冥府魔道の土産物
「あんたを呼んだ理由は、簡単さ。
あんたが、冥府魔道に一回足を踏み入れたおかげであんた自身、現世と冥府魔道の橋渡し的になっちまったということさ。」
誠には、千鶴のこのひとことがわかるようでわからない。
なんで死にかけた奴がそんな力を持ってしまうんだろうか。
そもそも、死にかけた人間はみんなこんな風になるんだろうか。
「安心しな。
あんたのは希も稀、超レア、スーパーレアだ。
大体、冥府魔道を簡単に行き来できたら、現世とのバランスはもう酷いものよ。」
こちらの考えがわかったのだろうか、千鶴は答える。
ただ、誠は一つ疑問があった。
冥府魔道の道が開かれたらどうなるんだろう。
何か困るのだろうか。
いや、あの禍々しい空気が流れてくるのか。
それは、困る。
寒気がたまらない。
「それだけではないぞ。」
千鶴は、本当に自分の考えがわかるのだろうか。
誠はまじまじと千鶴を見る。
千鶴は、それを知ったか知らぬか話を続ける。
「冥府魔道には、悪鬼羅刹がいる。
お前達には鬼と言った方がわかりやすいかの?
冥府魔道は生きるだけで辛い場所よ。
そんなときに、現世という極楽があれば、そりゃあ行きたがるわな。」
鬼も逃げる冥府魔道。
誠は少し恐怖を感じた。
「さっきも言ったけど、あんたは一度死にかけた。
なんの因果かわからないが、あんたは、冥府魔道の行き方を覚えたまま戻って来てしまったんだ。
しかも、その力はあんたが、ドアを開けようとすると発揮されるみたいだね。
すなわち、あんたがドアを開こうとすると、冥府魔道の扉が開いてしまうのさ。」
千鶴がカステラに手を伸ばす。
誠はカステラをさらに遠ざけて、
「それは大変ですね。」
と言う。
「おい、誠とやら。
わらわが、お前の開けた扉を影で閉めていたのを知らぬのか!
冥府魔道の悪鬼羅刹は、現世の人間を不幸にする。
お主が知らぬとはいえ、わらわがそれをふせいでやったのだ!
もちろん、わらわだけでは面倒く…、いやいや限界がある!
だから、わらわがお主にその術を教えてやろうというのだ!」
なるほど、千鶴の目的はそうだったのか。
だから、自分を呼び、自分に何が起こっているか教えてくれたのだ。
おそらく、いちいち冥府魔道の扉を塞ぐのが面倒くさいのも本音だろう。
しかし、誠は不安があった。
自分が無意識で開けたとはいえ、その悪鬼羅刹が現世に出てきて悪さをしていないのだろうか。
そして、千鶴はその扉を塞ぐ術を教えてくれるというのだが、自分にそれが出来るのだろうか。
不安でいっぱいの誠ではあるが、千鶴はそのことよりも何かを訴えたいようである。
千鶴は何を自分にまだ言いたいことがあるのか?
誠が、思わず前のめりになった時、千鶴はこう言った。
「だから…、カステラを…、カステラをわらわに…。」
誠はカステラを千鶴に渡した。