それは、神様の暇つぶし
白い空間の中に白い棚が並び白い背表紙が収まっている。
一冊一冊に物語があり、一冊一冊に作者の感情が詰まっていて、いつか手に取ってもらえることをいつの日かいつの日かと待ち望んでいるだろう。
人間が扱う図書館ならばそうなのだろう。
図書カードを使って本を借り、読み終わって返却する。
そうして幾人もの手に渡り、ページをめくられ、棚に戻される。
しかし、ここは違うのだ。
ただ、彼、彼女のためだけにあるのだ。
司書なのか責任者なのか、はたまた何者でもないのか。
白い空間の白い棚の中に埋もれた、白い机の上で書き物をしている彼、彼女。
白い項はつらつらとインクで染まり、黒い文字が踊り始める白いページを生産していく。
それが最後のページまで続き、本が書ききれなくなったとき、その本は手を離れ、棚に収まる。
そうやって再び手元に現れた本にインクを垂らしていく彼、彼女。
それがシゴトなのだ、シゴトになってしまったのだ。
ただ、ひたすらに書くことが仕事であり役目であり、使命でもあった。
しかし、ふと手を休めた彼、彼女。
それまで仕事をしていた机に筆を置き、椅子から立ち上がったかと思ったら棚へと近づく。
棚に近づき、一冊の本を手に取る。
無作為に、と言っても背表紙からは違いが見当たらないが、ソレを手に取った彼女は、本を開いた。
あくまで無造作に開いたのだろう本を持ち、そのまま机へと戻った彼、彼女は、席に着き、先ほど置いた筆を手に取る。
そうしてインクを着け、彼、彼女は筆を本に下ろした。
――――こうして、1つの世界で魔物が産まれ、魔法が発現し、人々が剣を携え、大魔王が破壊を尽くし、聖女が祈り、勇者が聖剣を持って旅に出ることとなった。
何を書いたのか、何が書かれたのか、それは彼、彼女にしかわからない。
筆を本から離した彼、彼女はインクが渇いたのを確認し、本を閉じた。
閉じた本を持って棚に収め、また机に座り筆を執る。
来る日も来る日も、いや、ここでは日付なんて無意味だろう。
なにせ、ここは『神の図書館』。
人が想像しえない、ひとつ物語と思われる世界が棚に収められており、ただ、彼、彼女の暇つぶしで世界が変わるところなのだ。
「はぁ、暇が潰せた…」
こうして、神の暇つぶしのためだけに、世界が、人々の運命が、生命の営みがまた一つ、変わった。