5話
ハードディスクは砕けない
冒険者ギルドは意外と明るく清潔な建物だった。
中に入ってすぐのところに、順番待ちの札がある。
札に名前を書いて、呼ばれるまで待つシステムだ。
「あんまり冒険者どうしで交流する感じでもないのかな」
マリアがつぶやく。
たしかに、待合もみんなソファごとに分かれ、話し声も少ない。
「そのへんも含めて、デボラさんに聞いてみようぜ」
しばらくして、名前が呼ばれた。
「あら、あなたたちは」
デボラは俺とマリアの顔を覚えてくれていた。
「ええと、今日は依頼を受けるわけじゃないんですけど……」
マリアが申し訳無さそうに言うと、デボラはにやりと笑った。
「いいのよ。
むしろそっちのほうが安心するわ。
いきなり依頼に突っ込んで死んでしまう人もいるし、
いつまで経ってもギルドに来ない人もいる。
そんななか、あなたたちは、かなり安心。
『仲間を作る』『下調べする』と言ったことができてるからね」
どうやら今までの選択はさほど間違ってはいなかったようだ。
「聞きたいのは、仲間を作れるような場所がないかってことなんです。
俺たちより少しベテランで、でも等級は変わらない仲間が欲しい。
冒険者ギルドにくれば良いのかなと思っていたけど、そうじゃないみたいで」
「そうね……、ギルドは最近、システマチックだから。
交流や情報探し、仲間集めは酒場が担当しているわね。
二人とも未成年だから……、オススメは『奥谷の虎』亭かしら」
デボラは空中に魔法の文字を浮かび上がらせて、道順を教えてくれた。
「ありがとうございます。
そっちへ行ってみます」
ギルドを去ろうとした俺を、デボラが笑って呼び止めた。
「今日のぶんのスタンプが押せるわよ」
「? 今日のぶん?」
許可証を出すと、デボラがポンと判をついてくれた。
「1ヶ月に一度、ここに顔を出すとスタンプがもらえるの。
次のスタンプは1月後ね」
「ログインボーナス!
ログインボーナスですね?」
「ろぐいんぼーなす?」
マリアはぴんと来ていないようだったが、それでもスタンプをもらう。
「これはね、ボーナスという意味合いもあるんだけど、
『生存確認』のほうが強いの。
冒険者は、やっぱり、音信不通になることが多いから……。
あなたたちには、末永くスタンプをついてもらいたいわ」
デボラは一瞬遠い目をしたが、すぐに気を取り直して、
「ちなみに、100スタンプ集めると銅等級よ。
さらに、鉄等級で一番安い景品はあちら。
景品と引き換えても等級には影響ないから安心してね」
「本当にシステマチックだ……」
帰り際に、景品のコーナーを見てみた。
今の俺たちでは価値を測ることさえできない剣や盾、指輪にならんで、
『蘇りの儀式』券もそこにあった。
「あれがセトくんの目標なんだよね!」
マリアが珍しく気合の入った表情で言った。
「あ、そういえば、マリアは?」
「え?」
「マリアは『元の世界』が目標じゃないのか?」
「わたしは……、違うかな」
「そうか」
そういえば、俺もだがマリアもなんらかの形で死んだわけだ。
死に方によっては、元の世界に帰りたくない場合もあるかもしれない。
「今はね、目標を見つけるのが目標」
「いいなそれ」
俺の大目標はHDDを壊すことだが、中間目標として、マリアの夢を見つけてやりたい。
それくらいの寄り道は許される、はずだ。