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錬金術師の弟子(仮)  作者: ごに.
2/2

───Prologue 2

仮記入です。後で手直しします。


 彼女の名前は、アンナ・ワトソン。ここ───ホームで、子供たちの面倒を見るシスターをしていると言う。

 ホームとは、戦争や病気などで親を亡くした子供たちが、12歳になるまで共同生活をする施設だ。読み書きや家事、基本的な計算やマナーに至るまで、社会に出て恥じぬようきちんと教育を受ける。この国では、12歳になったら一人前と見なされ、社会に出て働きに出ることを許される。


「痛いところは本当にない?」


 アンナさんは、スープを食べる私に悄然気味に言う。私がこうなった原因は自分にあると、思っているのかもしれない。

 私は口に運ぼうとしていたスプーンを止め、出来るだけ大丈夫だと示すように、笑顔で「アンナさんが作ってくれた美味しいスープを食べたら、元気になりました!」と言った。……ちょっとよそよそしかったか。

 アンナさんは目をまんまるにし、しばらくぱちぱちと瞬きを繰り返すと、止めていた息を吐き出すように小さく笑った。


「……そう、それは良かったわ」


 ホッと一息つく。

 良かった。ここ以外で私の居場所はない。この世界がどんなところなのかも分からない今のうちは、猫をかぶってでも信用してもらわなければ。

 私は、木彫りのスプーンでくるくるとスープを混ぜる。トマトベースのそれで、味付けは塩のみだろう。酸味が強くて、子供はあまり好きじゃなさそうな味だ。角切りのじゃがいもが入っていて、口に入れると解けて喉に引っかかった。


 それと、とアンナさんは続けて言った。

 私はスープから顔を上げる。


「私のことは、"アンナさん"じゃなくて"ママ"と呼びなさい。いくら仮の家だとしても、私はみんなの親だと思っているわ」


「せめて形だけでも取繕わせて」と言うアンナさん──ママ。清らかな小川に輝く陽の光を愛でるように私を見つめる。穏やかに柔らかな絹のように微笑んだ。茜色の木漏れ日が、ママを照らす。透き通った空色の瞳がキラキラ光る。

 私は呆然と、彼女に見惚れてしまった。


「大丈夫だよママ」


 私は思った。きっとこの人は、信用出来る人だ。


「記憶がなくても、ママはママだよ」


 こんなに優しく笑う人は、今まで見たことがない。

 私の思いが伝わったのか、ママは撫でるように静かに笑った。



「よおノロマ。頭は無事だったか?」


 施設の中をママが案内してくれていると、廊下を歩いていたボサボサ頭の肌黒い男の子に話しかけられた。

 誰がノロマだって?


「だめよダニー。そんな汚い言葉使っちゃいけません」

「ごめんなさぁい、ママ」


 ダニーと呼ばれた男の子は、ムッと口を尖らせていた私に目をやると、フンと嘲笑し立ち去った。彼の後に、ダニーより幼い3人の男の子が子分のように続いていった。

 私はダニーたちが見えなくなるまで睨む。

 あれは典型的ないじめっ子気質だ。人を小馬鹿にすることで、自身の自尊心を保とうとする。裏を返せば、自信のない証拠と言えよう。孤児というのだから、それも致し方のないことかもしれないが──。

 私は、見えなくなった廊下の角に背を向ける。

 それでもやっぱり、腹の立つのは変わらない。


「ごめんなさいね、タミア。許してあげて。あの子、両親との別れ方がちょっと……」



 私は、木に引っかかった帽子を取ろうとして足を滑らせたらしい。まったく覚えがない。

 女性が食事を作ってくれた。具があまりないスープとパン。不味くはない。

 女性が言うには、ここは孤児院。読み書きと家事全般、そして神学の一端を教え込まれる。

 12歳になったら、誰かに買われて働きに行くそう。ここは働き手を出す派遣会社みたいなものか。神様がいる場所で、人を売り買いしてる。皮肉だ。

 私以外にも、10人ほど子供がいる。ちょうど明日、12歳の男の子が主人の元へ働きに行く。

 夜。男の子が私のいる部屋に来た。仲が良かったらしい。さよならを言うのかと思ったら、私にここを抜け出すように言った。


「ここにいてはいけない。自分の人生は、自分で決めなくちゃダメだ。このまま一生、望まない人の下で働いて、何も考えずに一生を終えるのは悲しいことだ。これから僕はここを抜け出す。君も一緒に行こう」


「他のみんなは?」


「……ダメだ。みんなに話してる時間なんてないし、外には憲兵がうろついてる。この国は反逆者に厳しい。子供でも殺される。君と僕だけでも逃げるんだ」


「逃げてどうするの? 危険だよ! ねぇ考え直そう? 働き先が良いところかもしれないし、逃げ出すのだって向こうに行ってからでも遅くないよ」


「……無理だよ。国境なんだ。行けばもう君とは会えない」


 お互いの間に沈黙がおちる。


「今、ここで決めてくれ」


 何も言えなかった。迷いがあった。優しくて暖かい掌だったあの女性が、私は捨てきれなかった。

 見越した男の子。苦しそうに悲しそうに「分かった」と言う。男の子は、私に濃い青の宝石がついたネックレスを渡す。医師に直接穴を開け、そこに麻紐を通しただけの簡素なもの。


「ラピスラズリっていう石なんだ。お守りに持ってて」


 男の子を見つめる私。

 男の子は私に笑いかけ「元気でね」と言って部屋を出て行った。


 よく朝、男の子が死んだことを告げられた。

2018.03.28(仮)

   完成(未定)

   次話 (未定)

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