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暗黒の世界

 牢獄から出されたのはシーロとノグチの二人であった。意外そうに互いを見合うと、急かすように看守に押され、進むことを余儀なくされた。

 連れられたのは、まるで貴族が住まうような広い部屋であった。その奥に、一人の女がこちらを見つめていた。領主、タマミであった。


 遠目でもわかる、大した美貌であったがその表情は不敵な笑みを浮かべていた。しかし、ノグチを見つけると困惑したような表情に変わった。


「ねぇ、今日二番室に入れた男を連れて来てって言ったんだけど、そのおっさんは何?」


「はっ。どちらも今日二番室に投獄した男であります。こいつは屋敷の外を怪しげな格好で歩いていたので投獄しておりました」


「いや、シーロ君だけ呼んだんだけど。なにその気持ち悪いおっさん、さっさと戻して」


「かしこま────」


「待ってください。あなたも、日本人なのでしょう!」


 押し退けて前へ出たノグチの言葉に、タマミは反応した。それは動揺ではなく、驚愕、そして明らかな敵意だった。


「へぇー、あんたも転移者ってわけ。それにしてもヒドイ格好。ってかあんたも何か力を手に入れたってことよね。なに、それで私の座を奪おうってとこ?」


「この格好のことは……。ともかく、こんなことはもうやめるんだ、こんな横暴なやり方は!」


「黙りなさいよ。転移者がこの世界で好き勝手するなんて、もう普通のことでしょ!」


「ふ、普通だって……?」


 こんなことが普通であってたまるものか、そう言わんばかりにノグチは眉をしかめた。隣のシーロがため息混じりにノグチへと口を開いた。


「彼女のように、この世界で馴染みのない名前、服、話し方、そして力を備えた人々がこの世界には点在している。彼らは力を行使して各々の気の赴くまま、各地をめちゃくちゃにしてしまう」


「なん、だって……」


 シーロの諦めたような表情に事態の深刻さが(うかが)い知れた。突如、ノキアライズの言葉が脳裏に蘇る。


"そこは君のように何がしかの理由で転移した者が集まる暗黒の世界"


「そういう、ことか」


「ハイ、納得してくれたところで私とシーロ君だけ部屋に残して、どっか行ってよね」


「どうして俺だけが! 俺も牢へ戻したら良いだろう!」


 タマミは口を歪ませて笑った。


「結構イケメンよねぇ。武闘会の時から狙ってはいたけど、ちょっと好き勝手させてほしくて」


 看守が強引にシーロを引っ張ると、「何をする! やめろ!」とシーロはしつこく暴れまわった。同時にノグチも部屋の外へと手を引かれた。タマミがおもむろに取り出したのは長い鞭であった。タマミの嗜虐的な笑みから、ノグチはシーロの行く末が容易に想像できた。


 ノグチは涙目になり、歯を食いしばる。無力感、それだけが全身を覆い尽くした。

 その時、腰にあるステッキが柔らかく光り出した。


 刹那────悟った。

 それはまるで、箸の使い方、自転車の漕ぎ方、歯の磨き方のように、気がついた時には力の使い方が体に染みついていた。大次郎は、短く息を吐き、タマミへと視線を向けた。


「審判の力。もし本当にあるなら、今がその使いどころだよ」

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