ルビウスの洞窟
二人はリーンの村の温かい見送りに後ろ髪を引かれつつ、王都グレンゼルへと出立した。
大次郎の想像を超えるほどに、シーロは有能であった。道中、自分のいた世界には存在しない怪物らと出くわすが、それらをいとも簡単に撃破してしまい、夜間帯には昼間に倒した怪物らを器用に調理してみせ、就寝後も幾度か目を覚ましては焚き火を途切れさせることなく木を焚べ続けていた。
お陰で慣れない旅も、ある程度快適に進めることができたと言えよう。ほとんどがシーロの活躍によるものである。
そんな中、二人はとある洞窟の入り口を目の前にして立ち尽くしていた。
「ルビウスの洞窟だ」
「お、王都までに洞窟を通らないと行けないのかい……?」
「商人らはこんな洞窟通らずに回り道をするのだが、二人であればこの道を通る者も多い。回り道だけで一日は早く着ける」
一日は大きいなと納得するも、今までの人生で洞窟に潜り込んだこともない、まして怪物らが闊歩するような世界で、暗がりに入る気にはなれなかった。
「モンスターが怖いのか。心配することはない、人を喰い殺せる強いモンスターはこの辺りにはいない。最悪でも指を失う程度だ」
「ゆ、指……」
大次郎は生唾を飲み込む。
審判の力は、どの怪物にも発動しなかった。そこに悪意がないからか、人ではないからか、転移者ではないからか、原因は不明であった。
その力以外、ただの中年男性のそれである大次郎にとって、命のやり取りほど怖いものはなかった。
大次郎が足踏みをしていると、洞窟の中から女性の悲鳴が響き渡って聞こえてきた。二人は咄嗟に顔を見合わせる。
「今のは!」
「助けにいかなきゃ……!」
大次郎は真っ先に洞窟の中へと飛び込んだ。その背後からシーロが手際よく松明で道を照らした。
暗がりの中をひたすらに走り抜けると、拓けた空間へと飛び出した。
「た、助けて!」
村人だろうか、旅の荷物すらない若い女性が小さい悪魔────まるでゴブリンのようなモンスターに囲まれていた。
背後からシーロが駆け出し、こちらに背を向けていたゴブリンの首筋へ剣を突き刺した。血飛沫が暗闇に飛び散らかる。
続けざまにその両横にいたゴブリンらの両足を横一文字に斬りつけ地に転ばせた。ゴブリンらの咆哮や痛みに悶える声が洞窟内に轟く。
残りのゴブリンは三体。女性の奥に二体、離れたところにいるゴブリンが一体。こちらへと鋭い牙を剥きながら威嚇した。