8話
ハードディスクは砕けない
メトシェラの風光明媚な町並みからやや奥まったところに、こぢんまりとした喫茶店があった。
「ラザロさんが言っていた建物は、ここみたい」
マリアが地図を見ながら言った。
「よし、堂々と行くぞ」
「うん」
「ミルク出されても飲むなよ」
「あれはもう忘れて」
俺とマリアはその喫茶店に突入した。
中に入ると、見慣れない種族の面々と目が合った。
入り口近くの席で武器を研いでいたのは、ずんぐりした体格でヒゲを蓄えている男性。これは見るからに、ドワーフだ。
その奥のソファで横になって本を読んでいるのは、ほとんど子供のように見える種族、ホルピットだ。性別は不明。
そして一番奥のカウンターでシェイカーを振るっているのは、
――一瞬、見とれてしまうほど美しい翼を背中に持った、ホークフォークの少女。
彼女は少し俺たちに目をやると、ぷいとよそを向いてしまった。
「すみません。いま営業時間外なんですよね」
ホルピットが言った。声を聞いてもなお性別不明。不明でいいか。
「いや、俺たちはお客じゃなくて」
俺は居住まいを整えて言った。
「日本から来た、佐々木瀬人」
「同じくヒルキヤから来ました、マリア・マグダレナ」
「今日からみなさんにお世話になります」
「お世話になります」
お辞儀をしたまま10秒くらい経過した。ちょっときつい。
「ああ、ラザロが言っていた――」
ホルピットが納得したように言ったが、ホークフォークがそれを遮るように、
「あなたたち、なにか勘違いしているんじゃなくて?」
俺たちは顔を上げた。
ホークフォークの少女は美しい眉を曲げて、
「『お世話になります』っていいますけど、わたくしたちからお世話を得られると決めてかかっているようで不服だわ。
ギブ・アンド・テイク。
まずあなたたちにできることを示してからもう一度同じ言葉を聞きましょうか」
ホルピットは仕方ないというふうに肩をすくめ、ドワーフは斧を研いでいる。
「えっと……、掃除します!」
「あ、あの、お皿洗いなら……」
とりあえず下手に出よう。あとで見てろよ。