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I Am Knight  作者: 左崎祥兵
2/2

その1

 任務から帰還するための馬車の中、前の席で俺と向き合って座る師匠は眠りについていた。

 戦闘した後とはいえ縦横無尽にはねる馬車の中でよく眠れるものだと思う。

 師匠の弟子になったのは今から一年前の事だ。

 俺たちの国ブリト王国で騎士になるには、子供ころから騎士を育成するための学校に入学して卒業するのと、国内各地で行われる選抜試験に合格するの二つの方法がある。

 ただし、学校に入学できるのは貴族の家の出身者だけなので、騎士の大半は後者で選ばれた平民だ。

 騎士として功績をあげれば最下級の貴族にはなれるので、それを目当てに騎士になるものも多い。

 学校出身の貴族騎士は卒業組、試験を受けて騎士になった平民は試験組とお互いに呼び合っている。

 なぜ、そんなことになっているかといえば、身分の高い奴と低い人がそろうと無駄な対立が生まれるのは騎士でも変わらないからだ。

 騎士学校出身者は最初から中級騎士で入団でき、試験合格者は下級騎士として入団する。

 指揮官として隊を率いることができる中級騎士と、最下級として走り回る下級騎士の差は大きく、現場で命がけで功績を挙げなければ昇級できない試験組からしてみれば、座学と命の危険がない演習や実習しかこなしておらず実戦を知らない貴族に命令されるのはたまらないのだろう。

 ただ、そんな軋轢も上級騎士になればなくならないまでもマシになる。

 上級騎士になるには卒業組だろうが試験組だろうが実戦で高い戦果を挙げる必要があるため、騎士といえども自分が戦わなければならないのだ。

 死線をくぐり続ければ、身分関係なく協力しなければならないと身をもって思い知るのだ。

 当然、考えの変わらない頑固者もいるが。

 ちなみに俺は学校出身者だ。

 家はブリト王国建国時から騎士として王家に使えている、いわば生まれながらのエリートというやつだ。

 そして目の前の師匠は、王都から離れた平凡な農村出身らしい。

 らしいというのは、試験合格者たちは無駄な対立を防ぐために出身の町や村の情報を公開されていないからだ。

 騎士団による調査で身分ははっきりしているが、村同士の対立だとかを内部に持ち込ませないためにそうしているの。

 十二歳で試験に合格してがむしゃらに働いてたらグランドナイトになってたというのは本人の談だ。

 ちなみに騎士学校の卒業年齢は十六歳、で試験を受験できるのは十二歳から。

 つまり、受験できるようになった年に受験して合格した上にそのままグランドナイトまで突っ走ったというわけで、おまけに史上最年少という箔までついている。

 そして、学校入学の年齢は六歳で、六年かけて騎士としての知識や基礎体力を鍛え、次の四年間で下級騎士の実習を受け、十六歳で卒業とともに、中級騎士に昇進という過程なので卒業組が完全な温室育ちなのかといえばそうではなく、実戦の経験は確かにないものの、中級騎士に必要な最低限の要素は持っているのだ。

 それはカリキュラムとして学校の外部にも公開されているので試験組も知っていることだ。

 なら何が対立の根本的な原因なのかというと、なんということはない。

 卒業組は単純に試験組を見下しているだけで、試験組はなりたいから騎士になったのに、決してそうではなく、ただ漠然となれるから騎士になったという奴が大半の卒業組が気に入らないのだ。

 身も蓋もないい方をすれば貴族として生まれれば最低でも学校に入学すれば騎士という職業につくことができるので、安定した収入が約束される。

 しかし王都から遠く離れた農村では安定した収入がないので生活するので精いっぱいというのも珍しくはない。

 だから、騎士になりたがるのだ。

 昔は王国を守るヒーローだった騎士も今では遊び惚けていた貴族の吹き溜まりという、見方も強い。

 そんなわけでいがみ合ってまとまりがないのが今の王国騎士の実状だ。

 しかし、そういったしがらみにとらわれていないのが、師匠をはじめとしたグランドナイトだ。

 エリート、たたき上げ問わず絶対的な実力を持つが故に選ばれる彼らは国王直々に自由に行動することが認められているので、そもそもとしてまとまる気がない。

 勝手気ままに自分の勢力を築きあげてほかのグランドナイトとは不可侵条約を結んでいる。

 他の勢力に邪魔されないのなら他といがみ合う必要がないというわけだ。

 師匠はというと、戦えれば満足という人なので勢力を大きくする気もないらしく、弟子の俺が唯一の配下として扱われている。

 本人曰く、

「勢力だのなんだのくだらない。戦えればそれでいい」

 とのことで、入団試験を受けたのもそんな感じらしい。

 そういう人なので、試験組からしてみれば印象最悪であろう純貴族の俺相手でも特に気にすることなく、 面と向かって「私の弟子になれ」と強引な勧誘が成立したというわけだ。

 俺のほうも、最年少でグランドナイトに選ばれたという実力が気になったので弟子入りを受け入れたわけだが、その実力のほどはさっきの通り桁違いである。

 追いつける気がしないというのが正直な感想だ。

 ふいに馬車の動きが止まった。

 窓から外を見ると、王都の正門についたようだ。

「あ~……着いちまったか」

 大きなため息をつきながら師匠が言う。

「面倒くさいなぁ報告するの。自由にできるからグランドナイトになったのになんも変わらない。報告しといてくれラヴェイン」

「報告は隊長の役目ですよ」

 任務では常に騎士団単位で行動するわけではない。

 騎士団の中から数人で隊を組み、その中で最も階級が高いものを隊長にして遂行する。

 基本的には下位階級四人に対して上位階級一人が基本だ。

 グランドナイトの師匠は当然誰と組んでも隊長になる。

 隊長はその隊の責任者なので任務の結果報告の義務があるのだ。

 余程のことが、それこそ意識不明の重体にでもならない限り本人による報告が原則である。

「王国臣民に被害は出ませんでしたが村は滅びましたなんて報告したら怒られてしまう」

 グランドナイトは騎士の最高位。

 当然任務の結果も最上のものが求められる。

 今回の任務は村を助けてほしいというものだったので、【臣民はもちろん、村にも被害は出ませんでした】という報告が求められる。

 たとえそれが村に着くまで馬車で一日かかるとしてもだ。

「グランドナイトなんて引き受けるものではなかったな。どう考えても良いことよりも悪いことのほうが多い」

 自由に行動したいという理由でグランドナイト就任を引き受けたらしい師匠だが、「行動の自由と引き換えに精神の自由を失ってしまった」としきりにぼやいている。

「はぁ、仕方ない。気が進まないが行ってくるよ。先に店で待っててくれ」

 任務として発行された時点ですでに手遅れなのは明らかじゃないか……。

 俺はそんなことをぼやいて肩を落としながら師匠が正門をくぐるのを見送った。

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