不条理な
気づけば大次郎は光に包まれていた。いつか見たような水色と桃色の、生まれてから見たこともない優しい光であった。
『君の素養を、私の世界で生かし給え』
「素養? あなたは一体……」
『私は色彩の神が一柱。淡色のノキアライズ。君の世界ではどうやら、"ゆめかわ"と称される、色合いや空気感を司る神ということだ』
「ゆめかわ神……?」
『その呼称でも構わない。君は私の世界で、これから与える力を行使せよ』
「世界? 世界って僕のいた世界ではないのですか」
『そこは君のように何がしかの理由で転移した者が集まる暗黒の世界』
大次郎はひどく動揺した。神に力を与えられ、新たな世界へ行くなどという荒唐無稽な話を信じられようはずもない。
だが、どうやら信じるか信じないかは関係ないようであった。大次郎の体に、まるで魔法少女のような、フリル付きの淡いピンクをベースとした洋服が手足に貼りついてきた。
ゆめかわ神ノキアライズがサイズという概念を知らないのか、はたまた人選を違えたのかは分からないが、成人男性の体にとっては目に見えて小さい服を、大次郎は装着していた。
あまりに滑稽な我が身の姿に、大次郎は絶句した。
「こ、これはどういう────」
『その身に合わずとも、これは我がしもべとなる者の正装なのだ。その姿でなければ、審判の力を引き出すことはできない』
「だとしてもこれはさすがに」
大次郎は自らの体をまじまじと見下ろした。丸々とした腹は服からはみ出ており、毛むくじゃらの腕と脚はむき出しの状態であった。
少女が好んで魔法少女の真似事をする際の洋服を、何を間違えたのかむさ苦しい中年が無理やり着てしまった、そんな姿であった。そして極めつけと言わんばかりに、腰には先端に黄色い星がついた愛らしいステッキが携えられていたのである。
『審判の力は強力。それ故、心して扱うことだ。この力に酔わず惑わされず、君が求める世界を実現するが良い』
「審判の力……。一体どんな力なのでしょう」
『一言で表現でき得る言葉が存在しないが、敢えて平易に表現するのであれば、"不条理を、理不尽に審判する力"』
「この状況こそが一番の不条理のような……」
大次郎の呟きが聞こえていないのか、ノキアライズは『では、然るべき時まで』と言い残すと、再び周囲が光り輝き始めた。その閃光とも言える輝きを一身に浴びていると、次第に大次郎の意識は薄れていった。