4話
ハードディスクは砕けない
物価の調査も兼ねて、マリアと一緒にメトシェラの城下町をぶらついた。
『マナ』は小数点以下の単位もあるらしく、むしろそちらのほうが日常的なようだ。
具体的には、外食が10分の1マナ程度、宿泊施設が10分の5マナ程度だった。
「余裕を持って、1日1マナくらいみとかなきゃだね」
「50マナってけっこうしわいな」
単純に考えて50日で予算は尽きる。
それまでに冒険者としてある程度目処を立てておかないと、元の世界どころではない。
救いは、冒険者に親切な気風だった。
町の人たちが、冒険者とみると道を教えてくれたり、ときにはおごってくれたりする。
基本的に冒険者は『転生者』だから、何か縁起物のようにとらえられているらしい。
そして冒険者はそれなりに大きな勢力らしく。
冒険者専門の商売もまた、存在しているようだ。
「『魔法塾』」
大きな杖のついた看板が目立っていた。
「1コースが終わるまでに、だいたい10マナかな」
もちろん冒険者以外で魔法を使う人もいるが(デボラもそうだ)、そういうのは日常向けの魔法で、だいたいが学校で習えるらしい。
冒険者の魔法、戦闘向けの魔法は、こういう塾で身につけるようだ。
「10マナはでかいな」
「でも、魔法は必須だって、デボラさんが」
「そうなんだよな〜。
ただ、もうちょっと様子を見てから決めね?
たとえば、ちょっと薬草摘みにいくような依頼だったら、魔法いらないんじゃないかと思うし」
「じゃあ魔法は保留で……、
武具はどうする?」
マリアが指差した先には、大きなハンマーのついた看板があった。
……この世界はどこが何屋なのかわかりやすい。
「武器か。
ヒノキの棒だけじゃちょっとな……」
ウィンドウショッピングしてみる。
戦闘用ナイフが3マナ、ショートソードが6マナ、スピアが5マナ。
「剣より槍のほうが安いんだな」
「金属部分が少ないからかな?」
防具は……ただちには今の服(教会でもらったもの)でいいか。
金属鎧なんかは驚くようなお値段がするし。
「そもそも俺、剣とか槍とか触ったことないや」
「使いこなせるかが怪しいよね。わたし、弓引けないかも」
武器屋の前を離れて、一呼吸入れる。
「うん。必要なものがわかった」
「やっぱり槍にする? 初心者向けだっていうし」
「いや、まず情報だ。
情報がないと何をしていいか分からない」
「なるほど」
「情報を得るために冒険者ギルドへ行って、冴えない冒険者を探す」
「……なんで冴えない冒険者限定なの?」
「欲しいのは『経験』だけど、経験が身になりすぎて等級が高くなってたら、俺たちを仲間にするメリットがない。
経験はあるけど、等級が低い、冴えない冒険者なら俺たちを仲間にしてくれる」
「なんか切ないね……」
「まあ、今の俺たちの価値はそんなとこだ。
銀等級になるまで、先は長そうだな」
「……先が長くても、全然諦めていないの、セトくんの良いところだと思う」
「壊さなきゃならないからな、HDDを」
一歩一歩進むしかない。
ひとまずは冒険者ギルドで情報探しだ。俺たちは進む向きを変えた。