6話
ハードディスクは砕けない
『奥谷の虎』亭は店主が昔大きな虎を狩ったときの収入が原資になって建てられたらしい。
つまりは、店主も元・冒険者だ。
冒険者たちが集まる店になるのも無理はない。
引き戸を開けると、そこには多種多様な顔があった。
メトシェラで一般的なエルフや人間だけでなく、ここではじめて見るドワーフらしき顔も。
俺たちが新米だからだが、みんな熟練の冒険者に見える。
「堂々と行くぞ」
「うん……」
俺とマリアはカウンターへと一直線に歩き、ミルクを注文した。
「おい相棒、今の聞いたか?」
「ミルクだってよ。いつからここは保育園になったんだ?」
嘲りの声が上がる。まあ通過儀礼のようなものだろう。
「ああいうのは無視するぞ」
隣の席のマリアに声をかける。
? 返事が遅い。
「……だぁれの体型が保育園児だってぇ?」
マリアがさきほど嘲りの声を上げた冒険者をにらみつけた。
……いや、体型の話じゃないと思うが。
「言っとくけどねぇ、あたしのことはバカにしてもいいけど、
あたしの仲間をバカにするなら、そりゃああたしも相手になるよ」
「……マリア、酔ってる?」
「酔ってないよ! ……ひっく」
どう見ても酔っていた。なんでミルクで酔うんだ。
「相手になるっつうのは、どういうことをしてくれるんだ、お嬢ちゃん」
さきほどの冒険者が挑みかかるような目で見てきた。
「そりゃあんた、ボッコボコのメッタメタよぉ」
まずい、喧嘩になる。というか喧嘩を売ってる。
相手も大したことはないんだろうけど、俺たちも冒険者としてレベル1だぞ、大丈夫か。
「はっはっは」
奥のテーブルから拍手が聞こえた。
「50年ぶりにこんな生きの良いタンカを聞いた。
ゼキエル、彼女たちのことは僕に免じて許してやってよ」
「ラザロさんがそういうなら」
その長髪のエルフはラザロという名前らしかった。
少なくとも50歳だが、エルフの年齢は外見からは分からない。
ゼキエルという冒険者の態度から見るに、大物であるらしい。
「君たちも、ここは矛を収めて」
「もちろんです! いいよな、マリア?」
横を見ると、マリアは俺に肩を預けて寝息を立てていた。
「異世界からの冒険者は、体内の酵素がメトシェラの住人と違うから、たまに酔う食べ物がある」
ラザロが解説してくれた。
「そんなロシアンルーレットみたいな」
「ロシア? まあそれはそれとして」
ラザロは俺の隣(マリアの逆隣)に席を移した。
「君たち、新人だろう。
よかったら、僕たちと組まないか?」