episode10~トーク番組~
episode10「トーク番組」
とある日のことだった。男性司会者は男性プロデューサーと部屋で打ち合わせをしていた。
司会者「つまり、今回のゲストはこの女優さんですか」
プロデューサーは苦い顔をして
プロデューサー「それが、ちょっと訳ありでな」
司会者「訳アリ?」
プロデューサー「実はな。ここだけの話だぞ」
司会者「えぇ」
プロデューサーは司会者に顔を近づけ、小言で
プロデューサー「その女優さん。一言も喋んないらしい」
司会者「は?」
司会者は思わず声を上げた。プロデューサーが慌てながら宥める。
司会者「そんな人、なんでこの番組に呼んだんですか。これトーク番組ですよ」
プロデューサー「いや、それがな。その女優さんからの希望なんだよ」
司会者「なんだそれ」
プロデューサー「もうすぐ来るから。上手く頼んだぞ」
プロデューサーが部屋から出ていく。司会者は終始戸惑っていた。
しばらくして、女性マネージャーに連れられ、女優が入ってきた。
マネージャー「よろしくお願いいたします」
プロデューサー「よろしくお願いいたします。奥野さんもよろしくお願いいたします」
女優は笑顔で会釈をしただけだった。司会者は本当に喋んないんだと思いながら、あいさつをした。その後、すぐに収録がスタートした。
スタッフからの合図があり
司会者「重野雄一のトークインジャパン」
会場が拍手で包まれる。
司会者「さぁ、今回のゲストは奥野絵里さんです。よろしくお願いいたします」
女優がまた会釈だけで、何も喋らない。
司会者「どうして、この番組に出てくれたんですか?」
口だけが動いでおり、何を喋っているか分からなかった。
司会者「そういうことですね。本当にご出演ありがとうございます」
無理に切り上げていったが、このまま1時間も続くと思えば、地獄同然だった。
司会者「それでは、奥野さんの芸能界の交流は一体どういうものかを、調べてきましたよ」
また声を発せずに、口だけが動いていた。明らかにそれはありがとうだった。司会者は苦笑いしかできず
司会者「まずは、こちら」
司会者はパネルのシールを剥がす。そこには今の超人気俳優の道上剛の写真が貼っていて、すると
女優「きゃー。剛ー」
司会者は驚いて、椅子から転がり落ちてしまった。すぐに立ち直し
司会者「好きなんですか?」
女優「めっちゃ好きです。もう結婚したいー」
とてつもない笑顔で言う女優に、プロデューサーらは苦笑いしかできず。カンペに早く仕切れと書いてあり、呆れた司会者は
司会者「続いては、道上剛さんからVTRを頂戴しています」
女優は叫び声をあげた。司会者は耳を塞ぎ、ここからの地獄はもっと広がったと確信していた。
司会者「はぁ帰りてぇ」
女優「剛ー」
~終~