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強がりにLOVE ME

作者: 浅色

 今日は冬休み。

 いいえ、むしろ1週間前から冬休み。

 今日は大晦日であり、年末で最も忙しく、最も暇な日。

 家の掃除をしたり、豪勢な食事を作ったり、今年最後の安売りに出かけたり。

 他にも友達と騒いだり、初詣のためにかわいい着物を見繕ったり。

 だというのに。

「おい、聞いてるのか近藤!」

 何であたしが補習なんて受けなきゃならんのだ!

「きいてませーん」

「ふざけるな!」

 怒鳴られてもたいしたことはない。いつものコミュニケーションなのだから。

 顔から湯気でも出そうなくらい怒ってるやつが、担任のタチバナ。

 なんでも東大を主席で卒業した超エリートで、金持ちのボンボンらしい。

 休み時間の廊下でそう僻んでるハゲオヤジ達の話を小耳に挟んだのだからきっと間違いない。

 やつらのヒガミはねちっこい。老体から出る脂みたいに。

 そのねちっこさは正しい情報ゆえのヒガミだと、あたしは知っている。

 一通り吐き出してようやく落ち着いたらしいタチバナが補習を再開する。

「ったく、いいか?5962を44で割ったら135.5になる。この".5"が割り切れなかったいわゆるあまりというやつだ」

 今、小学3,4年生の算数の授業を受けている。

 なぜ受験前の高校三年のあたしがこんなことしてるかというと、根本的に出席日数が足りなかったからだ。

 授業日数が足りないのなら普通は高校3年レベルの授業をするはずだとお考えのあなた!

 それは大きな過ちに足を突っ込みかけてると何故気づかない!いや、あたしは何を言ってるんだ。

 元々、この学校には勉学特待生として来たあたし。

 自慢じゃないが、成績はどれもトップ。

 もちろん今だって学年では一番をキープ。

 授業の間違いだって指摘する、なんて才女なのかしら!オホホホホ。

「気持ち悪い顔で教科書をまじまじと見つめるな。怖いぞ」

 黒板にかじりついていたタチバナに怒られた。

 てか花の乙女に向かってなんて口を…。いずれあの減らず口を半返し縫いで縫ってやる。ついでにしつけ糸もしてやるから感謝しろ。

 まったく。

 ぶっちゃけ東大も楽に受かるって言われたけど、そんなお金無いし。

 この学校で一番の貧乏だからな!えっへん。

 あぁそうだ、一つ手があった。

「せんせー」

「何だ近藤?」

 ここでやや上目遣いでアピール。

 潤んだ瞳とやや谷間を見せればイチコロだと本には書いてあったけど、そこまでは恥ずかしくて出来ない。

「なんでこんなに一生懸命補習してくれるんですかぁ?」

 はぁ、と非常に分かりやすいため息をつくタチバナさん。

「それはな、お前の出席日数が150日も足りないからだ!」

「でもぉーそんな不良生徒ほっとけばいいじゃないですかぁー。今日は大晦日ですよぉ?」

 普段使わない媚び語を使うと疲れる、そろそろ限界に来そうです。助けて!アンパンニャン!

「俺もな、帰りたいのは山々なんだ。でもな、お前ももう18だ。大人の世界の厳しさってのも分かるだろう?」

 同情を誘おうと渋い顔をしてあたしの肩に手を付く。

 チャンスだ!

「きゃっ!」

「あ、あぁすまん」

 オーバーリアクションで身体を引き離すあたし。うまいぞ。

 もじもじしながらゆっくりタチバナの顔を見上げる。

「お、おい」

 うろたえたタチバナが見える。

 うんうん、よく見ると中々イケメンではないか。新任のフレッシュマンだし。

「あ、あのぉ」

「な、なんだ」

 数秒間を空ける。じらすあたしもなかなかイケてるんじゃね?

「せんせぇ、あたしのこと好き、なんですか?」

 決まった!心の中でガッツポーズをとる。

 これでもう補習なんてしなくて済む、はずが。

「冗談はそれくらいにして、次のページひらけ、な?」

 なんてさわやかな笑顔。逆にむかつく。

 机に手をついて立ち上がったらダン、と音を立てた。意外と強く叩いてしまったようだ。

「えー!だって普通ありえないじゃないですか!こんなにかわいくて美人で頭脳明晰で気立ても良くて人望も厚くて、けれど貧乏で恵まれない少女を見ていて良心が痛んだ新任教師が恋に落ちて救いの手を差し伸べる!とかありありじゃん?」

「自分で言うな、自分で!」

 鼻から湯気でも出そうなくらい力説してしまった。

「そもそも授業してやってるのは教と……、お偉いさんから頼まれてだな、類稀な頭脳をこのまま埋めておくには惜しいといわれて渋々付き合ってやってんだよ」

 渋々、付き合ってやってんだ、なんだその亭主関白さ加減は。

「はぁ?教頭の犬かあんたは!教頭がパンツ脱げっていたら喜んで脱ぐのか?!」

「なわけあるかぁ!第一教頭とはいってないだろう教頭とは」

「言いかけて止めたことくらいお見通しなんだよ!!誰に向かって口利いてんのかわかってんのか!!」

「担任が生徒を教育するのは当然だろうが!!そもそも俺はお前のことを思ってだな」

「教育だぁ?!あたしの事思ってだぁ?!」

 とまるでレディースみたいに巻き舌でしゃべっていたが、そこまで言って気づくあたし。

「そうだ、お前のことを考えて」

「タチバナ先生!」

 そうだ!これはどう考えてもアレしかないじゃないか。

「な、なんだ」

 突然名前を叫んだのは効果があったらしい。

 あたしは彼の気持ちに応えなくてはならない。

「あたしの玉の輿になれ!!」

 ネクタイをぐいっと引っ張って顔の近くで言う。

 金持ち、イケメン、新任、ウブ、そしてアタシの奴隷。

 あたしに天使が舞い降りてきた!

「は?」

「いやだから、あたしの事そんなに好きだなんて思ってなかったから、その、ついヒドイこと言っちゃって」

「いやまてまて」

 あたしのハートは待てない蒸気機関。

 列車は急には止まれない〜♪

「ごめんね?良い奥さんになるから!子供はサッカーチームが出来るくらいほしい、カナ」

 なぜか視界が揺れた。

 叩かれたのだ!頬を!平手だけど!

「なにすんのよ!この奴隷!」

「誰が奴隷だアホ!俺は好きとも結婚するとも一言も」

 なんだ、ただの照れ屋か。

「あたしがシャイな心を察してあげたんじゃないか」

「あほかぁぁあああ!」

 とそこで、ガラガラガラと教室のドアが開く。

 学校には二人っきりのはずなのにと思って振り向くと、クラスメイトで一番仲が良い美保が立っていた。

 からーん、と音を立ててテニスのラケットが落ちる。

「先生の甲斐性なしいいぃぃぃ!!」

 涙声で廊下を叫んで走っていった美保。

 彼女もこのタチバナが好きだったようだ。

 まぁあたしの旦那だが。

 ネクタイをひっつかんでるあたし。

 制服のリボンを捕まえてるタチバナ。

 しばし沈黙のまま美保が去っていった場所を見つめていた。

「今日は、もう帰っていいぞ」

 少し元気の無い感じでそう話すタチバナ。



 それから3年後、見事あたしはゴールイン。

 もちろん旦那はかつての担任タチバナ。

 あの後、始業式の日に「新任教師、女学生を淫行」というとんでも誤解されたニュースが全国報道された。

 タチバナはもちろんのこと、あたしも誤解を解くのに必死になって、何より母親の誤解を解くのが一番苦労した。

 あたしに負けず劣らず思い込みの激しい母親。

 父親は、ニュースが広まったその日に「幸せになれよ」と、肩を叩かれ激励された。

 そして初めての共同作業で誤解をといたあたしたちは、次第に心惹かれあったのだ!


「合言葉は、あたしの玉の輿になれ!」

ノリだけでノリの良いやつ書きたくなって。

ついやってしまいました。

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