神との対面
犬が喋った!?
この状況、多くの人ならそうやって慌てふためくところなのだろうが、生憎俺達はもうその程度では驚かなくなっていた。
仮にここで背後にいたのが女神であったならば、最近流行りの異世界召喚の可能性もあったのだろうが、犬だから考える必要はないだろう。
「おい、もしかしてあれがお前の言ってたデスサイズだったりするか…?」
隣にいる夏凪に、小声でそう問い掛けた。
「はぁ?あんたあれがデスサイズに見えるとかどういう目してるわけ?」
「いや知らねぇよ。お前の犬とか見たことねぇし。一応訊いてみただけだっての。」
どうやら、こいつは夏凪の家で飼っているデスサイズとやらではないらしい。
だからどうだという話でもないのだが、興味本意で尋ねてみただけだ。
ていうかまた口調が元に戻ってるし。ほんと気を抜くと直ぐこれだもんな…。
そして、そんな俺達のやり取りなど意にも介さず、目の前の犬は続ける。
「ふむ…。日本人は犬派の人間が多い印象だったのだけど、僕の検討違いだったかな…?」
そして、ドロンという音と共に猫の姿へと形を変えた。
これには、俺も夏凪も少し驚いた。しかしどう反応すればいいのか分からずに呆気に取られていると、その反応が不服だったのか、目の前の猫はあからさまに不機嫌そうな表示になる。
「まったく…。君達二人とも犬派でも猫派でもないとはとんだ変わり者だね。大抵の日本人ならば、犬か猫どちらかの姿になれば好意を寄せてくるとうのに。それに昨日から出番を見計らっていたというのに、君達ときたら喧嘩ばかり。漸く仲直りしたと思ったらこれだもんなぁ。」
勝手に話を進める猫。
待ってくれ。夏凪のことは知らないが、俺はどちらかといえば犬派だ。
そう言い返そうとした矢先、隣で黙っていた夏凪が声を挙げた。
「ずっと待ってた…?なら、今回の件の関係者っていう認識でいいのかしら?そこの、えーと…子猫さん…?」
確かに俺もその点は気になっていた部分だ。
待ってたということは、昨日から俺達の様子を観察していたということ。口振りから察しても、今回の騒動に関わっていると見てほぼ間違いなさそうだ。
夏凪に続いて、目の前の猫に俺も問い掛ける。
「なぁ、今何が起こってるんだ?その原因は?消された人達は無事なのか?そもそもお前は何者なんだ?」
目の前の奴が全ての元凶かもしれないと思い、つい熱くなってしまう。
「まぁまぁ、落ち着いて。そんなに矢継ぎ早に質問されても答えられるはずないでしょ。順を追って説明するからよく聞いてね。」
こんな状況下で落ち着けるわけないだろ!
それに俺達とは裏腹に、平然とした態度を取っているのが余計に腹が立つ。
怒りを露にしたかったが、話が進まなそうなのでその気持ちをぐっと飲み込んだ。
「先ず最初に、そちらのお嬢さん質問から答えようか。うん、そうだね。関係者っていうよりも、僕はこの現象を創り出した張本人と言った方がいいかもしれないね。」
あっさりと肯定した。
大方予想はしていたものの、こうも簡単に認められてると逆に疑ってみたくなってしまう。
「そして、君の質問についてだね。人間は動物達の恨みを買った。だから僕が世界から人類と呼ばれる種族を深い眠りに就かせ、天界に封印したのさ。だから、殺した訳じゃない。ちゃんと命の保証はするよ。あ、それと僕が何者かについてだけど、僕は動物の神様なんだ。だからあらゆる動物の姿に変化出来る。最初に君達の前に犬として現れたのは、単純に日本人のペットとして犬が人気だっからってだけだよ。因みに名前はないから君達で考えて自由に呼んでもらって全然構わないよ。これで大体分かったかな…?」
分かるわけがない…。
いや、文章自体は要点を簡潔にまとめた素晴らしいものだったと思う。そこは否定しない。
けれど、今の説明だけで事態を呑み込める程、俺は利口な人間じゃない。
そんなことを考えていると、夏凪が口を開く。
「えっと…要は私達人間が動物達の恨みを買ったのがこの現象の原因ってことでいいのよね…?その恨みってのは一体何なわけ?」
「それは君達人類が動物達にしてきた仕打ちを考えると直ぐに分かるはずだよ。僕から教えることも出来るけど、自分達で気付いた方がいいからね。」
暫く考えたが答えが出なかったのだろう。夏凪はこう切り返した。
「ごめん、ギブアップ。そもそも私は動物好きだし、ペットだって大切にしてる。恨まれる筋合いなんてないと思うんだけど。」
俺も考えてみたが、思い当たる節はなかった。
その返答に、動物の神様とやらは落胆した表情を見せた。
まるで、そんなことも分からないのかと俺達に呆れいるかの様だった。
「分かった。僕から回答を教えるよ。でもその前に、僕の呼び名を決めてもらえないかな。これからもずっと動物の神様と呼び続けるのは流石に辛いだろうからね。ついでに、君達の名前も教えてくれると嬉しいな。」
「あ…あぁ…えっと、俺は海人。そしてこいつが俺の幼馴染みの夏凪だ。」
「ちょっと!何でこいつ呼ばわり!?それに私の名前なんだから私に名乗らせなさいよ!」
「痛!ごめんってつい…。」
隣のお嬢さんにつねられてしまった。
これ以上事態をややこしくしないで頂きたい。
「それと、呼び名なんだけど、ウイングでいいか?」
「えー!もしかしてあんたも中二病なの?気持ち悪!普通にポチとかでいいじゃない。」
「いや、デスサイズから連想してパッと出てきたのがウイングだったから…。それに急に呼び名を決めろって言われても直ぐに浮かぶわけないだろ?」
口が滑っても、昔拗らせてましたとは言えない。
それに、サンドロックやヘビーアームズなんかより全然呼び易くていいと思う。あ、トールギスもありかも!
なんてことを考えてると、横で笑い声が聴こえて、フッと我に返った。
「いやー、面白いね君達は。昨日はあんなに喧嘩してたのに、今はまるで子供の名前を決める夫婦みたいじゃないか。まったく…仲が良いのか悪いのか全然分からないよ。」
夫婦なんて言ったら夏凪が激怒しそうなものだが、何故か夏凪は顔を真っ赤にして俺から距離を置いた。よく分からん奴だ。
「まぁでもポチはちょっと面白みがなさすぎて嫌かな。だから海人の出したウイングの方で呼んでもらうことにするよ。意味は分からないけど何か格好いいからいいかな。」
え…何か知らないけど決定しちゃったよ。
これからホントにウイングって呼ぶの…?
自分で提案しといてだけど適当だから超恥ずかしいんだけど。
「はぁ…。決まったならしょうがないわね。じゃあ、宜しくね、ウイング。」
何故か夏凪まで納得してるし。
もうわけわかんねぇよ…。
「じゃあ、呼び方も決まったところでいよいよ話すね。この現象の全てについて。」
その言葉を聞いて、俺も夏凪もより一層顔を引き締めた。
一体、人類は何をして動物達の恨みを買てしまったのか。
その真相が、今語られる―――――――――――。