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第2話

MBSラジオドラマ短編小説賞用に書きました。僭越ながら、語り部は諏訪部順一さん、相方に内田彩さんの声を脳内変換してお楽しみください(笑)。


 003


 意気投合をしたという事ではない。

 我ながらお人好しが過ぎる気もするが、それだけでもない。

 隣で目を輝かせて見上げてくる見た目は少女の正体を見つけていくのも楽しいなと思っただけだ。

 完全に信用したというわけではなく、詐病ならそれを暴くのも一興だ。

 そんな軽い気持ちでヒイラギの依頼を引き受けた。


 どうせ慌てて狩をして金を稼ぐ必要もなくなったしな。


「1時には寝たいから付き合えても後3時間だ、とっとと思い出してくれ」

「はあ、タケルさんは何処かにお勤めの方なのですか?」

「そういうプライベートな事を他の奴には聞くんじゃないぞ」


 ゲーム内でリアル情報の暴露なんて冗談じゃない。

 警戒心が一気に跳ね上がる。


「お前も記憶が戻ってもぺらぺら話すなよ……というか何故会社勤めだって思ったんだ?」

「あれ? そうですね、なぜかと問われますと困りますが、時間の気に仕方でしょうか?」


 天然の誘導尋問に近いものがあるな。

 確かに学生に比べると社会人になってからは時間コントロールは必須ではあるが。

 いや、それはつまり逆の見方も出来るということだ。


「ヒイラギ、お前は会社勤め……社会人かもしれないな」

「バリバリのキャリアウーマンだったと推測しますね!」


 つまり願望を差し引くと、学生ではないかもしれないが平凡な社会人だったと。


「まあいい。少し街を歩くぞ。街を見て、何か思い出したらでいい、なんでも言ってくれ」

「かしこまりー」


 なんだそのチャラけた返事は。


「見た目はともかく成人女性の社会人(仮)がする返事か? 歳を考えろ」

「タケルさんは見かけ通りにお堅いのですね」


 思わず自分のアバターを思い出す。パリッとしたスーツ姿だ。

 くそったれ。思い出したくもない事を。

 同時にヒイラギの格好を見て違和感を抱く。

 見覚えのあるプレイヤーの初期アバターだ。

 柄もない何の変哲もないシャツにスカート。

 もちろん、ゲーム初心者の装備を着続けている物好きもいるが。

 普通に考えればゲームを始めて日の浅いプレイヤーを示している。


「ヒイラギ、お前のステータス、聞いていいか?」

「申し訳ありませんタケルさん、そういったプライベートな質問にはお答えできない仕様です」


 澄まし顔のヒイラギは俺の視線に気付いたのかにへらと笑う。


「冗談ですよ、でも、私の社会的地位を聞いてどうするんですか? 聞かれても覚えていないのでお答えできないのが非常に残念ではありますけど」

「お前の社会的地位とやらには興味はない、ステータスだ、ステータス」

「はあ?」


 ふざけてるのかと思ったが本気で困惑している様子から察する。

 こいつ、間違いなくゲーム初心者だ。

 それも、このゲームではなく、ゲーム自体の経験があまりない初心者だ。

 共通言語が通じないというのはやりにくいな。


「ステータスというのはな、お前の能力や状態、レベルや経験値を数値化されたものだ」

「け、経験ですか!」


 なぜ顔を赤くする?


「それはその……まだ……のような気がします、はい、いえいえ忘れているだけかもしれませんので、もうすでに経験済みかもしれませんが、お答えは控えさせていただきます。ところでセクハラの通報をしたいのですが、スマホをお持ちでしたらお貸ししていただけないでしょうか?」


 何の経験の話をしてるんだよ!


「私の情緒を揺さぶって記憶を掘り起こすという算段だという事は理解しておりますが、乙女にそのような事を聞くのはいかがなものでしょうか?」


 その情報からお前の失われた何の記憶を手繰り寄せることができるのか説明してくれ。

 落ち着きのない態度から経験はなさそうだというのは何となく理解できたが。

 知ってもそこからどうこうと広げられる話ではない。


「そうじゃなくてだな、いいか、視界の右下辺りに白い 》 のマークが見えてるだろ? それを指で押してみろ」

「はあ、これですか。飛蚊症かと思っていました、あー何か数字が出てまいりました」

「レベルの後に続く数字は?」

「1ですね」


 予想以上にレベルは低いが概ね思ったとおりだ。


「EXPの後の数字は?」

「0ですね」


 なんだと? 経験値0。つまり今日ゲームを始めたという事か?


「ヒイラギ、お前、今日から始めたのか?」

「はい? なんのことだかさっぱりですが、記憶がありませんのでお答えできません」


 そうだった。

 たとえ今日から始めたのだとしても記憶喪失のヒイラギには判断が出来ない。

 いやいや。街から出ずに戦闘を避け、クエストもこなさなければ経験値は0のままだ。

 フルダイブ型VRの戦闘に馴染めずチャット感覚で駄弁るだけの連中もいるんだから一概にレベルが低いイコールゲーム暦が浅いとは決め付けられない。


「こんなものが見られるとは便利な世の中になったものです。私が記憶喪失になっている間にここまで科学技術は進歩しましたか。ところでタケルさん、このレベルと経験値というのは何を示すものなのでしょうか? レベル1で経験値が0――」


 これは、忘れているというより知らないと考えるべきだな。

 俺が口を開きかけた途端ヒイラギは顔を真っ赤にさせる。

 両手を前に出してこれ以上近づくなのゼスチャーだ。


「いいです! 答えなくていいです! むしろ答えないでください! 一言でもしゃべったら訴えますよ!」


 何かエロい方に誤解をしているのは見て取れたが、おそらく記憶を取り戻す事とは関係ないから放置しよう。

 通報されるのも訴訟を起こされるのも御免だからな。

 この先、戦闘を経験して増えた経験値を見て愕然としてくれ。

 想像すると笑えてくるが勿論顔には出さなかった。


 004


「今、この世界に残っているのはこの街だけだ」


 VRMMOゲーム、名前なんてどうでもいい。

 巷には似たような名前の似たようなゲームがゴロゴロと転がっているんだからな。

 この世界の設定は、取り残された最後の街に迫る魔物を倒し領土を回復していくのが目的だ。

 街には八ヵ所の出口があり、街から離れるほど魔物は強くなる。

 勿論出口によって魔物の種類も強さも異なる仕様だ。

 最果てには時間沸きのボスがいる。


 人間に残された最後の街は現代社会の最後の砦だ。

 上空から見れば、一つの都市が深い森の中にぽつんと浮かび上がっている。

 時代は現代。中世とか近未来なんかではない。

 そこにリアリティを求めたような設定なのだ。


「あの、タケルさん。何か辛い事があったのでしょうか? 記憶喪失の私が言うのもなんですが、嫌なことは忘れて元気を出してください」


 どうしてこいつは俺を温かな慈しむ顔で見てやがるんだ?


「……ヒイラギ、お前がこの世界がどうなったのか知りたいというから話したんだ」

「確かに世界はよく出来たVRゲームだと思う事で社蓄人生を忘れたいという気持ちは理解できます。ですけど逃げてはいけないと思うんです!」


 いや俺は社蓄と呼ばれるほどにブラックな会社に扱き使われて病んではいない。


「だから何度も言っているが、この世界は、正真正銘、ゲームなんだよ!」

「ええ、わかっています。ええ。あ、こんな小さな体で申し訳ないですが、抱きしめてもいいですか?」


 なんだ?

 どうして圧倒的に正しい事を説明する俺の方が中二病を患った痛い奴みたいな扱いなんだ?

 くそ。こいつを門から蹴飛ばしたい。魔物の群れを見せてやりたい。

 いっそ一度死んで復活する事を体験させてやりたい。

 そうすればここがゲームの中だと嫌でも理解できるだろう。

 どうして街中での戦闘行為によるダメージは入らないんだ、面倒だな。


「さあ、どうぞ」


 両手を広げているヒイラギに肩を竦める。

 見た目は中学生だけど何処か姉のような母のような匂いがして不思議と落ち着いた。

 大切な事を忘れていた。

 俺の目的だ。

 俺はこのバカの記憶を取り戻す手助けをしているんだ、ここがVRMMOの中であるか現実世界であるかというのは後でいい。


「ヒイラギ、お前、子供の世話に手馴れているみたいだけど子持ちか?」


 現実時間で午後11時という所だ。

 年齢にもよるがこの時間にネトゲにログインしている母親とかいて欲しくはないな。

 同じ理由で旦那さんがいても気の毒だが。

 フルダイブ環境だ。ベッドやソファで意識のない状態だから、ちょっと中断してもらって声を掛けるという気軽さはない。


「いえ、子供はいない……ような気がします」


 弟や妹の面倒を見る姉というポジションかもしれないな。


「結婚していないのか?」


 くそ。ちくちくと胸が痛みやがる。


「結婚……結婚……そのワードで何やら頭痛が酷くなりました」


 忘れていたが、そもそも子供が出来るような経験がないんだったな。すまんすまん。

 だが結婚という言葉に何かひっかかりはあるらしい。

 これは初めての反応だ。

 攻め所かもしれないがあまり話題にしたくないのは俺も同じだ。

 ヒイラギは何か考え込むように顎に手を当てていた。


「んー思い出せません。というかですね、タケルさん、私はあまり察しが良いほうではないので単刀直入に聞きますが、それはプロポーズなのでしょうか?」

「……どうして俺がお前にプロポーズをする必要がある?」

「レディに向かって子供はいないか結婚はしていないかと確認するからです」


 そんな迂遠なプロポーズがあるかよ。

 仕方がないですねぇ、ふふんと流し目をしてきているが見た目は中学生だ。

 色気というものが圧倒的に足りていない。

 例え中身が成熟していたとしても人は見た目がすべてなんだな。

 変なところで勉強になる。


「まあ、タケルさんは私の好みの男性のようですから、記憶が戻ったら特別に結婚してあげてもいいですよ?」


 そんだそのフラグは。

 一生記憶は戻らないとでも言いたいのか?

 記憶もない状態で何を勝手に結婚相手を決めてるんだ無責任な。

 第一この見た目はアバターだ。

 限りなく現実に近いが作り物だ。

 好みも糞もあるか。

 失われた記憶の一端を紐解く情報だとしても、男の好みなんぞ参考になるかよ。


「タケルさんこそ、ご結婚はされていないのですか?」

「独身だ」

「おや? では婚約者さんがいらっしゃる?」

「……いないぞ、そんなものは」


 こいつ。俺の傷を抉りやがって。


「おかしいですね」

「なにがおかしい?」

「なにがおかしいんでしょう?」

「お前、喧嘩うってんのか?」

「いえいえ滅相もございませんよ。喪失したわたしの輝かしいメモリーの部分に今一瞬光が照らされたような気がしたのです」


 どうして見も知らないお前の記憶が俺の結婚とか婚約者に反応するんだよ。


「恋人は、いかがですか?」

「いない……というか俺の話はいいだろう?」


 ついつい乗せられて迂闊にもリアル情報を口にしてしまった。

 その内高い壷とか絵画とか売りつけてくるんじゃないだろうな。


「タケルさん、正直に答えてください」


 真剣な表情でヒイラギが顔を寄せる。


「タケルさんと私は本当に初対面なのでしょうか?」


 何を言ってるんだこいつは。

 初対面に決まってるだろう。

 カーソルを合わせても、ヒイラギには名前以外の情報は映らない。

 どこかのチームに入っていれば、所属チームの名前が表示される。

 メニューを開いてフレンドリストを眺めてもヒイラギなんて名前はない。

 見た目であるアバターは多少弄れても、一度設定した名前は途中で変更は不可能だ。


「今日初めてお会いした時も感じたのですが、私はどうもあなたを知っているんですよ」

「俺は、初対面だと思うが」

「いくらお世話になっているからと言って初対面の男性からのプロポーズを受けてしまう、そんな女子がいるでしょうか?」


 反射行動だというのか?

 いやいや待て待て、どうして俺がまるで忘れているみたいな展開になっているんだ。

 足元が今にも崩れて暗闇に飲み込まれてしまいそうな不安に襲われるんだ。


 いや、そんなことよりだ。


「俺はお前にプロポーズをした覚えはないんだが?」

「すいません、私、記憶喪失なので、そのあたりがうろ覚えなんですけど。いつ頃の出来事でしたっけ?」

「たった今、ついさっきの話だ!」


 こいつの健忘は短期記憶領域にも巣食ってんのか?


「記憶喪失はともかく、その記憶捏造はなんとかしてくれ」


 ヒイラギは腕を組むと首を傾げる。


「どうでしょう、タケルさん。この私に妙案があるのですが」


 ろくでもない案の事は妙案とは言わないんだぞ、わかってんのかこいつは。


「私の記憶を取り戻すために、私と結婚してみませんか?」

「するか、バカ」


 ヒイラギは拗ねたように盛大に唇を尖らせていた。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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