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I Am Knight  作者: 左崎祥兵
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プロローグ

「ブモォォォォォォォ!!」

 周囲を震えさせるほどの雄たけびとともに細い丸太ほどの太さを誇る両腕から巨大な両手斧が振り下ろされる。

 岩をも砕く一撃に側面を両手剣ではじく。

 右側へ多少ずれる斧に対して剣を繰り出した俺の上体は大きく左へと傾く。

 力の差は明確だった。

 大きな破壊音を立てて地面にめり込んだ両手斧を引き抜き、ゆっくりと斧を構えるその姿は人とシル エットこそ似通っているものの、実体は大きく異なっている。

 二Mを越すブラウンのごわついた毛におおわれた巨体に天を衝く二本の剛角の生えた牛顔。

 ミノタウロス。

 それが今俺が対峙している生物の名前だ。当然人間ではなく、本来はこの人間界ではなく、海の向こうの魔大陸で生きているはずの生き物だ。

 見た目もそうだが、何よりの特徴は今も見せた人間とは比べ物にならない剛力。

 当然斧を持っていようが持っていまいが関係なく、まともに食らえば俺などひとたまりもない。

 そんな遭遇するどころか、遠巻きに見かけただけでも避難が推奨されるバケモノとなんで俺が戦闘しているかといえば、それが仕事だからというほかない。

 ブリト王国王国騎士団内金獅子騎士団所属中級騎士。

 そんなアホほど長ったらしいのが俺の肩書だ。

 騎士とは目の前のミノタウロスのような魔族から王国の一般市民を守るのが仕事だ。

 つまり、魔大陸から人間界にやってきたミノタウロスを討伐するためにここにいるというわけだ。

「よくもまぁ暴れてくれたものだ」

 周りを見渡してみれば小さな村だったはずのこの場所で原形をとどめている建物は一切ない。

 住民は近隣の町に避難しているので人的被害こそ出ていないが、こうなると最早新しく村を作るほうが早いだろう。

「どう落とし前をつけてくれるんだ?」

 どう考えても人語が通じないであろう牛のバケモノに対して問いかける。もちろん答えは期待していない。

「ブモォォォォォォォ!!」

 再び雄たけびを上げてミノタウロスは両手斧を今度は横薙ぎにはらってくる。

 縦が無理なら横へということだろう。

 だが狭く逃げ場がない屋内ならともかく開けた屋外で小細工なしの大振りの攻撃が当たるわけはない。

 バックステップでかわしつつ距離をとる。

「パワー馬鹿め。もう少し考えて攻撃してこい」

 当たればひとたまりもない攻撃も当たらなければどうということはないのだ。

「さて、遊びはここまでにしておくか」

両手剣を上段に構える。

 ある程度距離が離されて自慢の斧も通じない相手に対してミノタウロスがしてくる行動は一つしかない。

「ブフゥゥゥゥゥゥ!!」

 斧を地面にたたきつけ、前傾姿勢をとり右足の蹄で地面をひっかき始める。

 誰がどう見てもわかる突進に備えた行動。

 相手目掛けて全速力で突撃し自慢の角で刺し貫く、ミノタウロスの最大にして最強の切り札。

 準備の整ったミノタウロスは予想通り俺めがけて全速力で突っ込んできた。

 ご丁寧に両手を広げて回避しづらくしてくるおまけ付きで。

 ミノタウロスのパワーだと指先を掠めるだけでもシャレにならない威力がある。

 だが当然こちらもただ見ているわけではない。

 足を前後に広げ、全身に力を入れて、上段に掲げた両手剣を思い切り、後先を考えずに全力で振り下ろす。

 切れ味よりも強度と重量を優先した特注の両手剣はミノタウロスの頭蓋と脊椎を切り裂いてなお多少の刃こぼれで済んだ。

 が、自分よりも巨大な質量弾と正面からぶつかって無事で済むわけもなく、俺の体は後方へ吹っ飛び民家の残骸へと突っ込む。

「ガハッ…!!」

 回避しきれない以上無理に躱すよりも迎え撃つことに集中するという判断はミノタウロスを仕留めることに成功こそしたものの、俺の体にも決して小さくないダメージを与えた。

 口の中に広がる血の味と全身に広がる激痛。

 立ち上がろうとしても体は思うように動かない。

 ミノタウロス以外に魔族の報告がなかったのが唯一の幸いだった。

「一体でもしんどいな」

 何とか立ち上がり軽く服についた埃を払いながら考える。

 そう、ミノタウロス以外の魔族がいるという報告は受けていない。

 ただし一体ではなく、二十体という報告を受けている。

 今回ミノタウロス討伐の任務に赴いたのは俺ともう一人。

 俺よりは強い人だが、一体でもしんどいこの化け物には二人で当たったほうがいいだろう。

 一対一を繰り返すのではなく、二対一を二十回繰り返すべきだと進言する俺をあの人は時間がかかりすぎると断じて二手に分かれた。

 だが、戦ってみて時間がかかっても二対一を繰り返すべきだと断言できる。

「早く増援に行ったほうがいいな…」

 まだ痛みの残る体を押して一緒に任務に参加した人を探して動き出す。

 そこで俺は知ることになった。

 時間がかかりすぎるという言葉が嘘偽りでも、慢心でもないことを。

「ブモォォォォォォォ!!」

 探して歩き回った果てに崖にたどり着いた俺の耳に届いたのはミノタウロスの雄たけび。

 視線を下に向けると目に入ったのはさっきも目にした前傾姿勢を取るミノタウロスとそれに対峙する探していた相方の女性。

 金の短髪に黒いノースリーブと短パンの上にロングコートというブリト女性騎士の制服を身に纏い、蓬莱地方で使われているという方天戟という長柄の武器を担いでいる。

 総勢約三十万のブリト騎士の中からわずか十三名選ばれる頂点、【グランドナイト】。

 それに最年少で選ばれ最強の騎士の名を欲しいがままにする天才騎士。

 ミルドレッド・クロス・スパイン。

 なぜか目をかけられて弟子にされた。

 そして本来は俺と同じ中級騎士たちに来て十人以上の集団でこなすはずだったこの依頼を師匠と俺の二人だけでこなす羽目になった現況でもある。

 よく見ると対峙する一人と一体の周りには十八体のミノタウロスが円を描くように並んでいる。

 つまり、俺が討伐した一体の残りがすべてここにそろっているのだ。

 崖の下はそのまま住民たちが避難した村まで続いているのでそっちに進攻しようとしたのを師匠が止める形になったのだろう。

「いたいけな乙女を捕まえて取り囲むなんてひどいとは思わないか?ラヴェイン」

 師匠が背後にいる俺を振り向き話しかけてくる。

 十九体のミノタウロスに囲まれてなお余裕があるということだ。

 というか、なぜ崖の上の俺に気づいたのだろうか?

「まぁいい。加勢しようなどと思うなよ?お前を守る余裕があるかはわからん」

 こっちを向いたことで師匠の背後に位置することになったミノタウロスがニッと醜悪な笑みを浮かべる。

「師匠!!後ろ!!!」

 そう叫んだ時にはすでにミノタウロスは師匠めがけて突進を開始していた。

 これから目の前に広がるであろう惨劇を想像して一瞬目を瞑ってしまう。

 真っ暗な視界の中ドゴン!!と激突音が響く。次いで聞こえる

「ブムゥゥ!!」

 ミノタウロスの唸る声。

 恐る恐る目を開くとあり得ない光景が目に広がっていた。

 前へ進もうとしてむなしく足で地面を擦るミノタウロスと前に突き出された頭部を左手で抑える直立不動の師匠。

「乙女に不意打ちとは男の風上にも置けないやつだ」

 事も無げに抑えつけるミノタウロスを見やりそう吐き捨て、担いだ方天戟を一薙ぎ。

 方天戟の側面の半月状の刃はミノタウロスの体をたやすく両断する。

「力自慢のミノタウロスがあっさり力負けしていては世話がないな」

 同胞を殺された怒りか言葉を理解したのか、ともかく周りを囲んでいた十八体のミノタウロスが一斉に中央にたたずむ師匠めがけて走り出す。

「寄ってたかればチャンスがあるとでも思ったか!?」

 そう叫び師匠が地面に左手を叩きつける。

 瞬間、そこを中心に紫色の雷が地を這いミノタウロス達に襲い掛かる。

「ブグッ…!!」

 全身が痺れたのかすべてのミノタウロスが雷に打たれその歩みを止める。

「フンッ!!」

 師匠が方天戟を両手で構えその場でぐるりと一回転。

 十八体いたミノタウロスは一体残らず両断され地に倒れ伏した。

「他愛なし。所詮はケダモノだな」

 ふたたび方天戟を肩に担ぎ吐き捨てる。

「帰るぞ、ラヴェイン。任務は終了だ」

 騎士の階級は四つ。

 下級騎士から始まって、中級、上級、そしてグランドナイト。

 自慢じゃないが自分の実力は上級騎士にも引けを取らないと思っていたし、今でもそう思っている。

 だが、それでも理解させられてしまう。

 グランドナイトは格が違う。

 騎士になって二年たって初めて見た師匠の戦いを見てそう思った。

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