてくれ」
し、しまらねぇ……。
6面ダイスを手に取り、転がす。ダイスはぶつかり合い、6、2、5の面が出る。
「ふむ……これで終わりじゃな」
邪神が指を弾くと俺の手にあった紙や、ダイスが消える。
「さて、これであとは転生を残すだけじゃが……何か質問はあるかの?」
「記憶が蘇るタイミングは操作できるか?」
「可能じゃ。何歳が良い?」
「6歳だな。記憶が蘇ったら蘇る前の記憶はどうなる」
「そのままじゃな」
「異世界の政治の状況はどうなってる」
「極秘じゃ。そっちの方が面白いじゃろ」
「確かにな。あとは……転生したあともお前と交信することはできるか?」
「うむ、可能じゃ。その手筈はしておこう。これでよいか?」
「ああ、始めてくれ」
質問すべき事を終えると、強烈な睡魔に襲われる。立ちくらみと共に身体から力が抜け、そのまま地面に倒れる。
「眠りから覚めた時、お主は既に転生しておる。お主が異世界でどのような生き様を見せるか、楽しみに見てるぞ」
なーに、面白可笑しく生きてやるよ、邪神。
邪神の笑顔を見上げながら、次第に意識が睡魔に呑み込まれ、深い眠りにつく。