2話
ハードディスクは砕けない
デボラはテキパキと話を進めていった。
「あなたがたにはヒノキの棒(歩く際に杖にしてください)と50マナ、それから冒険許可証が与えられます。
許可証は貴重なものなので、無くさないでくださいね」
前の席から順番に許可証とカバンが巡ってきた。
貴重なものにしては適当な渡し方である。
「後ろまで行き渡りましたか?
では許可証の中を見てください。スタンプが押せるようになっています。
このスタンプは『冒険者ギルド』で押してもらうことができます。
もちろん、依頼達成と引き換えに、です」
スタンプが欲しければ依頼を達成しろ、という形だが、スタンプをもらうメリットはあるのだろうか。
「スタンプを溜めることで、貴重な景品と交換できます。
また、一定数集まれば昇格――鉄から銅へ、そして銀、白金へと――することができ、
昇格により景品のラインナップが増えます」
景品がどんなものかが重要そうだ。
「あの、すみません!」
俺は手を挙げて質問した。
「はい、どうぞ」
「元の世界に帰ることができる景品はありますか?」
「いい質問です」
デボラはメガネをくいっと上げた。
「あなたがたが元いた世界では、あなたがたは死んでいます。
それをまず、ご理解いただかなければなりません。
このメトシェラがある世界に来られたのは、あなたがたの魂だけ。
肉体のほうは、魂に応じて作ったものになります。
つまり『帰り道』も、魂のみで帰ることになります」
「それってどういう……」
「死んでしまったあなたがたの元の肉体が生き返るわけではない、ということです。
元の世界に帰った場合、あなたがたは別人として生まれ変わることになるでしょう。
それでよければ、銀等級の景品にて蘇りの儀式を施すことができます」
「なるほど、別人として元の世界に戻れるんですね」
それならよし! 住居侵入になるが実家のHDDを壊すことはできそうだ。
「元の世界に帰ってもさあ〜」
右の方の席から気だるそうな声が聞こえてきた。
ボサボサの髪の少年がデボラに質問していた。
「浦島太郎みたいに、何百年も経ってたりしたら意味ないよね。
そこんとこ、どうなの〜?
この世界と元の世界の時間の流れというかさ〜」
なるほど、そこはHDDを壊す件においても重要だ!
心のなかで少年に拍手を送っておく。
デボラはよどみなく答えた。
「まず――、お気づきでないかもしれませんが、ここにおられる方々はそれぞれ、『元の世界』が違います」
「世界って、そんなに有ったの〜?」
「はい。エルフばかりの世界もあれば、エルフ・ドワーフ・人間が混じり合っている世界もあります。
このメトシェラは、後者ですね……。
そして世界によって、時間の流れ方は違います」
まずいじゃん!
HDDを壊せたとしても20年とか経ってからだと、みんなに見られてるし!
(そもそもHDDが20年も持たない気もするし)
「それじゃあ、『元の世界』で親とかに会えるかどうかは運次第ってこと〜?」
「そうですが、一定の傾向はあります。
つまり、この世界は『各世界の平均』に比べ時間の流れが早いらしい、ということが分かっています」
ん? 時間の流れが早いってことは……
……この世界で1ヶ月冒険しても元の世界ではもっと短い、という可能性はあるな!
HDD壊すの、間に合うかもしれない。
「他に質問はありますか?」
すっかり質疑応答の時間になっていた。
後ろの席の少女が、おずおずと手を挙げる。
「あの、わたし体とか弱くて、冒険者なんてできるかなって……」
「名称は『冒険者』ですが、要は依頼をこなせばいいわけです。
異世界(メトシェラから見て)の経験を活かしてこなせる依頼が、きっとあるはずだと思っています。
他に質問はありますか?」
デボラはしばらく室内を見回していたが、やがて質問は打ち止めだと考えたらしく、
「では、今後あなたがたとは『冒険者ギルド』で会うことになると思います。
みんなの旅の無事を祈って、」
デボラは手をかかげた。
その手から、七色に輝く火花が散って、みんなを驚かせた。
「これが『魔法』です」
デボラはにやりと笑った。
「元おられた世界に『魔法』が存在していたかどうか、わたくしにはわかりませんが、この世界で冒険者をするなら魔法は必須。
ゆめゆめ気をつけてください。
では、今度こそお別れです」